おジャ魔女わかば
第11話「発動!わかば救出作戦」
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「これだけは…使いたく無かったんだけどね。使うと一発だったね。アニキ」
 ヒロヤは拳銃ワルサーP38を手にして言う。
「お前、さっきのガキにボコボコにされたからなぁ」
 ハンドルの握るアニキは無感情に言う。ヒロヤはバツの悪そうな表情で隣にチョコンと座っているわかばを見つめる。わかばの表情は何かを諦めたような寂しい表情だった。それが胸に刺さった感じのヒロヤは優しく言う。
「貰う物もらったら、ちゃんと帰してあげるから、絶対、怖い事なんてしないから」
 しかし、わかばの反応は無かった。
「何なんだ…コイツ。まぁ、騒がれるよりは…好都合か。ヒロヤ、持ち物を調べておけ」
 アニキに言われ、ヒロヤはわかばのビニールのバックに手を出す。
「ちょっと見せてもらうよ」
 あくまで腰低く優しく言うヒロヤ。わかばは何の抵抗も無くバックを渡した。ヒロヤはバックの中を出して行く。最初に出てきた物に興奮してヒロヤは叫ぶ。
「こっ、これはっ…アニキっ、スク水ですぜっ、スク水っ」
「はっ?」
 アニキの呆れた返事にヒロヤは力説する。
「スクール水着、略してスク水ですよ。しかも定番の紺色。萌え萌えっスよ」
 運転席でアニキがため息をついているのが後ろからでも想像できる。その後、次々にわかばの持ち物をチェックしていくヒロヤ。水着、バスタオル、小さなのポシェットの中にハンカチとポケットティッシュ、文庫本、そして携帯電話。
「自宅の番号をメモして、携帯は電源を落としておけ」
 アニキに言われるまま、ヒロヤはわかばに断りを入れて、携帯電話のアドレス帳を開いて、自宅の番号を探す。登録名がそのまま“自宅”となって一番上にあったので、探すのに困る事は無かった。

***

 わかばのクラスメートで友達グループ男子二人組の羽田勇太と佐橋亮介はプールバックを下げて紅葉園駅前のバス停にいた。
「桂木の奴、遅いなぁ」
 亮介はイライラしながら呟く。待ち合わせの10時はとっくに過ぎていた。今日は女子の川井かえでも加えたいつもの4人で学校のプールに行く約束をしていたのだが…今朝かえでから亮介の家に電話がかかってきて…。
『ごめん、風邪ひいちゃって、今日、寝るから…わかばの事、お願いね。エッチな事するんじゃ無いわよ』
「するかよっ!」
 今朝のかえでの電話の言葉を思い出して、亮介は真っ赤になって叫ぶ。それを呆れた表情の勇太が見つめている。そして心配そうに…。
「遅すぎるよ…何の連絡も無いし」
「最近、元気無かったからな…桂木。今日の目的はあいつを元気付けるって事なのに、あいつが来ないと話しにならんじゃ無いか」
 亮介はイライラ度がアップしてしまう。そこに聞きなれない声が割り込んできた。
「でも、無断で約束をすっぽかしちゃう様な子じゃ無いだろ…彼女は」
 声に振り返ると、そこには一年先輩の五年生、龍見ゆうまの余裕そうな姿があった。
「あんたはっ、ここで会ったが百年目っ!」
 亮介はその顔を見るなり飛び掛ろうとする。本能的に彼が自分の敵であると認識しているみたいだ。そんな亮介を軽くあしらって、ゆうまは言う。
「わかばちゃんはいつもどの道から来るの?」
 言われて勇太は指差しながら答える。
「そこのバス道を…レストランの所で曲がって…」
 道を把握したゆうまは歩き出す。
「ちょっと見てくるよ」
「あっ、僕も心配だから」
 勇太が付いて行こうとすると…。
「君等はここで待ってないと…もし、違う道だったとして、入れ違いになったら困るだろ」
 もっともな事を言われ、勇太は立ち止まってゆうまを見送る。亮介は終始ゆうまを睨みつけたままだった。とにかく気に入らなかった。何かにつけて完璧そうな所が特に…。

***

 虹宮の山側の高台に位置する虹宮北小学校。そのさらに上に緑の中に点々としている住宅街の奥に古びたアパートがあった。アパートの前の駐車場にはあの汚れた軽自動車が放り込まれている。そして2階の一番奥の部屋で…。
「とりあえず、コイツんちに電話してくる。お前はいろいろ聞き出しておけよ」
 アニキがそう言って部屋から出てくる。そして鉄製の階段をカッカッカッと駆け下りて近所の公衆電話に向かう。一方、荷物が所狭しと積み上げられた狭い部屋ではわかばがそのまま座らされていて、テーブルを挟んでヒロヤが座っている。ちなみに、荷物のせいでこれだけのスペースしかここには無かった。
「ねぇ…とりあえず、何か教えてくれないかなぁ…名前とか、住所とか」
 黙って俯いたままのわかばにヒロヤは困った様に話しかける。
「ん〜、困ったなぁ…」
 ヒロヤの言葉は今の自暴自棄わかばには届かない。ヒロヤは手元にあったワルサーP38を手にする。そして銃口をわかばの額に向ける。
「こんな事はしたくないんだ…お願い、何か喋ってよ」
“ああっ…俺って最低な大人だよぉ”
 ヒロヤは心の中で自己嫌悪しながら、拳銃を握る。手は震えている。わかばはゆっくり瞳を閉じる。全てを天に任せるように…。
「おいおい…何なんだこの子は」
 わかばの様子にヒロヤはガックリと拳銃を下ろす。そして拳銃を手のひらに載せてわかばの目の前に差し出した。
「よく見て…」
 と言いながら、ヒロヤはワルサーP38を引っ張って伸ばしてクルリと回して、パーツを引き出して、また引っ張って…と器用に弄繰り回していく。拳銃はみるみる形を変えて、ロボットになる。
「トランスフォーム完了!じゃーん」
「おおっ!」
 ここに来て初めて、わかばは感情を示す。それは感動したような感情。落ち込んで閉ざしていた心を、この拳銃の玩具が巧みさが開いてしまったのだ。ヒーローやロボット好きのわかばは、この玩具に反応せずには居られなかったらしい。
「やっと、喋ってくれたね。脅かしてゴメンよ。これ、本当は玩具なんだ。それで…この部屋にあるのも全部」
 ヒロヤに言われてわかばは部屋を見渡した。所狭しと積まれていたのは箱に入った玩具の山だったのだ。