おジャ魔女わかば
第7話「死なないでマジョミカ」
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「そそそそ…それは、配達料と手数料がかかるってことね。ほほほほほっ…」
 引きつった表情のままデラは去っていった。
「どうしたんだろ、デラ」
 わかばは首を傾げつつ、それを見送った。

 買い物カゴに大量の占いグッズを入れてレジへ向かう途中、デザートコーナーでわかばの足が止まった。
「美味しそうだなぁ」
 わかばは色とりどりのデザートに目を奪われてしまう。そこで不意にわかばは声をかけられた。
「お客さん、お目が高いネ。それ全部魔女界で行列ができるお店のデザート。とくにこの杏仁豆腐は絶品ヨ。」
 わかばが振り向くと、そこには問屋魔女ではなく、桜の花の様に淡いピンクの魔女見習い服を着た少女がいた。
「ワタシ大好きネ、コレ。暑い時、最高ヨ。あなたのとこ何人カ?」
「えぇ、4人かな…」
 わかばは戸惑いながら答えると…。
「ハイ、4つお買い上げネ。」
と言って、その少女は杏仁豆腐4つをわかばの買い物カゴに入れて去っていった。
「あのっ、…誰だろうあの子?」
 わかばは、声をかけようとしたが、少女はすでに箒で飛び立ち、奥の方の売り場へと行ってしまっていた。下手に追いかけても迷子になるだけで、わかばはその場を動けなかった。結局、わかばはその美味しそうな杏仁豆腐を買って帰った。

***

「まぁったく!余計な買い物しよってぇ。ぅ〜んはぐはぐぅ。美味いっ」
 マジョミカは余計な買い物をしてきたわかばをその余計な商品を食べながら叱っていた。当然、説得力なんて全然無かった。
「キキはどうする?」
 わかばはキキに食べるかと尋ねる。
「私は…夜におやつはちょっとね。朝になったら、食べるから置いといて」
 いかにも体型を気にしているという素振りで答えるキキに、わかばも慌てて、食べるのを止めた。
「私もそうしようとっ」
 と言って、わかばは残った三つの杏仁豆腐を魔法堂の冷蔵庫にしまう。
「じゃあ、私帰るね。明日、放課後来るから」
 わかばは帰っていった。マジョミカは食べ終わった杏仁豆腐の容器を舐めながら、冷蔵庫を見つめていた。
「今晩は暑いのぅ〜」
 暑いと言ってもまだ初夏である。
「今からそんなこと言っててどうするのよ、日本の夏はもっと暑くなるのよ。ミカ…もう寝よ」
 キキはそう言って、ベット代わりの自分用の小さなハンモックに体を預けた。マジョミカも魔女ガエル用の小さなお布団を敷き始めるのだが…。

***

 夜が明けて、さらに放課後。わかばは学校から一直線の魔法堂にやって来た。でも店は開いていない。わかばが居ない時はキキを占い師に変身させて、身代わり占いをしているはずなのだが。
 店に入ったわかばは、ただならぬ雰囲気を肌で感じていた。
「おぉ、わかば、やっと来たか。キキを何とかしておくれ」
 マジョミカの声がした。いつもと調子が少し違う。そもそも、わかばに頼み事をするなんて始めての事だった。わかばが戸惑っていると…小型の占い用水晶玉が飛んで来てマジョミカの頭を直撃する。投げたのはキキだった。キキがわかばに言う。
「わかば、そんなカビ饅頭と話しちゃダメ。こっち来て」
「カっ…カビ饅頭じゃとぉ〜。」
 タンコブの出来たマジョミカは起き上がって、真っ赤になって怒り出す。わかばはとりあえずキキの元へ行った。やはりキキの方が、わかばにとっては接しやすいからだ。
「どうしたの、二人ともぉ」
「食べたのよ、アイツ」
 キキはマジョミカを睨み付けたまま言う。
「食べた?何を」
「わかばとシシと私の分の杏仁豆腐。夜のうちに…」
「えっ。うそぉ、ひどっ。…でもキキ、そんなに怒らなくても。」
 どうやら、朝から交戦中らしい。キキは完全にキレていた。
「今回だけじゃないのよ、いつもアイツは私の楽しみに置いてるものをぉぉ…」
「ふん、心の狭い妖精じゃ」
 マジョミカもキレているようで、忌々しそうに言う。そしてついにキキは、
「なにぃ……出るわ、こんな店。いきましょ、わかば!」
 キキはわかばを引っ張って、店を出た。
「こらっ、わかばはおいていけ、店が開けられん。」
 必死にマジョミカは叫ぶが、キキはそれを無視する。
「ごめん、わかば。しばらく、あなたのとこに厄介になるわ」
 キキのお願いにわかばは頷きながら、この展開の速さにすこし取り残され気味だった。

 わかばの家は、郊外の住宅街にあった。洋風の2階建。キキは黒猫に変身してわかばに抱かれていた。
「ただいま」
 わかばの声に、奥のキッチンからエプロンをつけた兄の葉輔(ようすけ)が出てきた。
「おかえり、わかば。なに?その黒猫」
「キキっていう迷い猫なの、お兄ちゃん、しばらくウチに置いてあげてもいいかなぁ?」
「キキは魔女だろ、猫はジジじゃなかったか?…僕はヤマトがいいなぁ…名前。」
 わかばとキキは葉輔の口から飛び出した“魔女”という言葉に、物凄く焦っていた。
「まぁ、ちゃんと世話するんならいいけど…父さんには内緒だよって、気付きはしないかぁ…あの人は」
 葉輔は複雑そうにそう言う。わかばも頷く。こんな兄妹のやりとりをキキは猫の視線で眺めていた。

 わかばは自分の部屋に入った。そこは、女の子の部屋のようだが、ちょっと男の子っぽいものがいたるところにあった。キキは妖精の姿に戻って…
「わかばって、女の子よね」
 キキは棚に飾ってあったDXバトルレンジャーロボの肩に腰をかけて言った。わかばは苦笑いしながら言う。
「あははは、趣味は男の子っぽいってよく言われるよ」
 キキはこの家に入ってから気になっていた事を尋ねた。
「あなたの家族、どうなっているの?…魔法堂にいる時も家の話しないよね」
 キキに背中を見せる形でわかばの動きが止まる。キキは慌てて言う。
「あっ、話したくないなら良いのよ」
 わかばは少し考えて、話し出した。
「ううん、ごめんなさい。心配させちゃって…。さっきのは葉輔お兄ちゃん。今年、高校三年生で、家の事はすべてやってくれているの」
「凄いお兄さんね。お母さんは…?」
「母さん、一年前に、お父さんと別れたの」
「そうだったの…ごめん、嫌な事を思い出させて」
「いいの、全部、お父さんが悪いんだから」
 わかばは少し哀しそうだが、淡々と語り始めた。