おジャ魔女わかば
第10話「はじめての占い」
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 開店。わかばは黒いフード付きマントの占い服を着て、正体がばれない程度の変装をする。そして自分の占い台に先日購入した自分専用のエメラルドグリーンの水晶玉を置いて待機した。開店から数時間、二人ほどお客が来たが…わかばを見てかわいいと言ってくれるだけで、占いはマジョミカの方へと行ってしまった。最近マジョミカの身代わりは彼女のパートナー妖精のキキがしていた。マジョミカは魔女ガエルの姿では人前に出る事は出来ないので、キキを魔女だった頃の姿に変身させて、店の奥から遠隔操作で占いを実行していた。
「暇だにゃぁーっ」
 お客も帰ってしまい、暇を持て余していたわかばは、ふと…思い出したように自分の水晶玉を見つめた。そして徐に水晶玉に魔法玉を入れた。
“チャラリラ”
 充填音が響いて、水晶玉が淡く輝きだす。それを見たマジョミカが怒鳴り声をあげる。
「何を占う気じゃ…魔法玉が勿体無いっ」
「キュキュの居場所を占ってみようと思って…」
 わかばは落ち着いた声で言う。キュキュはキキの姉で、現在行方不明だった。わかばがこの魔法堂に辿り着いたのはキュキュのお陰と言っても過言では無い。わかば達は魔女修行と商売の合間に行方不明のキュキュを捜しているのだった。
「ふん、そんな事、わしがとうの昔に何度もやっておるわい」
 本職の魔女が占っても何も分からないものが見習いのわかばに何がわかるという事だった。
「でも、マジョミカ、占いはする人によって結果は微妙に違うって言ってたじゃない。だったら、私がすれば、何か違うものが出るかもしれない」
 わかばはそう言って、心の中で呪文を唱えはじめる。
(ポリーナポロン プロピルピピーレン キュキュの居場所を教えて)
 魔女見習い専用占い水晶玉は、魔法玉を入れ、心の中で呪文と占いたい事を唱える事で発動する仕組みになっている。エメラルドグリーンの光が増した水晶玉を注意深く覗き込むわかばだったが、そこから何も読み取る事は出来なかった。悔しさと悲しさでわかばの目から涙がこぼれる。
「だから言ったんじゃ。無駄な事を…」
 マジョミカは呆れて言う。魔女の姿に変身しているキキは優しい表情でわかばに告げる。
「わかば、いつか、わかばの占いで姉さんの手がかりがつかめるわ、ドンマイ」
「ありがとう…キキ」
 わかばは涙を拭いて、笑顔を見せた。

“チャリンチャリン”
 店の扉につけておいたベルが鳴る。お客さんの来店を告げる音だ。入って来たのはわかばより少し年上という感じの茶髪の少年だった。店内の様子を伺っていた少年はわかばと目が合ってしまう。わかばは照れて、視線を下げてしまう。そんなわかばの様子を見て、軽く微笑んだ少年はわかばの占い台の方へ歩み寄ってきた。
「表のポスターに書いてあった見習い占い師って、結構若いんだ。俺より若いんじゃないか?」
「ど…どうぞ、そこに座ってください」
 ぎこちないわかばの言葉に、少年は黙ってわかばの正面の小さな椅子に座った。近くで見ると、わかばのはじめてのお客は結構美形の男の子だった。
「何を占いましょうか?」
「ホントにできるのかぁ?」
 少年は悪戯っぽく言う。
「一応は…」
 わかばは自信なさげに答えた。
「じゃあ、今日の運勢をよろしく」
「ハイっ」
 わかばは元気に返事をして、水晶玉に魔法玉を一個入れた。
“チャラリラ♪”
 音が鳴って魔法玉が充填された水晶玉が淡く輝く。
「何、今の?コイン式の占い機なのそれ?」
「だっ…黙っててください」
 わかばは神経質に水晶玉を操作しながら注意した。このいかにもって言う手の動きはダミーだった。こうしてわかばは心で呪文を唱える。
(ポリーナポロン プロピルピピーレン この人の今日の運勢を映して!)
 強く輝きだした水晶玉の中には、不吉な黒い霧がかかっていて何も見えなかった。わかばはマジョミカの言葉を思い出した。不吉な占い結果はなるべく告げず、その中のいい所だけを告げるようにと。でも、今、わかばが直面しているケースは…いい所が全く見つからないのだ。
「あははははははーっははっ。この水晶玉、調子が悪いようです。代わりに、これで占いましょう」
 と笑って誤魔化してみて、わかばはコインを取り出した。マジカルコイン、魔女界の占い用品で、投げたコインによって占う。わかばはコインを勢い良く上に投げた。コインは天井に跳ね返り、わかばの額にクリティカルヒットした。
「おい、大丈夫か?」
「あははははははーっははっ。コインは危険です。ならば、これで占いましょう」
 再び笑って誤魔化して、今度はマッチを取り出した。マジカルマッチ、魔女界の占い用品で、このマッチでつけた炎の中に相手の運命が映し出されると言う。わかばはマッチを擦って火をつけ、その火を見つめた。見つめた。思いっきり見つめた。
“チリチリ…”
 あまり火に顔を近づけすぎて、わかばの前髪が煙をあげて焦げ出した。慌てて、少年がマッチとわかばの前髪についた火を消した。
「おい、本当に大丈夫か?」
「あははははははーっははっ。マッチも危険ですね。しからば、これで占いましょう」
 今度こそはとわかばはトイレットペーパーを取り出した。マジカルトイレットペーパー、魔女界でもマイナーな占い用品。相手の名前を呼びながらペーパーを引き出すと相手の運命を垣間見ることできる。
「あのっ、お名前は?」
「龍見ゆうま」
「たぁ〜つぅ〜みぃ〜ゆぅ〜まぁぁぁぁぁ〜」
“カラカラ…”
 わかばは名前を呼びながら不気味にペーパーを引き出し続け、名前が終ると、
“ビリッ!”
 ペーパーを思いっきり引きちぎった。そして大きくギザギザのついた切り口を熱心に見ていた。
「り…リアス式海岸みたいだと思いませんか?」
 わかばは切り口を見せて、何かを誤魔化そうとしていた。
「結局、何なの?悪い運勢が出たんならそう言ってよ。まぁ、面白かったからいいや、じゃあね」
 先程、ゆうまと名乗った少年は、代金を置いて店を出て行った。
「…何度占っても、不吉な結果ばかり。なんでなの…」
 わかばはこの少年が気になって…何故だかほっておけなかった。
「マジョミカ、ちょっと出てくる」
 奥の部屋にいるマジョミカにそう告げ、わかばは普段着に着替えて少年を追いかけた。