おジャ魔女わかば
第25話「あずさとわかばと」
1/6
 空中にふわふわと浮いている三角形の扉。その扉が勢い良く開かれて、薄い栗色の髪に白い魔女見習い服の少女、如月みるとが泣きながら飛び出してきた。試験官の大柄な魔女モタモタが手にしたベルをガンガン鳴らしてみるとを出迎える。みるとは未練たらたらに呟く。
「…あのキムチ食べたかったよぉ」
 ここは魔女の世界、魔女界の試験屋台前。魔女になる為の昇級試験、その3級の試験が行われていた。みるとは3級試験、三つの世界をクリアする問題の最後世界に待ち受ける試練…究極のメニューに出てきそうな美味しそうなキムチを思い出しながら溜息をついた。そこに、先にゴールしていた桜色の魔女見習い服の李蘇雲と黄緑の名古屋さくら、そして今日この後行われる2級試験を受ける為にここに来ていた緑色のわかばが駆け寄ってきた。
「みるとちゃん、合格おめでとっ」
 わかばが自分の事の様に嬉しそうに告げた。しかしさくらは…。
「みるとったら、時間ギリギリまで悩むんですもの」
「みると、キムチなら、私、いくらでも作ってやるネ」
「えっ、マジでっ」
 蘇雲の手を握って、みるとは嬉しそうに言う。もう口の中はキムチを食べた時のあの感覚が甦ってきている。こんな感じに4人はワイワイと騒いでいた。それをすこし距離を置いた場所から、黒い魔女見習い服に身を包んでいる日浦あずさが見つめていた。彼女はわかばと同じで2級試験を受ける為にここにいるのだ。
「さぁ〜ぁ、今度は〜、2級試験を始めるわよ〜」
 もう一人の試験官魔女モタが手を叩いて言う。それにわかばとあずさは試験官達の前に歩み出る。他の3人の魔女見習いも、参考に試験内容を聞いておこうと寄って来た。モタがお馴染みの高くスローな口調で試験内容を告げる。
「2級試験はぁ〜、魔法使い界にあると言う、幻のカニを取って来れたら合格ぅ」
「カニ?」
 あずさ以外の魔女見習い一同は、顔を見合わせ首を傾げた。そんな事はお構い無しにモタモタが告げる。
「制限時間は1時間よ〜、それじゃあ〜、2級試験スタートぉ〜」
“パンッ”
 モタが空に向って撃った玩具の鉄砲の音と共に試験がスタートする。その合図と共に、わかばとあずさは箒に乗って飛び出して行った。意味不明な試験だったので、とにかく時間が勿体無いと言う感じだった。二人が目指しているのはマジョドンの屋敷。魔法使い界に行くには、マジョドンの屋敷の庭にある扉を通らなくてはならないからだ。

***

 わかばとあずさはマジョドンの屋敷の広大な庭に降り立つ。あずさは何の構いも無しにヅカヅカと庭の奥へ入って行く。わかばはそんなあずさを止めようと声をかける。
「あずさちゃん、マジョドンさんの許可を取らないと」
 立ち止まったあずさは振り返る事無く、前方の扉がたくさん浮かんでいる空間を見つめたまま、当たり前の様にわかばに告げる。
「私達には時間が無いのよ、それに魔法使い界と魔女界は自由に行き来が出来るようになっているわ」
 そこに突然マジョドンが現れた。表情は誰が見てもわかるくらいに不機嫌だった。
「人の家の敷地内で何を騒いでおる。…お前はこの前の」
 マジョドンはわかばの顔を見て何かを思い出したようだった。そんなマジョドンにあずさは単刀直入に告げる。
「魔女見習い試験です、この扉を使用させて頂きます」
 あずさなりに現れたこの扉の管理者に許可を取ったつもりだった。しかし、そのセリフにマジョドンはカチンときた。
「断る!その扉を自由に行き来できるのは魔女と魔法使いだけじゃ、生意気な人間など通る事は許さん!」
 声を荒げて激怒するマジョドン。あずさは即答する。
「分りました、他の方法を探します」
 と言ったあずさは既に箒を手にしていて、飛び立とうとしている。わかばは慌ててあずさを引き止める。
「ちょっと待って、あずさちゃん」
 それでもあずさはお構いなしに飛ぼうとするので、わかばは必死に箒の先を掴んでみる。そして、この状態のまま、マジョドンに話しかける。
「確かに…私たち人間です。でも魔女になりたいんです。お願いです。何でもしますから、扉を使わせてください」
「お前もそういう人間か。…わしが怖くないのか?」
 マジョドンは何か思い当たる節があるような素振りを見せつつ、わかばを見つめる。そしてわかばの答えを待っている。わかばはあずさの箒を引っ張りながら、余裕の無い引きつり顔で正直に告げる。
「あのぉ、はっきり言って、マジョリードさんと同じくらい怖いです」
 いきなりのマジョリードの名前の登場し、思いがけず比較された事にマジョドンは怒りより先に笑いがこみ上げてしまい声をあげて笑った。
「可笑しな、おジャ魔女だな。よし、扉を通す代わりに、わしの仕事を手伝って貰う。ついて来い」
 そう言ってマジョドンは屋敷の方へ入っていく。わかばは箒に乗っているあずさを見上げて言う。
「あずさちゃん、行こう」
 あずさは動こうとしない。わかばは思いっきり箒を引っ張ってみる。さっき程の力が箒にかかっていなかったのか、箒はすぐに地上に降りてくる。
「あずさちゃんっ」
「ちょっ」
 わかばは箒から降ろしたあずさを引っ張って、マジョドンの後について行った。