おジャ魔女どれみNEXT
第7話「ももこは神風」
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「助かります。教師が遅刻なんて…格好悪いですからね」
 女性は頭をかきながら言った。
「これで、しばらくは走れますが、あとで専門の整備士に見てもらった方が良いでしょう」
「ありがとう感謝します」
 女性はバイクに跨って走り去って行った。

「ももこ、まだ休み貰っていないの!」
 ベスがももこの言葉を聞いて声をあげる。
「うん、ここ数日、いろいろとあって……」
 ももこは言い訳する。いろいろとはマジョランの事などだった。
「大丈夫ですの?」
 メアリーは心配そうに尋ねる。
「ももこさんが一緒でないと、つまらないわ」
 さちこは切実そうに言う。
「ドンウォーリィ、絶対、行くから。私も行きたいし!」
 ももこはそういうと、ブイサインを見せた。

 学校が終わり、すぐさまももこはMAHO堂に向かった。MAHO堂ではマジョランが店の手伝いをさせられていた。
「ももこ、早く手伝って」
 マジョランはももこに助けを求めるように言う。ちょうど、その時間は客の入りが良く、混雑していた。ももこはマジョバニラと話す間もなく、作業を開始せざるをえなかった。

 一時間程して、ようやく客足も途絶え、ももこ達も一息つけるようになった。そしてももこはマジョバニラに休みの件の話をしようとした。
「あのね、マジョバニラ…日曜なんだけど」
 ももこは言い難そうに切り出す。日曜が一番忙しく、人手が必要な事を知っているからだ。マジョバニラは不思議そうに振り返ってももこを見つめる。そこに一人の客が入ってきた。カウンターに入っていたマジョランが接客を始めようとして、声を掛けるが。
「いらっしゃいませ……あなたは今朝の」
 その客は、マジョランが今朝出会ったバイクの女性だった。女性の方もそれに気が付いて、頭を下げる。
「今朝は助かりました。まさかここで会えるなんて」
 と言いながら、二人は笑顔を交わした。
「何にしますか?」
「いや…その、飛鳥に頼みがあって来たんだ」
 女性は言い難そうに言う。
「…飛鳥?…ももこの事?」
 マジョランは首を傾げ、そう呟くと厨房でマジョバニラと話していたももこを呼んだ。呼ばれたももこが出てくる。
「関先生、いらっしゃい」
 ももこはその客の名を呼び、笑顔で言う。
「ももこに頼みがあるそうだ」
 マジョランはももこに告げる。
「何ですか?関先生」
 未だ言い難そうにしている関先生にももこが尋ねる。関先生は意を決して話し出した。
「実はね…今度の土曜に、仲間内で結婚パーティをしようと思っているんだ。そこで出す、ウェディングケーキを頼みたいんだ…飛鳥に」
「先生のウェディングケーキを…ももが……」
 ももこは関先生の結婚話に嬉しそうにしていたが、そのウェディングケーキを作る事に少し戸惑いを感じた。
「飛鳥…無理か?」
 関先生は済まなさそうに呟く。
「ウェディングケーキと言えば、祝いのお菓子の最高峰。それを教え子が作ったとなれば、喜びもひとしおでしょうね……引き受けます。ももこオリジナルデザインのウェディングケーキを必ずお届けします」
「オーナーっ!」
 厨房から出てきたマジョバニラが引き受けてしまうのに、ももこは声をあげた。しかしももこを見つめるマジョバニラの目は“これも修行”と言っている様だった。
「頼むよ、飛鳥」
 そう言うと関先生は嬉しそうに店を出て行った。

「どうして、迷ったんだ?」
 関先生が帰った後、マジョランはももこに尋ねた。
「結婚式は人生で大事なイベントだよ…そこに半人前のもものケーキを出すなんて…」
 ももこは小さく答えた。
「じゃ、この店で売っているももこの作ったケーキは全て、半人前のケーキと言う事か?そんな物を商品として売っているという事か」
 マジョバニラは少し厳しく告げる。ももこはハッと顔をあげる。
「…そ、それは」
「もっと、自信を持て…あの客の求めるケーキは、ももこ…お前にしか作れないんだ」
 マジョバニラは今度は優しく言い聞かせる。
「私にしか…作れない」
 ももこは何かを感じたように呟く。
「マジョバニラ、もも、やるよ。土曜までにもものスペシャルオリジナルウェディングケーキを創作してみせる!」
 ももこは背中に炎を背負う勢いで燃え上がっていた。そんなももこをマジョランは興味深そうに見つめていた。
「ももこのオリジナルウェディングケーキ、楽しみにしている。出来次第では日曜を休みにしてもいい」
 マジョバニラはそう言って、厨房へ戻って行った。
「マジョバニラ…わかっていたんだ」
 ももこはマジョバニラの後姿を見つめながら呟いた。

 その日から、開店中の手の開いた時と閉店後の厨房を使って、ももこの創作活動が始まった。マジョランはその手伝いをしていた。マジョバニラは見ているだけで、一切手を貸そうとしなかった。そして、あっという間に金曜の晩がやってきた。閉店後の厨房でももこはケーキのスポンジを焼きながら焦っていた。まだアイディアの構想が出来上がっていないのだ。
「無難に一般的なケーキにしてみたらどうだ?ももこが作ったと言うだけで、あの先生には価値があるんだから」
 マジョランはももこに提案してみる。しかしももこは首を横に振り拒絶するように叫ぶ。
「ダメだよ。これは特別なお菓子なんだ。特別じゃなきゃいけないんだ」
「ももこにとってそれだけ特別な先生なんだね」
 マジョランは優しい瞳で言う。ももこはその言葉に頷く。