おジャ魔女どれみNEXT
第6話「ももこの微風」
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 マジョバニラはその言葉に首を傾げる。ももこは続けた。
「私…本格的にパテェシエの修行を始めたい……」
「なんだ、そんな事か…もちろんだ。マジョモンローに代わって私が、私の持つパテェシエの技術の全てをももこに教えるつもりだ」
 何を今更という感じのマジョバニラに対し、ももこは感激して、マジョバニラに抱きつく。
「師匠、嬉しゅうございます〜」
 何に影響された言葉か、ももこは叫んでいた。こうしてももこのパテェシエ修行が始まるのだった。

 少し前の過去に思いを馳せていたももこはふと我に返り、自転車の鍵をかけて、店に入った。
「ももこ、すまない…これを頼む」
 荷物を置いたももこにマジョバニラがケーキの入った箱とメモを持って来た。ももこはそれを受け取って、元気に答える。
「ラジャー!」
 ももこはそれを持って、外に出る。メモには住所と名前、そして時間が書かれていた。ももこはケーキの入った箱を自転車の後ろの荷台に固定し、自転車に跨った。
「行くよ」
 自転車はゆっくり進みだし、次第にスピードに乗って行く。お菓子のデリバリーサービス。ももこが言い出したサービスだった。より多くの人に自分達の作ったお菓子を食べてもらいたい。ももこはそんな気持ちでペダルをこいだ。

 赤いクラシックなオープンカーが風を切り裂いて、直線の道路を走り抜けていく。乗っているのは、栗色のボリュームのある髪を後ろで束ねている若い女だった。額にはバンダナが目立っている。目は鋭く道の先を見つめている。女は迷いか何かを振り切るようにスピードを上げた。彼女が自らチューンナップした車は、まるで悲鳴を上げるようにスピードを上げていく。普段ならその声に気付くはずの彼女なのだが、この時は違っていた。
「どうして裏切ったんだ」
 女は小さく呟いた。一瞬だが心ここにあらずといった感じの女は、我に帰ると、目前に急カーブが迫ってきていた。完全に遅れて急ハンドルを切る。赤い車のタイヤは突き刺さるような悲鳴を上げた。

「ごめんなさい…パーティ、お友達の家に変更になったのよ」
 ももこは届け先の玄関でメイド風の女性にそう言われ、その変更先の住所を教えてもらった。そして笑顔で告げる。
「必ずお届けしますよ」
 挨拶をして、その家を出てすぐの路肩に停めてある自転車に向かおうとすると…。
“キュキュキュ〜〜”
 車のタイヤがスリップする音に続いて赤い車が目に飛び込んで来た。そして、
“ガッシャ〜ン!”
 赤い車はももこの自転車と激突、軽い自転車は跳ね飛ばされ放物線の先に落下。パーツを撒き散らした。車は路肩に乗り上げ停車した。ここまでをももこは唖然と見ていたが、ふと我に帰り、赤い車に駆け寄って行く。
「大丈夫ですか〜」
 運転手の女性は首を振って状況を把握し呟いた。
「…しまった」
 ももこは相手が無事なのがわかると文句に切り替える。
「ちょっと〜…私の自転車!」
 二人は顔を合わせた。お互いに何故か始めてあった気がしなかった。

 女性は車を降りて、ももこの自転車のパーツを掻き集めに行く。ももこのそれに続いて手伝う。
「すまない事をした。必ず元通りに直すから…許して」
 その女性の真摯な態度にももこは、さらっと許してしまう。
「私も手伝うから」
 そう言うとももこは笑った。そして名乗る。
「私、飛鳥ももこ…あなたは?」
「………ランだ」
 やや間があって、女性はランと名乗った。何かを言い改めた感じがする。が、ももこはそんな事より、大事な事を思い出して声をあげた。
「あっ、パーティのケーキを時間までに届けないと〜」
 ランは集めたパーツを担いで、車の後部座席に押し込んだ。そしてももこに言う。
「乗って、送るから」
 ももこは助手席に乗り込んだ。
「助かるわ〜」
「私のせいで、自転車使えなくなったんだから…当然よ」
 と言いながら、ランは車を走らせた。

 心地よい風を受けながら、ももこは何となく尋ねた。
「ランさんって、何をしている人?」
 ランは運転しながら、しばし考えて答えた。
「今は旅人って感じかな…この世界が好きなんだ。もっといろんな物を見てみたい」
「ふーん、そーなんだ凄いよ。かっこいい。…でもランさん、旅人って感じじゃないような……」
 ももこは感心しながら首を傾げる。
「じゃ、何なの?」
 ももこは考えた。そして…。
「う〜ん…板前さん…かな」
「…何で?」
 ランは笑った。そして伏せ目がちに言う。
「それ、以前にも言われた事ある…」
「やっぱ、そー見えるんだよ」
 ももこは自分だけじゃないんだと嬉しがるが、その話をするランの表情は複雑そうだった。やがて目的の家に着いた。ももこはケーキの箱を持って、その家の玄関へと駆けて行った。
「不思議だ……まるで、どれみといるみたいだ」
 ももこの後ろ姿を見つめながら、ランは呟いた。

 ランは戻ってきたももこを乗せて、再び車を走らせる。
「次はどちらへまいりましょう?」
 わざとらしく遜って言うランに、ももこは吹き出す。
「そ…それじゃ、ももの手伝っている店にお願いします」
「店って?」
 ランは尋ねる。
「小さな可愛いお菓子屋さん。でも味は絶品。私、将来…パテェシエになるんだ」
「そうなんだ……次、どっち?」
 交差点に差し掛かり、ランは道を尋ねた。ももこは左を指差す。