おジャ魔女わかば
第12話「明日もフリーキック」
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 夕食後、かえでは亮介の部屋に、一緒に宿題をしに行く。母親は夜食を作るんだと大はりきりだった。部屋で二人きりになった所でかえでは不思議そうに尋ねる。
「まだ、夏休みは10日あるわ。なんで?」
 たいてい、こういうのは夏休みが終わる直前とかに起こるイベントだからだ。
「ああっ、わざわざ恥をかいてまで、お前に来てもらったのは…頼みたい事があったから」
 亮介は言い難そうに告白する。どうやら宿題というのは口実で、他に目的があるみたいだ。この亮介の真剣な雰囲気にかえでは亮介を幼馴染では無く、一人の男の子と意識してしまう。すると、いろいろと想像してしまい体が熱くなる。顔が真っ赤になるのを亮介に気付かれないように必死に平常を保とうとするかえで。そんなかえでにお構いなく亮介は続けた。
「……俺、明日、桂木に再挑戦する。勝ちたいんだ…桂木にっ。頼むっ、どうしたらいいか教えてくれっ!」
 亮介はそう言って頭を下げた。そんな亮介のボサボサ髪の後頭部を見つめ、自分だけ変な想像をしてしまった事が馬鹿馬鹿しく腹立たしくなったかえでは、スリッパを手にして“バチン”と、その後頭部を殴ってやった。

「まず、卓球でわかばに勝つには、回転を身につける事よ」
 ずっとわかばの側に居て、独自に分析してきたかえでのレッスンが始まっていた。亮介は不満そうに言う。
「しかし、俺の持ち味は神速のスピードなんだ。回転なんて…」
「何が神速よ。それに打ち返せないとスピードなんてあっても無駄よ。回転のかかっている球をレシーブするのはこちらも回転の特性を知らなくてはいけないわ」
 と言いながら、かえでは逆転スピナーを取り出していた。逆転スピナーはベーゴマとフィギュアの融合した玩具だった。シューターと言う回転を与える道具にセットして打ち出すと高速回転しつつ相手に激しくぶつかりバトルする。かえではスピナーをシューターにセットして打ち出す。スピナーはテーブルの上で安定回転を始める。
「今、このスピナーは右回転をしているわ」
 言いながらかえではノートを立てた物をラケットに見立てて、回転するスピナーに横からくっ付けた。するとスピナーが逃げるように動く。同じ事をスピナーのオプションプレート(改造パーツ)を変更して逆回転にして行って見せた。
「どう、何か分かった?」
「…右回転の方が強いなっ」
 亮介は考え込んで真面目に言う。
「そうじゃ無くて…」
 かえでは呆れて言う。

***

 一方、わかばは魔女見習い試験の為に魔女界を訪れていた。今日は5級試験が行われる。道すがら、わかばの師匠の魔女ガエル、マジョミカは言い聞かせるように言う。
「よいか、わかば。先日、試験官魔女会議があって、試験内容の大幅な見直しが行われたそうじゃ。従って、今回の試験、もはや何が出るかわからん。心してかかれよ」
「えぇ〜、マジョミカ役立たずぅ」
 わかばは不満そうに言う。元試験官魔女のマジョミカはわかばにとって重要な喋る参考書だった。これ以降の試験でそれが役に立たないとなれば、思わず言ってしまう。
「なにぃ〜」
 マジョミカはわかばを睨みつける。そんな二人のケンカに妖精キキが割って入ってきた。
「ほらぁ、ケンカしないのぉ」

 ピアノの形をした試験屋台に着くと、モタとモタモタと黒色の魔女見習服を着た魔女見習いが待っていた。わかばは二人の試験官に挨拶し、黒色の魔女見習い、日浦あずさに改めて言う。
「あずさちゃん、こんばんわ…今日は一人なの?」
 挨拶をしても返事をくれないあずさ。わかばはあずさの師匠魔女が居ない事を尋ねてみた。
「もう、試験にも慣れてきたから、一人で十分と思っただけよ」
 とあずさは感情を押し殺した声で言い、師匠付きでやってきているわかばを冷たい目で見つめる。
「わかばは…もう少し、保護者同伴が良いかも…なんて」
 わかばは小さくなって呟く。
「それじゃあぁ〜、5級試験んん始めるわよぉぉ〜」
 モタがいつものペースで試験の開始を宣言にした。
「5級試験はスポーツ勝負よぉ〜。魔女見習いが二人一組で参加してぇ、勝ったら合格。引き分けでも不合格にするから〜ぁ」
 モタモタの説明に続き、モタが数枚のカードを持ってきた。
「種目を決めるから、一枚ひいてね〜」
 あずさはわかばに合図してカードを引くように仕向ける。
「それじゃあ、これで…」
 わかばはおどおどしながらカードを一枚引いた。そのカードにはサッカーボールのイラストが描かれていた。
「それじゃ〜、準備するから、ちょっと待っててぇ〜」
 二人の試験官は魔法を使い、サッカーの準備を始めた。まず、コートを出現させ、あずさとわかばそれぞれの妖精を呼び出し人間体に変化させた。さらにきのこと呼ばれる、頭は電球で体は美術で使うデッサン人形の様な魔女界に住む生物を4体召還した。(はづきの3級試験の2番目の扉の世界に登場した奴です)
「本来、サッカーは11人でするものだけどぉ…、人数が足りないんで、パートナー妖精を入れて4対4で行うわよ〜」
 モタはホイッスルを持ちながら説明する。
「私がオフェンス(攻撃)、あなたがディフェンス(防御)でいくわよ。とにかく、私達にパスを回して」
 あずさはそう言って、あずさに変身した妖精ルルと一緒に前に出る。
「うん。…シシ、ゴールをお願いね」
 わかばはサッカーは苦手だったので、あずさに全てを任せていた。そしてゴールキーパーはわかばに変身した妖精シシが入る。
“ぴぃぃぃ〜〜”
 モタの吹く間延びしたホイッスルでゲームは魔女見習い側のキックオフからスタートした。ルルからボールを受けたあずさはドリブルで敵ゴールへ上がって行く。わかばは思わず言ってしまう。
「あずさちゃん、凄い!…何でも知ってるし、何でもできるんだぁ」
 あずさはルルとパスを繋いで行く。ルルは少し危なっかしい動きを見せながらも何とかボールをコントロールしていた。と言うより、あずさがキチンとフォローしているのだった。そうこうしている内にあずさは敵陣ペナルティエリアに侵入していく。