おジャ魔女わかば
第19話「魔法堂改造計画」
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 魔女が住む不思議な世界、魔女界。そこを不思議と感じるのは魔法が使えない人間だからなのかもしれないが…。今では骨董品のようなクラシックなラジオを彷彿させる形状の建物。屋上に大きな塔のようなアンテナがついている。そこは魔女界のラジオ局だった。
 人間界のラジオは電波に音声を乗せて送信する。電波に音声などの情報を乗せる事を変調する言うが、簡単に言うと、ここで用いられる電波は高周波で規則正しい波である。音声などの低周波の送りたい情報によって電波の波の形状を変化させる訳だ。その際、波の大きさを変化させる方式を振幅変調(アンプリチュードモデュレーション)と言い、AMラジオに使用されている。一方、波の周波数…時間によって変わる波の密度みたいなもの…で変化させる方式を周波数変調(フリケンシーモデュレーション)と言い、FMラジオがそれに相当する。
 一方、魔女界のラジオは、魔法変調(マジックモデュレーション)という方式で放送されている。言うなればMM放送という事になる。それは電波に似た魔法に情報を乗せる方法で概念的には振幅変調に近い。しかし、乗せる事ができる情報は桁違いで、さらに送信範囲は専用の受信機があれば無限となる。その気になれば、魔力を持つ者が魔法電波に乗って違う場所へ移動する事も出来ると言うが、それには大量の魔力が必要となり、さらに移動する時の感覚が物凄く気持ち悪いらしく、誰もそれを行う事は無くなり、魔女界ではラジオやテレビ等の通信という、人間界のそれと同じような利用方法のみに留まっていた。
 そんなラジオ局のスタジオの中の一室で、魔女見習いのアイドル、如月みるとがパーソナリティの番組が始まろうとしていた。防音設備の整った室内、手紙やメールをプリントアウトしたものが大量に積まれたテーブルの前にイスに座ったみるとがヘッドフォンを付けて待機している。みるとの目の前には翼のついたマイクロフォンが浮遊している。みるとはその空飛ぶマイクにウインクしてみせる。微かにマイクが赤くなった気がした。ガラス張りの壁の向こうの機材を操作する数人の魔女達。その中のディレクター魔女が時計を見ながら、番組の開始を知らせる合図を送る。同時に番組のオープニングのメロディが流れ出す。それはみるとの歌『MAHOってみると』のインストを編集した物だった。それに合わせてみるとは元気に喋りだす。
「如月みるとのハッピィメロディ。この番組は、魔法界最大の携帯ネットワーク・マージョフォンの提供でお送りします」

***

 夜の人間界。東大阪にあるマジョフォロンのリサイクルショップMAHO堂の2階はオーナーのマジョフォロンの部屋とその弟子の蒼井つくしという少女の部屋の合計二部屋だった。自分の部屋にこもってずっとバレーボールくらいの大きさの機械を作っていたつくしは、壁にかけている半分メカ部分がむき出しになっているカラクリ時計を見て、慌てて立ち上がる。
「うっわ、もうこんな時間やっ」
 と言って、慌てて何かを探し始める。いろんな機械が詰め込まれた戸棚で目当ての物を見つけ出し、二っと笑う。それは基板にエナメル線を巻いたコイルやコンデンサなどの素子を半田付けしただけの簡素な手作りラジオだった。素子の中には人間界では見かけない音符の形をしたクリスタル状の物がついていて、そこから伸びているコードの先に付いている洗濯ばさみくらいの大きさの金属製のクリップに魔法玉と呼ばれるビー玉くらいの大きさの玉をを挟み込む。そして基板の端子とスピーカーを接続する。すると…スピーカーからお馴染みの声が聞こえてくる。
『一週間のご無沙汰でした。魔女界のアイドル如月みるとだよ。今日も30分、みるとにぃ〜黙って付いて来て〜』
 それは魔女界で生放送のラジオを収録中のみるとの声だった。
「間に合った…始まった所みたいやな」
 つくしはホッと安心して言う。つくしが探していたのは自作の魔女界の放送を受信できるラジオみたいだった。つくしは座り込んでさっきまで作っていた機械の製作に戻る。耳はラジオの音の方に傾けている。
『最初のコーナーは、“みるとのお悩み相談室〜”』
 可愛らしいジングルと共に番組内のコーナーが始まる。
『今回、悩みを打ち明けてくれるのは、ペンネーム“薬指の先っぽ”さん。“みるとっち、こんばんわ。私の悩みを聞いて欲しいネ。最近商売が上手く行かないヨ。薬が売れないネ。そこで考えたヨ。適当な人を闇討ちして、怪我させて、その後に薬を売るヨ。もしくはウィルスを撒いた後で…”……これって犯罪じゃん。というか、これって…まさか?…えっと、お応えします。新商品を開発しましょう。それから、他人に迷惑をかけないようにね。頑張ってくださいね〜。ではここで一曲、私、如月みるとで…“笑顔の公式”』
 しっとりした曲調のみるとの歌が流れ出す。つくしはさっきのみるとのトークを引きずっているみたいで笑いを堪えながら言う。
「あの手紙、ぜったいあの子や…それにしても、さっすが、みるとはん、上手い事言うわ〜」
 しばらくして落ち着いたつくしは呟くように言う。
「しかし、毎回、よく相談の手紙がくるわな…魔女でも悩みとかあるねんな〜。まっ、あたりまえか。……あっ、おもろいこと閃いてしもうた」
 言いながら、つくしは作っていた機械の蓋の様なパーツをパチッと閉じた。
「こいつも完成した事やし…どうせ暇してるやろうから、明日にでも行って、教えてやるかな。きっと喜ぶやろな、マジョミカ」
 つくしは一人、ニヤニヤ笑いながら言う。ラジオはみるとの番組を受信し続けていた。

***

 翌日、日曜日の昼間、一番の稼ぎ時と思われる虹宮の魔法堂では…。
「お客さん来ないね……今月も赤字よ、マジョミカ」
 店内で魔女の姿に変化したマジョミカの妖精キキが困った様に言う。当店の占い師でオーナー魔女のマジョミカは呪いでカエルの姿になってしまっているので、営業中はキキがマジョミカの身代わりをするのが定番になってきていた。
「何故じゃ、何故、客が来ない。魔女が占ってやると言うのだぞ」
 キキの後ろに隠れて実際に占いを行うポジションの魔女ガエル、マジョミカは閑古鳥が鳴いている様な店に苛立って言った。
「お客は、占い師が魔女って知らないしね。それに魔女って事は秘密だし」
 店の隅っこの自分の占いスペースで待機していたマジョミカの弟子のツインテールを黒いフード付き占い装束の中に隠している少女、桂木わかばが言う。人間に魔女である事がばれると、今のマジョミカの様に呪いでカエルの姿になってしまう。わかばはマジョミカを魔女と見破って魔女ガエルにしてしまった事により、彼女を元の姿に戻す為にここで弟子として修行をしているのだった。