おジャ魔女わかば
第30話「心かさねて」
2/6
「激辛じゃん」
 箱を見たわかばは呟く。そして葉輔をジト目で見つめ…。
「お兄ちゃん、まだ仕事中なんでしょ」
「その通りっ。じゃ、さっさと片付けて帰ってくるからね」
 そう言って葉輔は家を飛び出し、外に止めてあったバイクに飛び乗ってお店へと戻って行った。
「あずさちゃん、おかず増えたね」
 わかばはそうあずさに微笑みかける。あずさはポカンとしたままだった。

 夕飯が出来た頃に葉輔が再び戻ってきた。今度はちゃんとバイトを終えて帰ってきたのだ。帰ってくるなり葉輔はあずさに言う。
「さぁ、何して遊ぶっ。DS、逆スピ、マイクロ四駆?」
「……ふっふふ…」
 そんな葉輔にあずさは、堪えられないという感じに吹き出してしまう。
「えっ、何か可笑しかった?」
「いえ…あの、わかばとそっくりだから」
 と葉輔に答えたあずさ。葉輔はそんな事かと言う感じに言う。
「そりゃ、兄妹だからね」
「もぉ〜、お兄ちゃん、ご飯が先だよ。それから、わかばのあずさちゃん取らないでよ!」
 二人のやり取りにわかばは凄い剣幕で葉輔に詰め寄る。
「わかば、ひとり占めは良くないぞ」
「ぶぅぅぅ」
 葉輔に言われ、わかばはブスっとしてしまう。またもあずさは兄妹のやりとりにどう対応して良いのかと苦笑いしていた。

***

 食後のデザートにわかばはあずさの持ってきた和菓子とお茶を入れる。
「おおっ、これが噂の魔法堂の和菓子だね。これ、あずさちゃんが作ったの?」
 葉輔は綺麗な細工の施された和菓子を丁寧に口にしながら尋ねる。
「いえ、これは師匠の作です」
「美味しゅうございます」
 その味に葉輔は思わず敬語を使ってしまう。そして…。
「今度はあずさちゃんの作品を食べてみたいな」
「えっ」
 優しく見つめる葉輔の視線にあずさは思わず俯いて視線を逸らしてしまう。わかばが葉輔に言う。
「お店に行けば、たくさんあるって」
「そっか、今度、行くか、京都」
 と言って、わかばと葉輔は京都に行こうという話で盛り上がり始める。

 食事が終わり、念願のお遊びタイムになる。逆スピ、マイクロ四駆を軽く楽しんだ後、DSを使ったゲーム大会が始まる。
「あずさちゃん…本当に初めてなの?」
 わかばはテレビに表示されている数字を見て信じられない様に呟く。それはペンギンが走り回るレースゲームで、とあるコースのタイムが表示されていた。ゲームなんて初めてと言うあずさだったが、そのタイムはランキングのトップを飾っていた。
「…あずさちゃんはニュータイプか?」
 わかばと葉輔はあずさのタイムを抜く為に必死になっていた。
「見える、わかばにもコースが見える」
「わかばとは違うのだよわかばとはっ!」
 そんな二人を楽しそうに見ていたあずさは台所の方で“ピーピー…”と電子音が鳴っているのに気付く。
「あっ、お風呂が沸いたみたいだよ。ごめん、今、手が離せないから、あずさちゃん、先に入ってて」
 わかばはゲーム機のパッドを手にしてテレビを見たまま、あずさに言う。同じくゲームに必死な葉輔に気付かれない様にシシが飛んできてあずさをお風呂場へ案内する。

***

■挿絵[240×240(15KB)][120×120(6KB)]

 湯船に身を沈めるあずさ。もくもくと上がる湯気を見つめながら呟く。
「あれが家族っていうものなのね」
「ルルゥ」
「シシィ」
 一緒に湯船に漬かっていた妖精のルルとシシが心配そうにあずさを見上げている。
「いや、そうじゃ無くて、すごく楽しかったら……」
 あずさは慌てて言い訳するように言う。しばらくして…。
“ガラガラっ”
 風呂場の外の脱衣所入り口の引き戸が開いて誰か入って来た。それは妙にハイテンションなわかばだった。
「あずさちゃん、記録更新したよっ。これであずさちゃんと一緒だよ。入るね〜」
「よし、お兄ちゃんも一緒だぁ」
 湯船から上がろうとしていたあずさは葉輔の声を聞いて、ドキッとして慌ててしまい、足を滑らせる。
“ザバァ”
 水飛沫が上がる音がする。わかばは葉輔を脱衣所から押し出して言う。
「もうっ、出て行ってよぉ!」
「小さい時は一緒に…うぉ」
 何か言っている葉輔を無視し、引き戸をピッタリと閉めたわかばは溜息を付く。
「まったくもぉ…」

“ゲホゲホッ”
 鼻に水が入ったのか、あずさは咳き込んでいる。そんなあずさをわかばは心配そうに見つめる。
「大丈夫?」
「ええ、もう平気よ」
 わかばは申し訳無さそうに言う。
「ごめんね、お兄ちゃん、あんなんで…」
「ううん、ちょっと嬉しかったから」
 あうさは控えめに言うと、わかばは驚いて問い質してくる。
「えっ、お兄ちゃんが一緒にお風呂に入ろうとした事っ」
「違っ…そーじゃ無くて、一緒にいろいろ遊んでくれた事」
 あずさは真っ赤になって否定する。そしてポツリと呟く。
「家族みたいな…気がしたの」
「家族だよ」
 わかばは即答する。言った後、わかばは照れ臭そうに付け足す。
「それくらい、わかばはあずさちゃんが大事だから」
「…ありがとう」
 あずさは少し嬉しそうに微笑んだ。

 長い黒髪を洗っているあずさの姿を湯船につかりつつ見つめていたわかばはポツリと呟く。
「あずさちゃんの肌って…白くて綺麗で……美味しそう」
「えっっ」
 あずさは思わず驚いて聞き返してしまう。今度は交代してわかばが髪を洗い始める。ツインテールを解いたわかばの髪はあずさに匹敵するくらいの長さになる。
「ねぇ、つくしって子とも、こういうのしてるの?」
 湯船のあずさが小声で尋ねてくる。
「えっ、つくしちゃん?」
 頭を泡立てながらわかばは思い出すように言う。
「つくしちゃんは…初めて会った日に魔法堂で一緒にお泊りしたんだよ〜。ああっ、わかばんちには来てもらってないやぁ」
「そうなの…」
 あずさはそう小さく無感情に答えた。

 その後、わかばの部屋にあずさの分のお布団を敷いて、寝るのだが、しばらくはいろいろとお話したりして、夜更かしを楽しんでいた。