おジャ魔女どれみNEXT
第8話「おんぷの疑惑」
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「さっ、春風君、次、行くよ!」
 おんぷはどれみの手を引いて水族館を後にした。
「今日は特別だからね」
 おんぷは嬉しそうに言う。
「そーだね、思いっきり行こう!」
 どれみも気合を込めて、手を挙げた。
“もっと、一緒に居たい。いろんな事をしたい……恋ってこんな気持ちなのかな…それともどれみちゃんだから…”
 おんぷはそんな事を考えていた。

 その後、いろんな所でデートして、気が付くと、すっかり日も暮れていた。
「そろそろ帰らないとね、家まで送るよ」
「どれみちゃん…今日はありがとう。凄く楽しかったよ」
 おんぷは頬を赤らめながら言うが、辺りが暗いのでどれみは気が付いていない。
「実はね、私が好きになる男の子はこんな感じがいいなって感じで演じてみたの。それで喜んで貰えたのなら…嬉しいよ」
「そっか…」
 おんぷはそう言って複雑そうな顔をした。

 数日後。どれみは、友人の長門かよこと下校していた。
「横川さん、最近…おかしい様な気がするの」
 かよこは心配そうに言う。
「そーいえば…いつも眠たそうな顔してるっていうか、授業中寝てるね…よく」
 どれみは思い出したように言う。
「信子ちゃん…最近の睡眠時間、平均で3時間を切っているのよ」
 どれみとかよこは後ろから声をかけられた。それは小柄な少女だった。
「みほちゃん」
 どれみは振り返った。丸山みほは漫画家志望の同級生で、同じく小説家志望の横川信子と組んで数々の迷作…もとい名作を生み出していた。
「それじゃ…横川さんは新作の製作で」
 かよこがみほに尋ねると、みほは意味ありげに首を傾げる。
「新作って訳じゃないんだけどね…信子ちゃん大変そう」
 どれみとかよこも首を傾げてしまう。

「ただいま」
 帰宅したどれみは玄関でそう言いながら、靴を見てはづきが来ている事を知る。
「あれ、はづきちゃん来てるんだ…どうしたんだろう」
 呟いたどれみに、はづきとぽっぷが血相を変えて走りこんできた。
「どれみちゃん、大変よ!大変よ!もうお終いよ〜」
「お姉ちゃん、これはヤバイよ〜」
 焦って問いかけてくる二人にどれみは要領が掴めないでいると、はづきが手にしていた週刊誌を広げて見せた。
「はづきちゃん、週刊ミソラ読んでるの?」
「ママに借りてきたの、それよりもこの記事を読んで!」
 言われて、どれみはそのページを見る。タイトルは“瀬川おんぷお忍びデート激写”となっていて、かなり解像度の悪い写真が載っている。それはおんぷと男装したどれみの姿だった。
「はぅっ!」
 どれみは思わず小さく叫んだ。こんな大事になると思っていなかったのだ。
「とにかく、5時からおんぷちゃんが会見するって言ってるから…」
 ぽっぷがそう言うと、3人はリビングのテレビの前に行き電源を入れた。

 マジョルカの経営するアイドル事務所ルカ・エンタープライズでは、おんぷの週刊誌ネタの処理でてんやわんやだった。
「だから、その件に関しましては、本日5時より会見を行いますからっ!」
 怒鳴りつけるように言い放って、マジョルカは電話を切った。その途端に別の電話が鳴り響く。それをおんぷの母でマネージャーの瀬川美保がとって応対する。
「おんぷ、美保さん、そろそろ会見に行きますわよ!」
 マジョルカはそう言うと、出かける準備を始める。おんぷは部屋の隅にいるペルシャ猫に小さく話しかける。
「この前はありがと」
「まったく。こんな騒動を起してどうする気ぃ?」
 ペルシャ猫はマジョルカの妖精のへへの変化した姿だった。それがおんぷの耳元で言う。
「マジョルカはあなたのおかげでアリバイが出来たって言ってるわ」
 おんぷはそう言って、マジョルカの後について行った。

 テレビ局の控え室の一つで、少女が食い入るようにテレビを見ている。彼女は星河りずむ。ドラマ『明日のなぎさ』で主演を演じ、さらにおんぷと共演して、今注目を集めている新人アイドルだった。りずむの後のテーブルには週刊ミソラが置かれている。りずむは不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「これで、瀬川おんぷが消えてくれたら、ラッキーなんだけどね、そう上手くは行かないよね」
 りずむがテレビで見ているのはおんぷの会見の中継だった。ちょうど、会見場にマジョルカとおんぷが入ってきた所だった。

 大勢の記者の前に設置された机についたおんぷとマジョルカにカメラのフラッシュの洪水が押し寄せてくる。そして記者達が我先にと質問を投げかけてくる。
「この写真の男性は誰なんですか!」
「いつ位からお付き合いを!」
 それに対してマジョルカは静かに話し出す。
「その件につきましては私から説明させていただきます。率直に申し上げますと、それはうちの瀬川おんぷである可能性は低いと思われます」
「確かに暗くて写りは良くないが、これはどう見ても!」
 すぐさま記者達が反論する。どうしてもスクープにしたいようだ。
「うるさいわい!ハイエナどもがぁ!」
 いきなりマジョルカは怒鳴り声を上げる。一瞬会場が静まり返る。
「おほん…すいません。説明いたしますと…この日のこの時間帯、おんぷはラジオの生放送に出演しており、この写っている場所にいる事は不自然なのです」
「しかし、日付が違っていたとか、実は生じゃないとか、考えられませんか?」
「これ以上、説明する事はありません。シツコイと訴えて勝つわよ!」
 マジョルカは言い放つ。少し引いた記者達の取材対象はマジョルカからおんぷに移る。