おジャ魔女どれみNEXT
第19話「交渉人りずみ」
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「彼女のオリジナル?」
「ううん、違う。マジョモニカって言う魔女が作った曲なんだ」
 どれみの答えはりずみの疑問を全て解決させた。聞き覚えがあったのは魔女の世界の音楽だったからなのだ。りずみは魔女見習い試験等で、何度か魔女界へ足を運んでいるので、自然と魔女界の音楽を耳にしていたのだ。
「でも、何で魔女の曲をここで」
「これが、はづきちゃんの選んだ道なのさ」
 どれみは誇らしげに説明する。はづきが魔法界の音楽を人間界で演奏する事で、音楽と言う方面から魔法世界の文化を人間に理解してもらおうというのだ。もちろん、今は混乱を避ける為に作曲者が魔女という事は伏せて、外国のマイナーな作曲家という事にしているが、いずれ、魔法界と人間界の交流が始まった時には、この事を打ち明けてもらい、出会ったばかりの両者の関係がスムーズに進展できるようにと願いが込められていた。
「ふぅん……そんな遠い未来の事を」
 とりずみは呟いて、はづきの奏でるメロディに気持ちを向ける。どれみはそんなりずみを見ながら心の中で呟く。
“そんな遠い未来じゃ無い筈だよ。そうしたいんだ”

 しばらく音楽に聞き入っていたりずみはハッと思い出したようにどれみに言う。
「でも、これっていろいろ問題あるんじゃ無いの」
「うん、そーなんだよ」
 どれみは苦笑いを浮かべつつ答えた。りずみはその苦笑いの意味を理解しかねていた。演奏が終ると、会場は大きな拍手に包まれる。今日の演奏の中で一番の反応だった。それだけの人がこの曲で心動かされた事になる。
「りずみちゃんちょっと」
 どれみは拍手を送っているりずみを引っぱって体育館を出た。誰も居ない体育館脇の通路の隅っこでどれみは“ここだけの話”という感じに小声でりずみに告げる。
「実は、こんなに良い曲なのに、次の発表会では弾けないかもしれないんだ」
「その作曲者の魔女からクレームでも来たの?」
 りずみはポツリと呟くと、どれみはりずみを指差し、オーバーアクションで驚く。
「鋭いっ」
 りずみは呆れてしまう。どれみは気を取り直して説明を始める。
「マジョモニカさんは人間に魔女の音楽を再現する事は出来ないって言ってるんだ。だから不完全な状態で演奏はして欲しくないって。りずみちゃん、今日のはづきちゃんの演奏どうだった?」
「素晴らしいと思ったわ。とても私と同い年の女の子とは思えない」
 いつに無く、素直に感動を表現するりずみに、どれみは自分の事が褒められたみたいで恥かしそうにしている。それはすぐにりずみを呆れさせる。
「でも、マジョモニカさん人間に偏見を持ってるけど、不完全な演奏なんて言っているところを見ると、マジョモニカさんの納得できる演奏が出来ればOKだと思うんだよ。そう思うでしょ、りずみちゃん」
「まぁ、そうよね。大丈夫なんじゃ無いの。あれだけ弾けるんだし」
 何となく納得して言うりずみにどれみは“キラリン”と瞳を輝かせる。
「そうなんだよ、聴いて貰えさえすれば万事上手く行くと思うんだけどねぇ……ねぇ」
 と言いながら、りずみに擦り寄っていく。りずみは顔を引きつらせて、どれみを引き離しながら言う。
「何、何なのよ」

 発表会が終わり、はづきがどれみ達の所へやってきたが、その時、りずみはどれみに対して怒鳴り声をあげている所だった。
「ふざけないでよ。何で、私がそんな事をっ」
「ごめんなさい。無理なお願いは承知しています。でも、他に頼める人が居なくて」
 はづきはりずみに深々と頭を下げる。そのはづきの態度にりずみは思わず、困ってしまうが、すぐに拒絶するように突き放す。
「私があなた達の為にそこまでする義理は無いと思うわ」
 そう言って、一人、ツカツカと帰って行ってしまう。
「ははは……交渉失敗しちゃった」
「どれみちゃん、やっぱり、私……」
 思い詰めた感じにはづきが言うが、どれみは遮る様に言う。
「駄目だよ。人間の私達が強引にやっても逆効果なんだよ。大丈夫、りずみちゃんは分かってくれる。だってきっと同じ将来を見れる仲間なんだから」
 どれみは自信たっぷりだった。

***

 翌日、美空ホールにて映画「カリスマ鉄板焼職人」の試写会が行われていた。どれみと妹のぽっぷ、はづきの3人はおんぷから招待状を貰って会場に訪れていた。会場は抽選で選ばれた客で溢れかえっていた。
「どっ、どれみちゃん、迷子にならないでね」
「お姉ちゃん、私の手、離しちゃ駄目だよ」
 はづきとぽっぷはどれみに念を押す。
「はいはい」
 どれみは二人の扱いに不機嫌そうしていた。

 自分達の招待状のナンバーの振られた席についたどれみ達。場所は真ん中より少し後ろの方だった。しばらくして司会の女性が出てきて、軽く映画の解説した後に上映が始まる。

 カリスマ鉄板焼職人はどれみ達のクラスメートの創作少女、横川信子が執筆し、シナリオコンクールに応募した作品が賞をとって映画化されたものだ。信子は大親友の妹尾あいこを主人公のモデルとしていた。その主人公“瀬野藍子”を演じるのはあいこを最もよく知る女優、瀬川おんぷだった。この組合せだけで、どれみ達はこの映画のネタ的な要素として物凄く楽しみだった。
 物語は亡き両親の後を継ぎ、お好み焼き屋を切り盛りする瀬野藍子14歳が主人公。しかし究極の鉄板焼を求める黒鉄板焼連盟は藍子の店を潰そうと妨害工作や刺客を次々に送り込んでくる。藍子はそれを持ち前の機転、山篭りの修行で編み出した鉄板焼殺法で撃退して行き、やがて藍子はカリスマ鉄板焼職人と呼ばれるまでに成長する。
 しかし、物語はまだ終わらない。謎のイケメン少年の登場に心揺れる藍子。さらに最強のライバルとなる鉄板焼少女リオナ(星河りずみ)の挑戦、揺らぐ親友(森野かれん)との絆、そして敵組織に見え隠れする藍子を見守る影、黒鉄板焼連盟の真の目的とは……。
 これらのストーリーが信子独特のドタバタ感覚で駆け抜けていく爽快な映画に仕上がっていた。