おジャ魔女わかば
第16話「大暴走!4級試験」
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“チャラ・リラ・ラ〜♪”
 わかばの魔法携帯電話ピロリンコールの着信音、3和音の『おジャ魔女はココにいる』が魔法堂内に響いた。スペック的には40和音対応なのだが、わかばは3和音の着メロが好きという訳でこちらを使っていた。二階から緑色のツインテールの少女が慌しく駆け下りてきて、テーブルに置きっぱなしのピロリンコールを手にし受話する。
「もしもし、わかばです」
 この少女がここ虹宮魔法堂で魔女修行をしている桂木わかば。そして電話の相手は友達の魔女見習い如月みるとだった。受話器の向こう側でみるとが嬉しそうに話す。
『わかばちゃん、元気ぃ。たった今、6級試験受かったよ。蘇雲も一緒に♪』
「おめでとう」
 わかばは自分の事の様に喜んで言う。
『ありがとっ。遂に念願のクルールポロンと認定証ゲットだぜぃ!わかばちゃん…次の笑う月の晩、試験でしょ。さくらも受けるって言ってた。さくらのペースに巻き込まれないように気をつけてね。それじゃっ!』
“プチッ…ツーツー”
「あのっ、そのっ…」
 電話は切れた。わかばはまだいろいろ話したい事があったが、話せなかった。内気で話し下手なわかばは電話が苦手だった。いつも話したい事の半分も相手に伝える事が出来ない自分があまり好きじゃ無かった。
「いつも、こうなんだよな〜。電話って…」
 呟いたわかばはポケットから魔女見習いタップを取り出して見つめる。そんな自分を変えたくて…魔女になれば変われるかもしれない。それがわかばの魔女修行の動機になっていた。窓際に歩み寄ったわかばは窓の外の笑う月を見つめて、さっきのみるとの言葉を思い出して呟く。
「さくらちゃんってどんな子なんだろう?」
 わかばは月の微笑みにまだ見ぬ魔女見習いへの想像を重ねてみた。

***

 数日後。わかばの4級試験当日の晩だった。
 名古屋の市街地の端っこに位置するMAHO堂という名の本屋。元々海外のオカルト系出版物専門のかなりマニア向けの店だったが、3ヶ月位前から一般書も扱うようになり、客足もそこそこ増えてきていた。店の名前から想像できる通り、もちろん店主は魔女。同じく3ヶ月位前から弟子をとっていた。今現在、魔女が弟子をとる9割を占める理由は、人間に正体を見破られ事により発動する魔女ガエルの呪いを解くためである。
 ここの魔女、マジョマリィの弟子、名古屋さくらは名古屋財閥の社長令嬢。父の見よう見まねで、自分でボランティア団体を創立してしまうスーパーお嬢様。このMAHO堂の改装案も彼女が提出したそうだ。
「マジョマリィ、それでは行ってきますわ」
 さくらは黄緑の見習服に身を包み、白めのブロンドをなびかせ、店の奥の魔女界に繋がる扉を開いた。魔女ガエルの姿のマジョマリィは何の心配も無い瞳でさくらを見つめ見送った。

***

 わかばはいつものように、師匠魔女のマジョミカとその妖精キキ、そして自分のパートナー妖精シシというメンバーで魔女見習い試験を受けに試験会場へ向かっていた。魔女界の空を試験会場に向かって箒で飛んでいると、途中で正面から同じく箒で飛んでいる試験帰りと思われる黒髪に黒い魔女見習い服の少女、日浦あずさに出会う。
「あずさちゃん」
 わかばは近づいてきたあずさに嬉しそうに声をかける。あずさは箒を止めて、わかばを見つめるだけで何も言わない。わかばは心に何か刺さる物を感じながら、にっこり笑みを作って言う。
「こないだの綺麗な和菓子ありがとう。食べるの勿体無くて飾ってるんだよ」
「えっ」
 わかばの言葉にあずさは驚いている。先日、わかばの親友のかえでが仕組んで、あずさはわかばの誕生日にお祝いの和菓子を作ったのだった。当然なま物なので、そんなに日持ちはしない。つまり、もう既に美味しくは食べられないという事を悟ったあずさは作り手として残念そうな表情を浮かべていた。
「ごめん、冗談です。あの日の内にみんなで美味しく頂きました。みんな、こんなに美味しいお菓子は初めてだって。本当にありがとう」
 わかばは舌を出してお茶目に告白する。あずさはホッとした表情を見せた後にわかばを睨みつけ、無言で飛び去ろうとする。わかばはそんなあずさの背中に告げる。
「ホントに嬉しかったんだよ」
 止まったままあずさの背中は何も言わない。そこにマジョミカが割り込んできた。
「おいっ、マジョリーフの弟子っ。4級試験はどんな試験だった?」
 マジョミカは少しでもわかばの試験を有利に行う為に、あずさから情報を引き出そうとしていた。あずさはゆっくり振り返り、手を伸ばす。その手に黒い光が飛んできて小さな妖精の形に変わる。
「妖精を使って兎と亀とレースをする試験だったわ」
「なんじゃ、いつものやつかっ」
 マジョミカはそう呟いて対策を練り始める。わかばはあずさが呼び出した妖精ルルを見つめて呟く。
「そっか…あずさちゃんの妖精って、やっぱり、あの時出会った子だっただね。前は最初からあずさちゃんの姿になっていたから…思い出せなかったよ」
 わかばは以前、魔女界でルルと偶然会った事を思い出していた。ルルはわかばにとって何故か他人とは思えない妖精だった。
「ルルル」
 ルルも思い出して、嬉しそうにわかばに話しかける。
「あっ、そうだ。改めて紹介するよ。わたしの妖精のシシだよ」
 わかばはあずさとルルにシシを紹介する。本来は前回の5級試験の時に会っているのだが、試験のゴタゴタでそれどころじゃ無かったからだ。
「シシ」
 シシは短く言う。あずさは知っているような素振りで頷いてみせる。
「えっ、何?…あずさちゃんとシシは目と目で通じ合っているの?」
 わかばは驚いて、あずさとシシを交互に見てしまう。
「以前にちょっとね。その利口な妖精が一緒なら、今回の試験…大丈夫なんじゃないの」
 あずさは無関心そうに言う。
「え〜っ、ど〜なってんのぉ」
 わかばはシシとあずさの関係に混乱してしまっていた。