おジャ魔女わかば
第6話「回れっ友情パワー!」
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“キュィィィィ!”
 金属が空気を切り裂く音が響く。それも二つ。それは地面を削り取る様な感じに“ガガガガガッ”と振動を伴う耳障りな音を立てながら移動する。
“キィンキィン”
 そして今度は金属同士が激しくぶつかる高い音が不規則に。直径1メートルくらいの浅いお椀状のフィールド内で、金属製のコマの様な物の上部に何かが乗っているという姿の物体が2体で、もの凄い勢いで回転し激しくぶつかり合う。まるで闘っているかのように…。
“ガンッ”
 お互いに弾かれ合っても、お椀の形状の為にすぐに一番底の部分で再び激突する。何度もぶつかり合い、お互いに回転数が低下してきた頃、一方のコマの上部の姿が変わる。まるで腕を伸ばしたかのように横に広がったのだ。また、もう一方は急速に回転を遅め停止したかと思うと、急に逆回転を始める。それぞれ内臓されている“ギミック”が発動したのだった。そして再び激しく激突する両者。
“ガキン!”
 腕を伸ばした方が、体を傾け、その腕で逆回転を始めた方を引っかけ、フィールドの外で弾き飛ばしてしまう。

 フィールドの外ではコマの上で腕組みをしたロボットの上半身のフィギュアが転がり、フィールドの中央で回転を止めたコマには、翼を広げたロボットの上半身のついている事が確認できる。この翼のコマの持ち主の子供は勝利に歓喜している。これが、今、男の子を中心に大人気の玩具・格闘系ロボットベーゴマ「逆転スピナー」だった。

***

“キーンコーンカーンコーン”
 教室の黒板の上に設置されたスピーカーが歌い始める。児童達はそれを待ちわびていた様に喜びだす。金曜の午後、それも一番辛い6時間目の終わりを告げるチャイムだ。これを聞けば、一週間の終わり、土日の休みという最大の楽しみに突入できるとあって、子供達の気持ちも否が応でも高まる。しかし、その日は…特に男子達のはしゃぎようが普通じゃ無かった。そんな何処かそわそわしている男子達を不思議そうに見ていた少女、桂木わかばは親友の川井かえでに言う。
「どうしたんだろうね、みんな」
「どーせ、たいした理由じゃ無いわよ、男子だもの」
 かえではまったく興味無しというさめた返事を返す。担任の弥生先生から連絡事項などのホームルームを終えて、放課後になると、男子達は我先にと教室を飛び出して行く。わかば達と仲の良い佐橋亮介と羽田勇太も例外では無く、勇太を亮介が引っ張って急かす形で教室を出て行った。
「かえでちゃん、行こっ」
 わかばは興味津々にそれを追いかけようとする。かえではあまり乗り気で無く、嫌々という雰囲気を漂わせながらわかばについて行く。

 わかば達が通う虹宮北小学校は街の山手にあり、下校時は長い坂道を下らなければならなかった。日頃から“走って降りては危ない”と先生や保護者に注意されている為か、みんな出来る限りの早足で降りて行く。わかばとかえではやっとの事で亮介達について行きながら声をかける。
「ねっ…ねぇ、勇太、いったい……何が、ある…のっ」
 ちょっと息切れ気味だった。勇太はわかばに説明してあげようとするが、亮介に“グィ”っと引っ張られてしまう。
「そんな暇ねーよ、急がないと無くなっちまうっ」
「…無くなる?」
 わかばは首を傾げた。

 下り坂を下りきった所の十字路。亮介達はそこを直進する。
「ちょっと、寄り道する気?」
 かえでが二人に声をかける。二人の通学路はこの十字路で左右それぞれに別れる事になる。二人は突然逃げるように走り出した。
「気に入らないわね、その態度がっ」
 かえではムッとして、二人を追いかけ始めた。わかばは苦笑いしながら、必死にその後について行く。

 勇太と亮介がやってきたのは虹宮駅の裏手にある大きな家電量販店。入り口の自動扉を駆け抜け、三階にある目的の売り場へとエスカレーターを駆け上がって行く。
「美鳥無線に何の用なのよ」
 かえではお店の看板を見上げながら呟く。その後ろに息を切らせて肩で息をしているわかばがいる。よく見ると、周りに子供が多い事に気づく。みんな美鳥無線のロゴ入りのビニール袋をさげている。中身は皆同じ様な物が入っている。
「何かの発売日なのかな?…ここの玩具売り場って、この辺じゃ一番品揃えが良いからさぁ」
 わかばが呟く。もう玩具とかに興味の無いかえでは無関心そうに頷く。しばらくすると、勇太と亮介が出てきた。でも袋を下げているのは亮介一人だった。
「お前ら、ここまでついてきたわけ?」
 亮介が呆れて言う。かえでが挑発的に言う。
「悪い?」
「俺達、忙しいんで、じゃあな」
 と言って、二人は忙しなく歩き始める。わかばはそれを追いかける。かえでもやれやれと言う感じについて行く。

「今日って、逆転スピナーの発売日だったんだぁ〜」
 わかばは亮介に袋の中身を見せてもらって納得したように言う。
「逆転スピ……何、それ」
 かえでは聞き慣れない言葉に首を傾げながら言う。
「4月から始まった…日曜の朝、バトレンの前にやっているアニメだよ。えっと、簡単に言うとベーゴマで戦うお話かなぁ。わかばもたまに見ているよ」
「ベーゴマ言うなっ、これはもっと進化したホビーなんだっ」
 亮介が熱く語る。かえでは呆れながら言う。
「ただの玩具でしょ」
「違うっ、俺の相棒になるマッハトルネーダーだっ!」
 歩きながら顔を突き合わせていがみ合うかえでと亮介。そんな二人を無視して勇太がわかばに説明する。
「そのアニメで主人公達が使っているのが、このスピアーギアっていう、スピナー(人形付きコマ)とシューター(コマに回転を与えて撃ち出す機械)のセットなんだ。先月末に発売されたマッハトルネーダー(商品名)とアクアスクリュー(商品名)の初回出荷分はすぐに売り切れになっちゃってね。今日が待ちに待ったの第2次出荷日なんだ」
「へぇ〜」
 わかばは感心して言う。
「でも、羽田の分は買えなかったんだ」
 かえでは勇太が手ぶらなのを見て言う。
「そーだよ、だから、これから銀ヤンマ行くんだよ、そこが駄目ならシュク川駅前の店だっ」
 亮介がムキになって言う。銀ヤンマというのは虹宮を東西に走る電車の高架下にあるフタバ商店街の中にある老舗の模型店だった。

 その日、わかば達は思いつく限りの玩具店をまわってみたが、勇太の分のスピナーギアを入手する事が出来なかった。
「参ったね…予選は日曜日だっていうのに」
 勇太は悔しそうに呟く。