おジャ魔女どれみNEXT
第14話「どれみの決意」
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「いや、春風っ、別に、ただ、ここを通りかかっただけなんだ」
 小竹は顔を真っ赤にしながら言う。ここから立ち去る事しか考えていないので、起そうとしている自転車しか見ていない。
「えっと…小竹さん?…お姉ちゃんの同級生の」
「えっ」
 少女の言葉に小竹は顔を上げる。そこには小学4年生のどれみの妹、ぽっぷの姿があった。
「どれみお姉ちゃんはもうじき帰ってくると思います」
 ぽっぷは丁寧に告げる。小竹は焦って答える。
「いや、別に、俺は、その…」
「上がってください。お茶とか飲んでるうちに帰ってきますから」
「いや、そんなんじゃ無いんだ、お構いなくっ」
 ぽっぷは小竹を家に上げようとし、小竹は断ろうとするが…。
「上がるっ!」
「はっ、はいっ」
 ぽっぷの鋭い言葉に小竹は条件反射的に答えてしまい、仕方なくその後について行く。
“何か、苦手だ…この子。逆らえないし”
 小竹は苦笑いしながら思った。

 春風家のリビングのソファに腰掛けて、小竹は落ち着かない様子を見せている。そこにぽっぷがお茶とお茶菓子を持ってくる。
「京都で有名な和菓子の魔法堂さんのお団子です」
「魔法堂って、たしか?」
 ぽっぷの言葉に小竹は聞き返す。どれみ達が手伝っていた店も同じ様な名前だったからだ。
「う〜ん、京都にも同じ様なお店があったみたいなの。お父さんが取材で京都に行った時にお土産に買ってきてくれたの」
 ぽっぷは少し濁す感じに答えた。小竹はお茶を口にして、その美味しそうな団子を見つめていた。だんだんそれが赤いお団子頭を連想させる。そして意を決した様に話しかけてくる。
「春風、何かあったの?……何て言うか、上手く言えないんだけど、今年に入ってから少し元気が無い様な気がして…」
「えっ」
 いきなりの小竹の問いかけにぽっぷは何て答えてよいのかわからなかった。ぽっぷ自身もどれみが少し悩んでいるのは気付いていた。それが薄々、魔女界と人間界の将来の事だという事も。だから答えようが無かった。そこにどれみ達の母親のはるかがやって来た。
「どれみはね、周りに心配かけないようにって、できる限りそういう事は隠そうとするでしょ。それに気付いてくれて、ありがとう小竹君」
「いや、その…」
 突然、はるかから礼を言われ、小竹は戸惑ってしまう。
「俺は、先輩が卒業した事と関係あるのかなって…思って」
「ん〜、卒業しても、その気があれば会えるし、どれみの悩みはそこじゃ無いと思うの…どう思う?ぽっぷ」
 はるかはぽっぷに話をふる。そこにはぽっぷが何か知っているのではという母親の勘の様な物があった。それにぽっぷは何も言えず、考える素振りを見せる事しか出来なかった。

 夕日を背にした一人の帰り道、どれみの思いは焦りに変わりつつあった。
“私だけ、何も出来ない”
 どれみは走った。
“何かしなきゃ…私も”
 しかしすぐに立ち止まり…。
“何が出来るの…今の私に…”
 どれみは夕日に赤く照らされながらしばらく立ち尽くした。その目の前にはクラシックな懐かしい、そして思い出のたくさんつまった建物があった。それに気が付いたどれみは、建物から目を逸らしてしまう。
「また…MAHO堂に出ちゃったよ」

「それじゃ、俺…帰ります。すいません、ごちそうさまでした」
 小竹はそう言って立ち上がる。
「もっとゆっくりしていけば良いのに…どれみもまだ帰って無いのに」
 はるかは残念そうに呟く。
「おっ、おじゃましましたーっ」
 焦りながら、深々と頭を下げて、小竹は逃げる様に帰って行く。玄関でちょうど釣から帰ってきたどれみの父の渓介が、大きな釣用のバッグを降ろしていた。
「おっ、小竹君じゃ無いか、今度、一緒に釣行こうよ」
 渓介は小竹に話しかけるが、
「しっ、失礼しました〜!」
 小竹はそれだけ言って、飛び出して行った。
「何、どうしたの?」
 渓介が不思議そうに首を傾げていると、ニコニコしながら家の奥からはるかが出て来た。
「お年頃なのよ♪」
「あぁっ…あっ!、何ですとぉ!」
 渓介は納得しつつ、驚いてはるかに問い詰めようとしていた。

 日が暮れて、辺りは薄暗くなって来た。小竹は自転車のライトを点灯させる。
「一体、何処をほっつき歩いているんだ、春風の奴」
 呟きながら、小竹は視界に入ってきたクラシックな建物を見つめていた。そして何の確証も無かったが、そこへ向った。MAHO堂へ。小竹にとっても思い出深い場所だった。その思い出にはかならずどれみが絡んでいるという。

 MAHO堂の前の道に自転車を置いて、建物へ続く階段を降りようとして、小竹は声をあげた。
「春風っ」
 その階段にどれみが座り込んでいたのだった。どれみはゆっくり振り返り呟く。
「何だ、小竹か。階段を駆け降りると危ないよ」
「そんな事はどーでも良いよ」
 小竹はそう言って、どれみを避けて階段を降りて、どれみの正面に立つ。そして目を逸らしながら言う。
「何悩んでんだよ、らしくねーよ」
 小竹の言葉はどれみの心に触れたらしく、どれみは激しく言い返す。
「何さっ、小竹に何がわかるんだよ、だいたい私らしいって何よっ」
 何も出来ない焦りで行き場の無くなっていた感情が爆発した感じだった。それに小竹は驚いていた。自分の言った言葉に後悔すら感じた。しかし口から出た言葉は…。
「そうやって、ウジウジ悩んでいるのが、らしくないって言うんだよ」
 つい、小学生の時の感覚で、売り言葉に買い言葉でケンカ口調になってしまっていた。