おジャ魔女どれみNEXT
第10話「あいこの魅力」
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 その晩、あいこは自室で一人考え事をしていた。
“おんぷちゃんがスキャンダル覚悟であの子を妨害したのは…昔の自分を照らし合わせていて…同じ過ちを繰り返して欲しくなかったから”
 あいこはおんぷと初めて会った時の事を思い出していた。あの頃は平気で人の心を魔法で操るおんぷに振り回されっぱなしだった。
“そーいえば…白鳥さんは2組の日高りずむって子と仲が良い。日高りずむは芸能界では星河りずむを名乗っている。そしてふたりは魔女見習い…たぶん、一緒に修行している仲間やな…でも白鳥さんはずっと入院生活をしていた。それが6年の時から学校に来れる様になった。でも定期的に入院をしている。そして今日見た苦しそうな白鳥さん。まさか…ここにも魔法が絡んでいるとか…”
 あいこは難しい顔をしながら二人の事を心配する。
「あかん、これ以上考えても、埒あかんわ…二人に直接話聞いてみよ…」
 あいこは、今日はこの辺で切り上げて寝る事にした。

 あいかは自分の部屋で、例のノートに何やら書き込みをしながら、時々溜息をついていた。
「このノートも…もう5冊目。妹尾さんの事は別冊で1冊使い切りそうだわ…でも」
 あいかがいつも持ち歩いているこのノートには、あいかの周りの人々もデータが事細かに記されていた。それは特徴から口調、性格、その他大量な項目に渡っている。これらは元々幼い頃から入院生活を余儀なくされてきたあいかが暇つぶしで始めた身近な人物の情報収集が始まりだった。たくさんの人のデータを取って行くうちに、あいかには鋭い観察力と洞察力が備わっていた。
「でも…実際に話してみる事で得られる情報は桁違いね。そして…すごく魅力的な子だった」
 あいかはあいこの事を思い出すと、嬉しく、楽しい気持ちになれた。しかしすぐに感情を押し殺すように、傍らに開いていて週刊誌に目を落とす。それはおんぷとりずむの記事だった。
「りずむ……あなたをここまで追い詰めたのは…きっと私だわ…ごめんなさい」
 と呟いて、あいこの事が書き込まれたノートを見つめる。
「私には…りずむしか居ないの。りずむとあなた…両方と付き合うなんて許されない。だって…りずむは私の為に…」
 言いながら、あいかは俯いてしまう。涙を必死に堪えていた。

 翌朝、あいこはいつもより1時間早く起きた。皆の朝食とお弁当を手際良く作り、起きて来た父親に言う。
「お父ちゃん、行って来るわ」
「おうっ、今日はえらい早いな〜」
「ちょっとやることあんねん」
 と言いながら、あいこは家を出て行った。台所には家族分の朝食が美味しそうに並んでいた。しばらくして夜勤明けの母あつこが帰ってくる。
「どうしたの…あんた…」
「おかえり、あつこ…何かな、あいこ見てたら、俺もがんばらないかんなって思えてきてなぁ〜」
「そやね…あの子のおかげで凄く助かってる。でも本当はもっと普通の学生生活を送らせてあげたい」
「あつこ…」
 二人はしばらく台所で、あいこの作った朝食を眺めていた。

 朝の通学の電車。あいかは、いつしかあいこの姿を探すようになっていた。
「今日はいないのね」
 あいかは少し残念そうに呟く。仮にあいこがいたとしても、何をする訳でもないのだったが。学校に着いたあいかは、さり気無く教室の掃除を始めた。気持ちの良い一日を送るためのあいかの日課になっていた。
「やっぱり、早起き少女はまりなちゃんと同じやったんか。いつもおおきにな。それからおはよう」
 突然声をかけられた。驚いて振り返ると、教室の扉の所にあいこの姿があった。あいかが首を傾げていると、あいこは説明する。
「前の…美空町の学校で同級生やったんや、その子。朝と花が好きな子で…すごく、そういう所に気が付くええ子やったで。白鳥さんと一緒や思うて」
「何で…ここに…」
 あいかは小さく尋ねる。
「ちょっと早めに学校来てん。これから、朝連やけどね。じゃ、またあとで〜」
 あいかは呆然としてあいこの背中を見つめ続けていた。あいかは表情には出していないが、今ここであいこと話せた事が嬉しかった。

 その日、バスケ部の朝連に見かけない顔が参加していた。その少女があいこのディフェンスを巧みにかわして、スリーポイントシュートを決める。あいこはその少女がやけに自分に対抗意識を持っている事を感じていた。
「あの子、誰やっけ?」
 練習の休憩中にあいこは同じ一年生の部員に尋ねる。
「日高さんよ。芸能活動で休みがちだけど、彼女、バスケ部なのよ。実は妹尾さんに匹敵するくらい上手いのよ」
「あの子が…星河りずむちゃんっていうアイドルの子か…そう言われれば、見た顔やわ…」
 星河りずむ、本名…日高りずむは、学校ではテレビで見るほど派手では無かった。それであいこは最初、彼女に気が付かなかった様だ。朝連が終わり、部室で着替えているりずむにあいこは声をかけた。
「あたし、妹尾あいこ。よろしく」
 あいこの差し出した手をりずむは払いのける。
「私は…妹尾さん、あなたを認めていない」
 りずむは冷たく言う。
「認めないって…どういうこと?」
 あいこの問いに答えず、りずむは着替えを済まし部室を後にした。他の部員とは普通に付き合っている様で、何故かあいこにだけきつく当たっている様だった。あいこはその事について考え込んでしまった。