おジャ魔女わかば
第29話「ドリルでGO!」
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“ポン”
 みるとは魔女見習いタップを楽器の様に演奏してクルールポロンを出現させた。それを構えて先端部分を手で回しながら呪文を唱える。
「セパータサリス ピア−ナパメルータ モグラになれぇ〜」
“ボンっ”
 みるとの魔法が発動し、煙がみるととあずさの二人を包んだ。煙が次第に晴れて行ったが、そこに二人の姿は無くなっていた。さくらは自分の足元を見つめて嬉しそうに声をあげる。
「まぁ、とても可愛いですわ〜。お持ち帰りしたいくらいに」
 さくらの足元に二匹の可愛らしいモグラが出現していたのだ。ご丁寧に毛の色がそれぞれ白と黒の実際にはあり得ない感じのモグラ。さくらは白いモグラを、わかばは黒い方を抱きかかえて頬ずりする。
「さくら、やめてよ〜」
「わかば…気持ち悪い」
 二匹のモグラはそれぞれくすぐったそうに言う。
「みると…あずささん、無茶しないでくださいね」
 さくらは白いモグラを地面に降ろしてあげて呟くように言う。わかばも黒い方を降ろしてあげる。そう、この二匹は言うまでも無く、魔法で姿を変えたあずさとみるとなのだ。あずさは自分の前足の爪を性能を探る様に観察していた。みるとが言う。
「それじゃ、行こう。そぉを捜しにっ」
 こうして二匹は穴掘りに特化したその大きな爪で地面を掘り進んでいく。

***

「遅くなってすまんなぁ〜」
 大荷物を抱えて箒で飛んで来たつくしは挨拶もそこそこにわかば達に対して謝る。
「みると達が潜ってから10分くらいですわ」
 さくらは懐中時計を手に、つくしに告げる。
「先行してんのは、みるとはんとあずさはんか…大丈夫、これさえあれば確実に追いつけるって」
 と言いながらつくしが荷物から取り出したのは手に装着する形の巨大なドリルだった。
「名付けてドリルアーム」
「おおっ、これで地面を掘るんだね」
 わかばは妙に嬉しそうに言う。さくらが不思議そうにしていると、わかばは変に力んで主張する。
「ドリルは最強なんだよ。ドリルは浪漫なんだよ」
「そや。この力強さは、他の追随を許さへん…究極のツールなんや」
 つくしも嬉しそうに言う。それにさくらはただ感心するだけで…。
「まぁまぁ、そうでしたの〜素敵ですわ」
 そんなさくらとわかばの反応につくしはちょっと引っかかりを感じる。
“あかん、ここは突っ込みが欲しい所や…あずさはんなら厳しく切ってくるやろうし、みるとはんなら、適切に突っ込んで場を盛り上げてくれるくれるはずやのになぁ…”
 自分でやっておいて、オチの事まで考えてしまう関西人的発想につくしは苦笑いしつつ、発明品の説明に入る。
「腕に装着して、中のトリガーを引くとドリルが回転する。あとはこれで地面を…。あっ、初期設定はマックスパワーにしてあるから…トリガーの横のつまみで調整し…」
“ガガガガガ…”
「えっ、止まんないよっ〜」
 言っている側から、マックスパワーで地面を掘り出したわかばは機械に翻弄され、連れて行かれる様に地面の奥へと消えて行った。
「まぁ、本当にパワフルですわ」
 と言って、さくらもマックスでふわりと華麗に飛び込んでいく。その様はわかばみたいに機械に翻弄されている感じでは無く、独自の優雅ささえ漂っていた。
「…機械が、さくらはんに合わせてんのか」
 つくしはそれを信じられない様な目で見つつ、自分もドリルを回転させ、地中に飛び込んだ。

 つくしが趣味で発明したらしいドリルアームのマックスパワーは固い地面をまるで豆腐の様に掘り進んだ。そしてすぐに何やら広い空間に出た。
「な…なんや、もうついたんか…それにしても、腕が痺れる」
 つくしは腕を押さえながら言う。ドリルアームの物凄い振動を受けていたからだ。
「わかばなんて全身だよ〜目も回るし…」
 どうやら、一緒に回転して来たみたいなわかばがフラフラして言う。一方、さくらはケロっとしていて…。
「気持ち良かったですわ」
 と、一人、別次元の感想を言ったりもする。3人はこの広い空間を見渡す。今居るのは山岳地帯という感じの場所。この山を降りていくとそこには一種の地下都市が形成されていた。
「魔女界の地下にこんなもんがあったなんて…」
「もしかして大発見?」
「素敵ですわ」
 三者三様に呟いた後に、三人は街の方へと歩き出す。先行しているあずさ達との合流、そして蘇雲に関する情報を得るためだ。

***

 山を下り、もう少しで街という辺りで、つくしは足を止めて小声でわかばとさくらに言う。
「やっぱ、つけられるなぁ…」
「この空間に出た時からずっとですわ」
 それにさくらがさらりと答える。さすがにそれにはつくしも驚いて…。
「えっ、そうなんっ」
「何、どういう事なの?」
 わかばは一人、意味が分からず蚊帳の外状態。するとさくらは徐に振り返り、包み込むような優しい声で、その誰かに告げる。
「出ていらっしゃい。あなたに敵意が無いのはわかっています。もちろん、こちらにもありませんから」
 それは女神の様なお言葉で、まさにその言葉に釣られる様に追跡者が姿を見せた。それは小さな黒い大根に手足が生えた様な生き物。つまり黒いマンドラゴラの子供だった。その姿を見たさくらはまさかと思い尋ねる。
「ここは…マンドラゴラの国ですの?」
 黒いマンドラゴラは頷いた。つくしとわかばは思わず驚いてしまう。
「魔女界の地下にそんなもんあったなんて…」
「ビックリだね」
 黒いマンドラゴラはわかばとさくらの方に寄り添ってきて、切実そうに懇願する。
「今、この世界は大変な事になっています。どうか世界を救ってください…勇者様っ」
「えっ…わかばが勇者?」
 突然の事にわかばは困惑して聞き返してしまう。さくらは優しく尋ねる。
「詳しい話を聞かせてもらえませんか。力になれる事なら力になりたいから」
「『世界が赤に切り裂かれる時、必ず大自然の衣纏いし勇者現れる。金色の魔根はその身を勇者に捧げ、野望の力を解き放たん』…私達、白魔根(しろまこん)に伝わる言い伝えです」
 黒いマンドラゴラは話し始めた。