おジャ魔女わかば
第3話「友達ならば…」
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「うん、わかば、どうしても使いたい魔法ができたんだよ」
 わかばはビシっとポロンを構えて言う。

***

「わかばは…たぶん、私を必要としなくなったんだと思う」
 かえではポツリともらした。
「そんな訳ねーだろ、あいつはトロっぽいから、俺達がついててサポートしてやんねーと」
 亮介が当たり前のように言う。
「無茶ばっかりする亮のフォローの方が大変だよね」
 勇太は苦笑いしながら冗談っぽく言う。
「なんだとぉ!」
 怒り出す亮介を無視して勇太は言う。
「僕らはお互いを支えあって、ここまで来たと思うんだ。僕もわかばちゃん、亮、川井さんにいろいろ助けてもらってここまで来た。でも……」
 勇太は言葉につまる。
「一年前…一番、わかばに助けが必要だった時に、私が側にいてあげられなかった」
 かえでは後悔に押し潰さそうな表情を見せる。一年前、三年生の一学期の間、かえでは事故に遭い入院していた。
「それは…仕方ない事だろ、それなら、俺等だって、側にいながら、何もしてやれなかった」
 亮太は悔しそうに思い出している。かえでが入院している間にわかばの周辺の状況が一変したのだった。

***

 体が軽くなった感覚。それは重力に引っ張られる力より、浮力の方が強く働いているからだろう。わかばはそんな感覚を青空の真ん中で味わっていた。
「鳥に……ううん、風になったみたい」
 自分が空に溶け込んで自由に飛べる風になったような感覚を覚える。いつもは上手く扱えず、地上数メートルで振り落とされてしまう魔法の箒だったが、今日は違い見事なまでにわかばの心と一体となっていた。それを地上から見つめているマジョミカとキキ。
「何かしらんが、早く上達したいという強い意思が、上手く働いているみたいじゃな」
「ただでさえ、意思が弱い子だったからね、ちょっとした事で、たぶん、ぐんと伸びるわよ」
 キキは嬉しそうに言う。
「しかし、さっき、言っていたあいつが使いたい魔法って何なんじゃ」
「さぁ?」
 マジョミカは訝しげにわかばを見つめる。キキが首を傾げていると、マジョミカは思い出したように言う。
「そういえば…あいつ…」
 マジョミカはいきなり指を弾いて魔法を発動させる。その魔法はわかばの体を引っ張ってマジョミカの前までつれて来た。わかばは突然の事に驚きながらマジョミカの前に着地して言う。
「わっわっわ……ちょっと、マジョミカ、何するのよぉ〜」
「箒はマスターできたみたいじゃな、この心意気があるなら、魔法も上手く行くかもしらんのぉ」
 マジョミカに褒められたわかばは照れくさそうに鼻の頭をかいてみる。そんなわかばにマジョミカは目を鋭く見つめ、尋ねてくる。
「お前、少し前まで登校拒否じゃったな」
 マジョミカの言葉に場の雰囲気がガラリと変わる。わかばは触れて欲しくない部分を触れられたように陰った表情を見せる。そして少し震える声で小さく言う。
「…なんで、そんな事聞くの」
「いや、わしも元は教師じゃからな…気になったんじゃ」

***

 一年前、ほんの一時期だけ、わかばの父の名前がマスコミを賑わした。多くの人間を巻き込んだバイオハザードを引き起こした張本人として。大きな圧力があったのか、その報道はすぐに触れられなくなった。でも…子供達はそいうのに敏感で、時に残酷だった。それが原因でわかばは学校のクラス内でいじめにあう。男子児童達からのいじめに関しては勇太と亮介の力もあり、すぐに収まるのだが、女子に関しては一部の女子が先導していて、陰湿に延々と勇太と亮介、さらに教師の知らない所でいじめという嫌がらせが続いていた。わかばも自分で抱え込んでしまうタイプだったので、誰にも迷惑をかけたくないと耐えて我慢していた。しかし限界を超えたのか夏頃にはついに登校拒否になってしまう。

 かえでは自分がわかばの側にいてあげられれば、あそこまでわかばを追い詰めないですんだかもと、ずっと後悔していた。かえで達は登校拒否に陥ったわかばの心を開く為に何度もわかばの家に足を運んだが、拒絶され続けた。
「結局、わかばの心を救ったのは…藤崎先輩だった。私達じゃ無くて…」
 かえでは悲しそうに言う。今から一ヶ月半前、かえで達が3年生の三学期の頃だった。児童会長の当時5年生だった藤崎がわかばを学校に復帰させたのだった。
「桂木ってさ、ずっと児童会長には憧れてからなぁ…そんな人に言われたらなぁ」
 亮介の何気ない言葉にかえでが感情的に反論する。
「違うわっ、私達、わかばを励ます事しか出来なかった。でも先輩は、そうじゃ無くて、わかばと一緒に考えてあげる事で、わかばの心を動かしたと思うわ」
「うん、僕らより年上で、さらに児童会長をして学校をまとめるほど経験値の高い人だからね」
 勇太は納得した感じに言う。亮介はポツリと呟く。
「でもよ、桂木戻って来たけど、女子達に桂木をいじめるように仕向けていたあいつは今居ないんだぜ、実は何も解決していないだよな」

***

 わかばはマジョミカに今までの経緯をサラッと話し終わり、ホッと息をつく。
「本当はね、春になったらキュキュに会えるって思っていたから、あんなわかばをキュキュには見せたくないって思っていて、だから早く抜け出したいって必死だったんだけど、必死になるほど、何も…できなくなって、そこから動き出せなくて…」
 だんだん、わかばの声には感情がこもっていき、言葉にならなくなっていく。そして目からは涙が溢れてくる。
「わかば、大変だったんだね。でも、もう大丈夫なんだよ、今のわかばは姉さんに胸を張って会えるんだから」
 キキはその小さなからだでわかばを抱きしめようとする。実際には額に手を当ててくれる感じになってしまうのだが。でも、それだけでわかばの気持ちは軽くなる。
「そうか…お前にその闇から出るきっかけをくれたのが、この間ラブラブを見せ付けやがった藤崎という男なのか」
 マジョミカはわかばの魔法でその運命を少しだけ変えられ、恋人とくっついた少年、藤崎の事を思い出していた。そしてわかばに告げる。
「もっと自信を持て、お前はもう、引き篭もっていた頃のお前じゃ無い。きっかけはもらったかもしれんが、そこから出たのはお前の力じゃ。お前はやれば出来るんじゃ」
 マジョミカは無骨で無遠慮に言うが、わかばは嬉しかった。泣いた後の顔で必死に笑顔を作って、マジョミカに送る。