おジャ魔女わかば
第29話「ドリルでGO!」
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“ポン”
 わかばは魔女見習いタップを楽器の様に演奏してクルールポロンを出現させた。それを構えて先端部分を手で回しながら呪文を唱える。
「ポリーナポロン プロピルピピーレン 帽子よ、ドリルになれっ」
“ボンっ”
 わかばの魔法が発動し、煙がわかば、みると、あずさの三人の帽子を包んだ。すると三人の魔女見習い服のとんがり帽子が渦巻いてドリルの様な形になる。
「あらあら、クロワッサンみたいですわ」
 それを見たさくらは嬉しそうに言う。あずさは呆れた感じに問い質してくる。
「何なの、これ」
「えっ、ドリル。潜るんでしょ地面。なら必要かなって思って」
 わかば本人は本気で答えているみたい。みるとは変化した帽子の手触りを確認しつつ言う。
「ま、良いんじゃないかな。これで」
 そう言って、水泳の飛び込みの要領で地面に向って飛び込んでみる。激しく回り始めた帽子のドリルが地面を削って、どんどん地中へ掘り進んでいく。あずさも諦めた感じに飛び込む。わかばもそれに続く。
「3人とも、無茶しないでくださいね」
 さくらは呟くように言う。3人はあっという間に地中の奥深くへと消えて行った。

***

 しばらく掘り進んで行くと、ちょっとした洞窟の様な空間に出た。壁面には緑色に光るコケがびっしりと生えていてぼんやりと明るい。
「何、ここ?」
 みるとは辺りを見渡しつつ呟く。ここには立てるくらいの天井があるのだ。足元を調べていたあずさは呟く。
「これって線路かしら?」
 見るからにレールと枕木の様な物がずっと続いている。
「地下鉄じゃ無いよね」
 わかばは呟く。ただ地面を掘っただけのトンネルに簡易的に敷いた感じの線路。地下鉄と言うには貧弱だ。と言うより天井は手が届くくらいの高さ、壁も手を伸ばせば両端が触れるくらいのトンネルだ。電車が走るには小さすぎる。しかし…。
“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……”
 それはこのレールの上を何かが走っている音がトンネル内に響いている様な音だった。それはどんどん、容赦なく近づいてくる様に音量が大きくなってくる。まるで冒険映画なんかで、線路に迷い込んでしまって不意に電車が迫ってくる様な感じ。しかも逃げ場が無い。
「とにかく逃げよ」
 みるとはあずさとわかばの手を取って、音と逆の方へ逃げようとするが、あずさは動かない。
「あずさちゃんっ」
 わかばが叫ぶ。あずさは落ち着いた感じに言う。
「たぶん大丈夫よ…見て」
 あずさが指差す先に目を凝らすと、木箱に車輪が付いたような物が音を立てて迫ってきていた。
「トロッコ?」
 みるとは首を傾げる。あずさは手短に告げる。
「あれなら、飛び乗れるわ」
 それは乗る気満々の様子。みるとは理解したように言う。
「ここにこのままいるより、ずっと何かを得る事ができそうだもんね」
「無理っ、わかば、トロッこいから、絶対に無理だよ」
 わかばは泣きそうな声で言う。
「わかばちゃん、つまんないよ…それ」
「私達に合わせてジャンプすれば良いのよ」
 みるととあずさはそう言って、わかばの両脇に立つ。そしてわかばと肩を組む。こうやって3人一緒に飛び乗るつもりみたいだ。トロッコはもう目の前まで迫っていた。
「一、二の…三っ」
 あずさの声に合わせてわかばは必死に跳んでみた。
“ゴトッ…ガタガタッ…ガッガッ……ゴゴゴゴ…”
 無事に3人を乗せたトロッコはスピードを落とす様子も無く走り去っていく。
「痛いっ…どいて下さい〜」
 トロッコで聞きなれない声がする。わかばは慌てて飛び起きて謝る。
「ごっ、ごめんなさいっ…って、あれ?」
 わかばはさっきまでお尻に誰かを踏んづけている感触を感じていたが、着地のショックで起き上がれないでいたのだった。てっきりみるとかあずさのどちらかを踏んづけていたと思っていたのだが、二人はすでに起き上がって、みるとが前方の確認、あずさはバランスを取るように立っていた。そしてわかばはさっきまでしりもちをついていた場所に目をやると…そこには小さな黒い大根に手足が生えた様な生物がやっとという感じに起き上がっていた。わかばは呟く。
「…黒いマンドラゴラ?」
「って、喋ってるよ」
 みるとが驚いて言う。黒のマンドラゴラというだけでも聞いた事無いのに、人の言葉を喋っているのだ。
「あなた達はいったいっ」
「それはこっちの台詞だよ」
 黒いマンドラゴラとみるとはお互いを探り合う。そんな二人にあずさが鋭く叫ぶ。
「前方に何かあるわ。みんな伏せて」
 と言って、わかばを押さえ込むようにしゃがむあずさ。みるとも身を低くする。
“ドバドバドバドバ……”
 トロッコは物凄いスピードで何かを蹴散らすように駆け抜けていく。わかばは何だか赤い物がたくさん頭上を飛んで行くのを見た気がした。
「赤い…マンドラゴラ?…あなたの仲間?轢いちゃって良かったのかしら」
 あずさは少々困りながら、黒いマンドラゴラに尋ねる。すると黒いマンドラゴラは怒りに震えながら言う。
「あんな奴ら…どうなろうと構いません」
 事情を聞こうとしたわかばだったが、突然トンネルが終わり、トロッコは外の空間に出る。そこは崖を切り開いて作られた感じの線路で、崖下には広大な街が広がっていた。
「地下都市?」
 みるとは思わず身を乗り出して、その風景に見入ってしまう。
「それじゃ…蘇雲ちゃんはここに」
「その可能性は高いわ。話を聞かせて欲しいんだけど」
 あずさが黒いマンドラゴラに話しかける。しかし彼はわかばを見つめて、今度は歓喜に震えている。
「……勇者様っ」
「へ、勇者って、私っ」
 わかばは思わず驚いてしまう。というか荷が重いという感じだ。トロッコは再び、トンネルに突入し光りゴケで照らされるだけの暗い世界へと突入する。
「『世界が赤に切り裂かれる時、必ず大自然の衣纏いし勇者現れる。金色の魔根はその身を勇者に捧げ、野望の力を解き放たん』…私達、白魔根(しろまこん)に伝わる言い伝えです」
 黒いマンドラゴラは話し始めた。