おジャ魔女わかば
第2話「わたしの魔法」
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 わかばが魔法堂に通いだしてから一週間くらいたったある日曜日の朝。TVの特撮ヒーロー番組『機動戦隊バトルレンジャー』を見終わったわかばは勢いよく家を飛び出し、魔法堂へ向かおうとしていた。すると、家のまえで、隣の家に住んでいて、わかばと同じ虹宮北小学校に通う6年生の小橋まなみという少女に呼び止められた。
「わかばちゃん、最近よく出かけてるけど、彼氏できた?」
 いきなり言われ、わかばは真っ赤になって否定する。
「まな姉、違うよ。新しい友達ができたの。それより、まな姉こそオシャレしてどうしたの?」
 まなみは一目見てわかる様なよそいきの格好だった。
「えっ、その、特に深い理由は…」
 今度はまなみが赤くなってモジモジする。そうしているうちにわかばは「じゃ」と言って走っていく。

 魔法堂オープンの時間である。マジョミカはわかばを魔法で占い師の姿に変えた。黒いフードを被っていて一見では誰か分からない。口元はベールで隠れていて、小さなスピーカーがついている。このスピーカーから別室で実際に占っているマジョミカの声が出る仕組みで、わかばはその声に会わせて演技するだけだった。今はまだ身代わり状態だが、いずれ占いを教えてくれるとマジョミカは言っていた。またお客の方も地道な宣伝の甲斐あって、少し入るようになったが、その日はまだ客は無く暇だった。暇を持て余していたわかばがマジョミカに言う。
「ねぇ、マジョミカ、たまには私を占ってよ」
「料金払えよ」
「えっ、けちっ」
「まぁ、退屈しのぎに見てやるわい。そこ座れ」
 わかばはあからさまにマジョミカから離れて座った。
「もっと近くに座れって」
「ヤダ。カエル嫌い。いつも別室で占いしてるんだし出来るでしょ」
「ムカっ…、で、何を見るんじゃ、ん〜、恋愛運でも見るかのぉ…」
「えっ、マジョミカ、ちょっとまって、それは…」
 慌てるわかばを無視して、マジョミカは水晶玉を操作しだした。
「おまえ、いっちょまえに好きな男がいるのか…でも、見込み無しと出ている」
「それは、わかってるの、私が知りたいのは、それでもどうすれば、彼と…」
 マジョミカは暫く考えて、
「諦めのつくまじないでも教えようか」
「マジョミカ、もういいよ」
 その時、ドアのベルが鳴り客の来店を知らせる。わかばは自分の持ち場にスタンバイした。
「よろしくお願いします」
 お客はまなみだった。わかばがさっき会った時とは違って、緊張し不安な表情を見せていた。わかばは心の中で驚きの声をあげる。
(まな姉!?)

「何を占いましょうか?」
「今日、ずっと片思いだった彼に告白しようと思うんですが…」
(えっ、彼、告白、初耳だよ、そんなこと)
「事前に彼の気持ちをしりたいとか?」
「いえ、違うんです、私の今日の運勢を、なるべく縁起をかついでみようかと…」
「……そうか。そういうことなら…」
 その後、3点ほど、運気を上げる指導をしたマジョミカは最後に、
「あとは、お前さん次第じゃ。がんばるんじゃ」
 と締めくくった。

 まなみが帰ったあと、マジョミカはわかばに尋ねる。
「知り合いか?」
「うん、わかばんちのお隣に住んでるの」
「わかばの恋が見込み無しなのは彼女のせいじゃ、彼女、お前の好きな男にこれから告白に行く」
「えっ、藤崎先輩に…」
「その先輩とやらも、彼女を好いておるが、告白は受けないと占いに出た」
「えっ、なんで、両思いなのに…」
「知らんわ」
「マジョミカ、ごめん。私、気になる」
 わかばは、そう言って、変装を解いて店を飛び出していく。
「キキ、店を閉めるぞ。わかばを追う。おもしろくなりそうじゃ」
 マジョミカは野次馬根性丸出しでスコップに乗りつつ、キキに言った。
「わかばどうする気かしら?」
 キキは閉店準備をしながら思案していた。

***

 まなみは虹宮駅の近くにある小さな喫茶店で、待合わせまでの時間を潰していた。喫茶店の外の裏路地で、わかばは魔女見習い服に着替え、魔法を使った。
「ポリーナポロン プロピルピピーレン カメレオンになれ!」
 そこに、追いついて来たマジョミカが突っ込んだ。
「なんでカメレオンなんじゃ?」
「周りの色と同化して接近しようかと。」
「……」
 マジョミカとキキは絶句していた。

 喫茶店内の隅に飾ってある鉢植えの裏で、カエルと妖精と壁の色と同化したカメレオンがひっそりと、様子を伺っていた。
「わかば、その藤崎とかいう男とお前、どういう関係じゃ?」
「ん〜っ、3年生の時、クラスでイジメにあって不登校になっちゃって、そんな私を助けてくれた人なの」
「でも、年上なんじゃろ、なんで、お前を助けたんじゃ?」
「先輩、児童会長で、副会長のまな姉から聞いたんだと思う」
「それから、お前は会長にメロメロってわけか…」
「メロメ…!」
 カメレオンは顔だけ真っ赤だった。
「んで、お前、どうする気じゃ」
「二人をくっつけたい」
「ちぇっ。邪魔するんじゃないのか。いいのか、それで」
「うん、二人とも私にとって大事な人だから、幸せになって欲しいから」
 まなみを観察していたキキがわかば達に告げる。
「来たわよ、その先輩らしき人が」
「ありゃ、女なら誰にでも優しいタイプじゃな」
「ねぇ、マジョミカ、先輩なんで告白を断るのか占ってよ」
「あぁん?、またタダで、占えと…」
「もうっ、いいよ、魔法で!」
 わかばは魔法を使おうとしたが、キキに止められた。
「ダメよ、9級程度じゃ、人の心はわからないわ」
 わかばはしばらく考えて、
「じゃあ、魔法で先輩に好きと言わせる!」
「ダメじゃ!人の心を変えるのは禁断魔法じゃ!…禁断魔法は使えば必ず自分に不幸が帰ってくる。教えたハズじゃ!」
「マジョミカ!私、魔法使えるようになったけど、何も出来ないのぉ」
 わかばはカメレオンの大きな目に涙をためて訴えた。
「なんか、涙のシーンも相手が爬虫類じゃの〜。ってわしは両生類じゃが」
 茶化したマジョミカに対し、キキはわかばに優しく言い聞かせた。
「この問題は、直接魔法を使う問題でないと思うの。二人の問題なわけだし。でも、ちょっとだけ背中を押してあげる程度の間接魔法ならいいんじゃない。」
 わかばは考え込んだ。