おジャ魔女どれみNEXT
第15話「りずむ再起動」
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 美空市内のとあるホテル。アイドルの星河りずむは、その日の仕事を終えて、部屋に戻って来ていた。
「それじゃ、りずむちゃん、ゆっくり休んでね。明日朝の新幹線で大阪に戻るから」
 マネージャの能登と言う20代の女性はそう言うとドアを閉じた。
「ムム、出て来て」
 一人になった室内でりずむが言うと、黒い小さな妖精がキラキラと飛んできた。
「ムッム〜」
「お留守番、よろしくね」
 言いながらりずむはコロンタップを首元に吹きつけ、魔女見習い服にお着替えを始める。りずむの体を黒い見習服が包んでいく。さらに胸に装着されているコロンタップを叩いて、大きな丸いシートを出現させた。それを広げて床に敷いた。それは魔法アイテムの“どこでも魔女界の扉”、魔方陣が描かれたシートで、携帯できて何処でも使える魔女界へ通じる扉だった。
「じゃ、ちょっと行ってくる。すぐに戻るからね」
 りずむはそう言って、赤く丸いツインテールを揺らしながら、淡く輝く魔方陣に飛び込んだ。りずむの体は魔方陣に吸い込まれるように消えて行く。

 魔女見習い試験や魔女界での教育を司る魔女教育委員会。その建物は分厚い本を開いて立てたような形をしていた。その一階の受付にりずむの黒い魔女見習い服の姿があった。
「えっと、それじゃ、明日の1級試験を延期して欲しいと言う事ですか」
 受付の若い眼鏡の魔女が言う。りずむは頭を下げて言う。
「はい、お願いします」
「えっと…すいません、まだ慣れていないもので…」
 と言いながら眼鏡の魔女は本を開いて、この場合の対応方法を探し始めた。そして目的のページを見つけたらしく、そのページに一生懸命に目を通している。
「えっと、本来は師匠の魔女を通して申請してもらうんですが…」
 眼鏡の魔女が言うと、りずむは言い難そうに答えた。
「師匠、居なくなりましたから」
「あっ、ごめんなさい。私、余計な事っ」
 眼鏡の魔女は済まなさそうに頭を下げた。
「いや、良いよ別に」
 眼鏡の魔女はホッとしている。そして…。
「でも、どうして試験を延期…って、また余計な事をっ」
「いや、良いですよ」
 りずむは苦笑いして答える。
「相方が調子悪くて入院してるのよ。だから、今回の試験はパスして次の機会にと」
「そうだったんですか。でも、基本的に魔女のスケジュールですから、次は何時になるか、今、はっきりと申せないんですが、よろしいですか?」
 眼鏡の魔女は申し訳なさそうに言う。
「いや、覚悟してたし。でも、魔女でその辺を分かってくれる人がいるとは思わなかったわ」
 りずむは意外そうに言う。
「私、人間界で暮らした事ありますから…。それではこの書類に記入を」
 眼鏡の魔女は微笑んで書類を差し出した。りずむは記入しようとペンを持って動きが止まる。
「あっ、私、魔法文字書けない」
「それじゃ、私が代筆しますので…。まずはお名前から」
 眼鏡の魔女は名前の欄のペン先を持っていき、りずむの答を待つ。
「名前はね…私、星河りずむと、相方の白鳥あいか」
「えっ…ほ…し…かわ、りずむ?」
 眼鏡の魔女は書き終えてから、顔を上げ、りずむの顔を覗き込む。
「どうしたんですか?」
 りずむは不思議そうに首を傾げる。
「一緒です」
「えっ?」
 りずむは聞き返してしまう。
「一緒なんです名前。私、マジョリズムって言います」
「えっ」
 りずむは驚いて何て言って良いのかわからなかった。受付のマジョリズムは嬉しそうに書類を作成していく。

 翌日、大阪へ向う新幹線の中で、眠たそうな顔のりずむが力無く呟いている。
「マ…リズ……ム……ジョ…リ…ム」
「ちょっと、りずむ、どうしたの?昨日はちゃんと寝た?」
 りずむのマネージャーの能登が心配そうにりずむの顔を覗き込む。それに気付いてりずむは正気を取り戻す。
「あっ、ごめんなさい。えっと、何の話ですか」
「引越しの事、考えてくれた?」
 能登の問いにりずむは黙り込んでしまう。
「最近、あなたも売れてきて、東京でのお仕事も増えてきた。でも、その度にこうやって、東京大阪間を往復っていうのもね。そのせいでお仕事にも制限がでちゃうし。本気でこの世界で生きていこうと思うのなら…」
「能登さん、わかります。もう少し考えさせてください」
 りずむの脳裏に親友のあいかの白い顔が浮かぶ。りずむが大阪を離れられないのは彼女の事を思うからでもあった。しかし、そのあいかの隣に青い髪の少女が浮かび上がってくる。
“もう…その必要も無いのかな”
 りずむは少し淋しそうに心で呟く。
「もし、関東に引越すなら、おんぷちゃんの通っている中学なんてどうかしら、あそこなら、芸能活動に寛容だから、いろいろ自由が効くわ」
「あそこは嫌」
 りずむは即答する。能登は困ったように溜息をつく。
「本当におんぷちゃんが苦手なのね」
「苦手じゃ無くて、嫌いなのよ」
 りずむは能登の言葉を訂正する。
「まぁ、同じ中学に行って、おんぷちゃんと比較されるのも、こっちにとってあまり良いとも言えないかもしれないわね」
 能登は冗談っぽく言う。りずむは何も言わない。
「ま、別に良い中学、探しておくから、早めに決めてね」
 と言う能登の言葉に、りずむは頷いて、窓の外の景色に目をやる。