おジャ魔女わかば
第23話「ハートの導火線」
1/6
 ここは魔女界のとある喫茶店。今日は魔女見習いが4人集まり、お茶をしながらお喋りをしていた。しっきりなしに喋り続けているのは蒼色の見習い服の蒼井つくしと桜色の見習い服の李蘇雲。二人の機関銃の様な会話に適切に相槌をうちつつ、優雅に紅茶を口にしているのは黄緑の見習い服の名古屋さくらだった。もう一人、緑色の見習い服の桂木わかばは、会話について行くのにやっとという感じだった。
「遅れてごめんね」
 そこに白色の魔女見習い服の如月みるとがやって来た。
「みるとちゃん、お仕事おつかれ様」
 わかばが手を上げて声をかける。みるとは蘇雲の隣に座り、メニューを広げる。
「何注文しようかなぁ」
「これ、美味しかったネ」
 メニューを選んでいるみるとに横から蘇雲が自分の飲んでいたドリンクのグラスを見せ口を挟む。みるとはグラスを興味深そうに眺め、ウエイトレスの魔女を呼んで、同じ物を注文してみた。
「でも、魔女界の芸能界ってごっつう、しんどいんやろ」
 つくしがみるとに心配そうに尋ねる。みるとは魔女界でアイドルをしている魔女見習いなのだ。
「つくしさんは、まだまだみるとを理解していませんね。好きだから…辛さ、しんどさも、みるとにとっては楽しさになりますのよ」
 さくらがみるとの事は何でも知っているという感じに説明する。二人は幼馴染で親友なのだ。
「ま、さくらの言う通りなんだよね」
 みるとは照れ笑いしながら認める。
「そういうことか。うちも好きやから発明品が何度爆発しても平気やもんな」
「本当に平気なの?」
 納得したつくしの言葉にわかばが疑いの目を向ける。そこに蘇雲がさらっと告げる。
「これが、ギャグ小説じゃなかったら、ヤバイかもネ」
「これって、ギャグだったの?」
 みるとは驚愕する。さくらはニコニコして言う。
「それは楽しそうですわ」
 そこにわかばがポツンと呟く。
「この前、雷喰らっても生きてたし、私」
 生々しい発言に、みんな言葉を失ってしまう。そして、視線がわかばに集中する。
「そのことなんやけどっ、うち、聞きたい事があんねん」
 つくしは何か疑問があるようで、思い切って尋ねる。
「龍見ゆうまって、わかばの何な訳」
「えっ!」
 今まで考えた事ない事を聞かれ、わかばは目が点になった。
「もしかして、わかばちゃんの彼氏?」
「式には呼んで欲しいネ。」
 事情をあまり知らないみるとと蘇雲は二人で盛り上がる。さくらも楽しそうにわかばを見つめている。わかばは顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。つくしはムキになって言う。
「否定しないんかい!…気ぃあるんか、あいつに?あいつはわかば脅して利用しようとした奴やんけ」
 その時、つくしの後ろの席から男の声がした。
「魔女見習いとはぐれ魔法使いの恋…興味深いですね。それにしても…はぐれ魔法使い、やはり存在していたのですねぇ」
 声の主は席を立ち上がり、わかば達の席の方へやって来た。声の主は長身の魔法使いだった。口元には怪しい細い髭、目にはサングラスをしている何処と無く怪しい男だった。
「これは、お綺麗なおジャ魔女さんが5人も。申し送れました。わたくし、実は魔法使い界の王子。アニニーテと申します。以後お見知りおきを。そのはぐれ魔法使いについて詳しくお願いします」
 アニニーテと名乗った魔法使いはみるとの隣に腰を下ろした。そして胸から一枚の黄金に輝くカードを取り出す。

■挿絵[120×120(5KB)][240×240(15KB)]

「みるとっち、お会いできて光栄です。実はわたくし、みるとちゃんファンクラブの特別会員証保持なのです」
 アニニーテが自慢げに見せているカードを眺めつつ、つくしが呟く。
「みるとちゃん、ファンクラブなんかあるんや」
「うん、さくらが会長してくれてるの」
 みるとがそう言うと、さくらはせっせとカバンから入会用の書類を取り出してつくしに手渡す。
「もしかして、このメンツで会員じゃ無いのウチだけなん」
 つくしが信じられない様に言うと、わかばと蘇雲も会員カードを取り出して見せていた。二人とも一桁台のメンバーだった。つくしはその場で会員登録を済ませた。そして話は魔女見習い試験の話題になる。
「私達、今度3級だよ」
 みるとが言う。さくらと蘇雲と一緒に今度、3級試験に臨むようだ。
「5級試験どうだった?」
 わかばは尋ねてみる。5級はスポーツ勝負をさせられた試験だ。
「楽勝だったよ。ねっ、蘇雲」
 みるとは蘇雲にウインクして言う。かなり苦労して合格したわかばは衝撃をうける。
「スポーツだよね、種目はなんなの?」
「サッカーだよ」
 みるとは楽しそうに言う。わかばは不思議そうに尋ねる。
「二人ともサッカー得意なの?」
「私達、サッカー、あの時、初めてネ」
 蘇雲は思い出すように答える。わかばはますます混乱して言う。
「じゃあ、なんで楽勝なの?」
「魔法使ったら、格好簡単だよ、あの試験」
 みるとの答えにわかば固まってしまう。そこにつくしのツッコミが炸裂する。
「どうしたん?あんた、もしかして魔法無しであの試験やったん?相手も魔法でパワーアップして動いてるのに」
「わかばさん、素敵ですわ」
 さくらはそう言って微笑む。
「知らなんだぁ〜」
 わかばは頭を抱えて叫んでしまう。そしてその後もいろいろと話題を変えつつおジャ魔女たちの雑談は続く。
「あの…わたくしの質問は…」
 アニニーテは女の子のお喋りのついて行けない様子でゲンナリしていた。

***

 その後、ゆうまについての情報をわかばから貰えたアニニーテは、ホッと一息ついていた。そこにつくしが…。
「それじゃ、王子様、ご馳走様でしたぁ」
「えっ、何ですか?」
 意味が分からずアニニーテが首を傾げていると、つくしはちょっと怖い笑みを浮かべて言う。
「この情報化社会において、タダで情報が手に入る思うたら大間違いやでぇ」
「ありがとうございますっ」
 つくしの言いたい事を理解したみるとは笑顔でアニニーテに礼を言う。その笑顔にアニニーテはつい顔が弛んでしまう。