おジャ魔女どれみNEXT
第20話「魔法の商店街」
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「え、そうなん……それじゃ、あたし……ごめんっ。ホンマ、ごめんっ」
 朝一に劇場に行っても入れない可能性があると知り、即座にあいこはさっきまで怒っていた事をアンリマーに謝罪する。アンリマーが許してくれるまで何度も頭を下げるあいこにアンリマーは慌てて言う。
「でも、寝坊してあいこに待ちぼうけくわせたのはワイやし。悪いんは、やっぱワイや。ゴメンなっ」
 と二人で頭を下げ合う。その内、お互いの姿をチラリと見ようとして目が合ってしまい、それが滑稽で笑い合ってしまう。
「おんぷちゃんと信ちゃんには後でメール送っとくわ」
 と言い、あいこ達はとりあえず劇場を目指した。

 上映時間の案内板を見る。次の上映まで一時間程あった。しかも既に満席状態だった。その次の昼からの上映を勧める店員に対し、あいこは言う。
「立ち見でいいわ」
「ええっ」
 アンリマーは驚く。
「アホっ、時間が勿体無いやん。今日、映画見て終わりになってまうで」
 あいこは映画を見た後の予定を気にしていたのだ。アンリマーは渋々了解する。こうして一時間の待ち時間を潰す事になった二人。自販機で買ったコーラーをグビグビと飲んでいるアンリマーにあいこはお願いするように控えめに言う。
「あのさ、ちょっと行きたい所あんねんけど良い?」
「ん、ああ。あいこの行きたい所なら、何処でもついてくで」
 アンリマーは無駄に暑苦しくポーズを取って答えた。あいこは少し呆れてしまう。

 二人がやってきたのは映画館から10分くらいの場所にある商店街だった。
「何か買うんか」
 アンリマーは不思議そうに首を傾げている。
「どれみちゃんにちょっと頼まれてんね。この商店街の様子を見て来ててな」
 と言いながら、あいこは商店街に足を踏み入れた。それは不思議な商店街だった。何が不思議かと言うと、入り口付近に占い師が数人並んでスタンバイしているのだ。その占い師はやってきた客全てに声をかけて呼び止める。あいこも呼び止められた。ここでは買い物前に占い師に無料で占ってもらうのがルールになっていた。
「ようこそ魔法商店街へ。当商店街では占いにより、お客様に少しでも幸せになれる、不幸を回避できるショッピングをご指導させていただいております」
「魔法をウリにしてるって占いの事か」
 そう納得してあいこは占い師に向き合う。年は初老という感じの女性が水晶玉とあいこの顔を何度も見比べている。
「お嬢さん、逢引きですかな。後ろの殿方に災厄の相が出ております。早めに運気を変えないと酷い事が起こってしまうかもしれません。彼の運気を上げるには、入り口から三件目の和菓子屋でおはぎを買って食べさせてあげると良いでしょう」
「こうやって、商品を売る訳なんや。上手いというか何と言うか」
 あいこはそう言って言われた通りに和菓子屋の前に行く。そこではおはぎが法外な値段で売られていた。
「ちょっ、おはぎ一個2000円ってありえへんやろっ」
 1パック2000円でも高いのに、おはぎ一つの値段がそれだった。あいこは話にならないと腹を立てて商店街を出て行く。
「人の弱みに付け込む悪徳商法やんけっ」
「ほな、マクドでも入ろか」
 と言って先を歩き出すアンリマー。しばらく歩くと……。
“ニャッ”
 あいこの肩を踏み台に、一匹の赤い猫が飛び出してきて、アンリマの背中に猛烈なタックルを食らわせる。アンリマーは二、三歩先に飛ばされ転び、猫はそのまま歩道脇の塀に登り、隙間へ消えて行く。直後、アンリマーの背後に。
“ガチャンッ”
 歩道横のマンションの上の方の階のベランダから落下してきた植木鉢だった。ベランダで住人がアタフタしている。誤って落としてしまったみたいだ。
「アンリマっ、怪我無い?」
 あいこは心配そうにアンリマーに問いかけながら考える。
「何、今の猫っ……それにこれって」
 しばらくすると、植木鉢を落とした住人が慌てて降りてきて、何度も丁重に謝られた。

***

 カリスマ鉄板焼職人。その日の二回目の上映が始まっていた。あいことアンリマーは座席の一番後ろにある通路のスペースで立ち見をしていた。その周囲にも同じ立ち見客が大勢居て、まるで満員電車の様だった。
「立ち見って映画見ながら足腰鍛えられるかなって思ったんやけど、これじゃちょっと落ち着かへんなぁ」
 あいこはちょっと失敗だったかもという顔をしていたが、アンリマーはマンザラでも無かった。アンリマーにしてみると、座席に座るよりあいこの側に居れるのがちょっと嬉しかった。アンリマーは劇場に入る前に買ったパンフレットを開いて見ながらあいこに言う。
「でも、あいこは凄い友人を持ってんねんなぁ」
 それは原作者の中学生小説家「縦川信人」の紹介が書かれたページだった。そこには信人の顔写真として、本当に男の子の顔が載っていた。それは信子に特殊メイクを施して男装しているという事をあいこは知っていたので、複雑そうな表情をしていた。
 今回の映画はそもそも、信子がシナリオコンクールの応募し大賞を受賞したものなのだ。応募の際に信子はペンネームとして、小学生の頃から自分の小説に度々登場させていた自分をモチーフにした少年探偵の名前をつけていた。
「あたしの自慢の大親友達やからな」
 あいこは胸をはって自慢した。

***

 映画館の裏手ではタクシーが停車していて、その横に瀬川おんぷとマネージャーのおんぷの母親、そして縦川信人が二人立っていた。おんぷが一方の信人に告げる。
「信子ちゃん、本当にやるの?」
「うん。どうしてもよ」
 訊かれた信人は力強く答える。もう一人の信人は不安そうに言う。
「でも、私っ」
「大丈夫。縦川信人はもはや私達二人のペンネームでもあるのよ。だから、みほみほ、あなたも信人なのよ。それにおんぷちゃんがフォローしてくれるから安心して」
 信子が扮している信人がみほの扮する信人に優しく告げる。おんぷもフォローを約束するように頷く。おんぷの母は時計を気にしながら言う。
「急いで、次のに間に合わなくなるわ」
 言われて、おんぷはみほ信人の背中を押しつつ、信子に言う。
「あいちゃんによろしくね」
「うん。わがまま言ってごめんね」
 そう言って信子は映画館の方へ戻って行った。