おジャ魔女どれみNEXT
第3話「どれみの魔法」
2/4
「……見える。俺にも…見える」
 それは大河内との練習の成果だろうか、小竹にはキーパーの死角が的確に見えていた。
「先輩に比べれば、甘いもんだ!」
 小竹の放ったシュートはゴールに吸い込まれて行った。美空中は一点先取した。

「やるじゃん、小竹っ」
 どれみは小竹の活躍に飛び跳ねて喜んでいる。小竹はそんなどれみにVサインを送った。

 その後、武生中の猛反撃が始まる。しかし鉄壁のキーパー大河内から点を取る事はできなかった。レオンとトオルは次第に焦りを募らせていく。
「点がはいらない…このままじゃ負ける」
「あのキーパー、かなりパーフェクトだ」
 美空中ゴール前の攻防。レオンは隙をついて、ゴール左隅に強烈なシュートを放った。
「ミィはナンバー1!ユーはナンバー2!」
 レオンは叫びながら指を弾いた。完全にコースを予測してカバーに入った大河内だったが、予想に反してボールは多く曲がり、ゴール逆サイドへと流れて行った。
「そんな馬鹿なっ」
 理不尽に逆をつかれた大河内は叫ぶ。
「よぉーし!」
 レオンが声を上げる。しかし、ゴールラインを割る直前に小竹の足がボールをカットした。
「やらせるかよっ」
 しかし浮いたボールにトオルが合わせて宙を舞っている。それに気がついた小竹もジャンプする。空中で接触した二人はバランスを崩して落下した。
ピィーーッ
 審判の笛で武生中側にペナルティキックが与えられた。
「先輩、すいません」
 小竹は落ちた時に打った肩を押さえながら謝った。
「いや、さっきのを良く防いでくれた。今度はオレが止めるから、安心しろ」
 大河内はそう言って小竹を安心させた。美空中イレブンはゴール前に壁を作る。武生中側のキッカーは暁だった。
「レオン君、さっき…まさか…」
「暁君、きめてくれ」
 暁の問いにレオンはそう返して、持ち場に戻って行った。
「今は勝負の事だけを考えるっ!」
 暁の渾身のシュートは美空中の壁の上を超えて、ゴール前でダウンするドライブ回転がかけられていた。大河内はそれに反応し、構えるが、ボールは下降が足りなくてゴールバーにぶつかる軌道を取っていた。大河内は呟いた
「入らないな」
「ダメなのかっ」
 暁は悔しそうに目をそらした。その後でトオルは指を弾いた。暁はその僅かな音に気がついて振り返った。
「トオル君!」
 ボールは軌道を変えて、ギリギリでゴールに飛び込んできた。
「何ィ!」
 不意をつかれた大河内は、咄嗟に跳んだが届かない。そのまま、不安定な体勢で着地して足を捻ってしまう。大河内は足の痛みに耐えながら、信じられないようにゴールバーを見上げている。
「トオル君、それはダメなんだよ!」
 暁はトオルに叫ぶ。
「ファッツ?暁君、どうした?」
 そこにレオンが駆け込んできた。
「魔法を使っては意味が無いんだ」
 暁は二人に小声で告げた。
「魔法使いが魔法を使って何がわるいんだよ」
「これはミィ達の特殊能力さっ!」
 二人は反論する。
「やっぱり、レオン君、さっきのシュートも…確かに僕等は魔法使いだ。でもここは人間界なんだ。ここではここのルールに、人間に合わせるべきなんだよ」
「魔法を使ってはいけないというルールがあるのかい、人間界に!」
 トオルがそう言うとレオンも頷く。
「そうじゃないんだ、…魔法を使って得た勝利に意味は無いと思うんだ。いや、思うようになったんだ。そしてこれは人間との共存につながると…」
「でも勝たないと意味がナッシングだよ」
「僕が求めているの物は、勝ち負けを超えた何かなんだ」
 暁の言葉に二人は戸惑っていたが、
「暁君、わかったよ、もう魔法は使わない。その代わり、その何かを見せてくれ」
「ミィも期待しているよ」
 二人に暁は頷いた。

『魔法はダメだよ…男らしく無いよ…』
 暁は昨年の春、京都でどれみと再開した時の事を思い出していた。あの時のどれみの悲しそうな顔が頭から離れない。そして美空中ベンチに居るどれみを見つめる。
「…どれみちゃん」
 どれみは、暁達のやりとりと辛そうな暁の表情を見て呟いた。
「暁君、わかってくれたんだね」

 残り時間僅か。美空中の反撃が始まる。ボールをキープした小竹は再び暁と対峙していた。
「はぁはぁっ!」
 小竹の体力は限界に来ていた。さすがに一年の小竹にはまだフル出場で走り回れるほど体力が出来ていなかった。それでも気合で暁と渡り合っていた。
「さすがだよ小竹君。でも君はもっとやるべき事があるんじゃないのか、簡単な事だろう!」
「何を言っているんだっ!」
 小竹は暁に聞き返した。
「これが最後の勝負になるんだぞっ!これはチャンスなんだぞっ!」
 暁は異常なほど気合を入れてくる。それに相乗して小竹にも気合が入る。
“バシィ!!”
 二人は向かい合ってボールを同時に蹴った。二人の力が両方から加わる。力比べが続く。
「うぉぉぉーっ!」
「てぇゃゃーっ!」
 小竹は蹴りあっているボールから暁の心が流れ込んでくる気がした。
(なんだ、この少し悲しい、切ない気持ちはっ)
 それは小竹の想像していなかった感情だった。この隙をついて小竹は競り勝って、暁を抜いた。
「見事だ、小竹君…」
 しかし体力の限界に来ていた小竹は、パスを送って倒れた。熱気の中、小竹の意識は遠くなっていく。