おジャ魔女わかば
第4話「黒い妖精」
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“パチン”
 マジョリーフが指を弾くと魔法が発動し、流しに溢れていた泡が消える。マジョリーフは無表情で作っていた和菓子を捨ててしまう。石鹸を被ってしまって商品にならないからだ。マジョリーフは職人気質の魔女で、普段は寛容だが、作品、又は商品のクオリティなどには厳しかった。今回のは、ルルがそのクオリティを低下させる失敗をしたので、叱ったのだった。それは十分にあずさも理解していて、同じ考え方をしていた。そこには幼いからという逃げ道は無かった。
「あずさとルルは似てないけど、リーフとあずさは結構、似た物師弟なのよね。それにしても、何処へ行く気かしらあの子…行くあてなんて無いのに」
 モモは厨房の入り口から呟いた。

***

 虹宮の魔法堂ではわかばとシシが室内に広がった銅製のナッツを拾い集めていた。
「マジョミカぁ…テレビつけてもいい〜」
 わかばは細かいナッツを集めている内に気が沈んでしまい、紛らわす為にテレビをつけようとするが…。
「駄目じゃ、手がお留守になるだろっ」
「じゃぁ〜、ラジオならいい〜?聞くだけならぁ〜」
 わかばは甘えるように言う。
「ふん、聞くだけならなっ」
 マジョミカは不服そうに許可する。すぐにシシが飛んで行き、店舗スペースの端っこの戸棚に置かれている古風なラジオのスイッチを入れた。
「ありがとう、シシ」
 薄暗くて陰気だった室内にラジオの明るく軽快な音が流れ込んでくる。ちなみにこのラジオは魔女界のラジオ電波を受信できるものだった。
「へぇ〜、魔女の世界にもラジオってあるんだぁ〜」
「無駄口叩いていないで、さっさと拾えっ」
 感心しているわかばにマジョミカの小言が炸裂する。

『……の番組は漢方薬の魔法堂、魔女界一のモバイルネットワーク・マージョフォンの提供でお送りいたします………みんな一週間のご無沙汰ネ、週末の午後は“ドク・ターリーの魔法薬ちょっとイイ話”で楽しんで欲しいネ』
 ラジオから軽いノリの少女の声が聞こえてくる。それに耳を傾けながら、わかばとシシはせっせと銅色の実を拾い集める。
『今日は、魔法が上手く使えるようになる魔法薬を紹介するネ。魔法が下手で悩んでいる魔女や魔女見習いのみんな、朗報だヨ。今すぐメモを用意するヨロシ』
「えっ、なんてグットタイミングっ、キキ〜、メモ頂戴っ」
 ラジオを聴いて、慌ててメモを探し始めるわかば。
『この魔法薬の材料は…アカファイア草、ミドリウオルタ草、キイロバイクール草。この3つを用意してネ。すごくレアなお薬草なので、必要な人は気合入れて用意するネ』
 わかばは走り書きで3つの薬草名をメモって、キキに尋ねる。
「この薬ある?」
「ん〜、うちの薬箱には入ってないわ。ちょっと待ってね」
 キキはそう言って二階へ上がって行く。
『じゃっ、魔法薬の作り方は明日の放送で紹介するヨ、みんな楽しみにしているネ』
 5分程度の番組だったみたいで、明日の放送に続く形で番組は終わった。そこにキキが大きな本を抱えて2階から降りてきた。
「見て、魔女界でも、物凄く辺境の場所にある草みたいよ。手に入れるのは無理ね」
 開いた本を見せながらキキが説明する。わかばは残念そうに肩を落とす。シシもわかばと一緒に本を見入っていた。
「薬なんぞに頼らず、努力で自分の腕を磨けっ」
 マジョミカがわかばに言う。
「でも、こんなに頑張っても駄目なんだよ。もうこういうのに頼るしか…」
 わかばはがっくり落ち込んで、ブツブツ言いながら手を動かす。まだ銅の実が残っているのだ。

 夕方、日も暮れて暗くなってきた魔法堂内で、わかばはぼんやりと、昼間キキが出してくれた本を見つめていた。あの魔法薬に未練があるように…。
“パッ”
 室内の蛍光灯がついて室内が明るくなる。キキが入って来て電気をつけてくれたみたいだった。キキはわかばに寄り添って来て、優しく言う。
「わかば…そんなに」
「だって…私、シシと違って何もできないから……ねぇ、キキはマジョミカと心通じ合っているの?」
 わかばはポツリと言う。
「えっ、私とミカ?」
 突然の事にキキは聞き返してしまう。わかばは少し魔女と妖精の関係に悩んでいるみたいだった。
「まぁ、今でも心通じているか分からないけど、昔はそれなりにね。今は…こんなんでも、一応、お互いの事、理解し合っているいるから」
「二人は…本当のパートナーなんだね。私も…なれるかな…シシと」
 わかばは自信なさそうに呟く。
「……わかば」
「シシって、何でも出来て、完璧で無口で、実は時々…シシが何を考えているのか良くわからないんだよ。何も言ってくれないから」
 わかばは最近、抱えていた事をキキに打ち明けた。それを…。
「……シィ…」
 部屋の開けっ放しの扉の所にいたシシに聞かれてしまったみたいだ。
「シシっ!」
 わかばは咄嗟に立ち上がって叫ぶが、シシは無言で2階へ上がって行く。そして階段を上がった所にある魔女界へ通じる扉に入って行ってしまう。わかばは階段の下から魔女界の扉の中へ消えて行くシシの後姿を見ている事しか出来なかった。

「私…シシを傷つけちゃったよね」
 わかばは悲しそうにキキに言う。
「ん〜、シシはああいう子だからね。口数は少ないけど、やるべき事はちゃんとこなしていたもんね」
 キキの言葉にわかばは胸が締め付けられる思いだった。
「シシは私の為に一生懸命サポートしてくれていたのに…私、酷い事…言っちゃった。捜してくる、シシをっ」
 と言いながら、わかばは階段を駆け上がり、魔女界の扉に手をかける。でも、そこで止まっちゃうわかば。
「どうしたの?」
「キキ、家出した時、何処へ行く?」
 わかばはシシの行き先の見当がつかないのだった。キキは頭を捻って考える…そして。
「私、家出した事無いからわからないわ。ミカとケンカしても、出て行くのはたいていミカの方だったし」
 わかばは苦笑いを浮かべて言う。
「キキ、強いんだ。と…とにかく行って来るよ」
「迷子にならないでね」
 キキは心配そうに言って、わかばを送り出した。