おジャ魔女わかば
第33話「雪の子守唄」
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「ああ〜、スッキリしたわ〜。モタさん、おおきに」
 モタの家から蒼色の見習い服の蒼井つくしが出来てきた。
「にしても、モタさんちのトイレ、ごっつぅ綺麗やなぁ…うち、使うのが恐れ多くてビビッたわ」
 つくしはトイレを借りていたみたいなのだが、驚きを隠せないと言う感じに言う。それにみると達も興味津々と言う感じになっている。モタは思い出す様に言う。
「昨日ぉ〜プロの方がぁ〜掃ぉ〜除してくれたのよぉぉ〜」
「ハウスキーパーとか雇ってるのカ」
「試験官魔女って結構、リッチな暮らし出来んねんなぁ」
 蘇雲とつくしが羨ましそうに言うが、モタは首を振ってそれを否定する。
「違うのよぉ〜。魔女界中のぉトイレを掃除して回っている〜ボランティアの魔女見習いがいるのよ〜」
「世界中のトイレを真っ白に…とか言うのかな」
「あら、素敵ですわ」
 みるとが呟くとさくらが嬉しそうに言う。そして、みるととさくらと蘇雲はモタに断ってトイレを見に行ってしまう。
「それにしても、わかば遅いなぁ…。うち等をここに呼び出した張本人やのに」
 つくしはそろそろ苛立ち始める。そこに黒い見習い服を着た日浦あずさが箒に横乗りして飛んで来た。
「わかば、まだ来ていないの?」
 尋ねたあずさはつくしがムスッとして頷くのを見て、箒から降りてモタに軽く会釈した。
「しかし何なん、マジカルステージしたいから集まってって」
 つくしが不可解そうに言うと、あずさが鋭く告げる。
「電話でのわかば、真剣だったわ。不満があるのなら帰ったら良いわ。不協和音になるだけだから」
「なっ、あんたやっぱ、ヤな奴やなぁ」
 と返したつくしはあずさと睨み合ってしまう。
「ちょっとぉ…二人とも〜ここでケンカしないでよぉ〜」
 モタの言い方は別の場所なら良いと言う感じだった。そこに箒を飛ばしてわかばやってきた。まるで急ブレーキをかけた車みたいな動作で箒が静止し、わかばは地面に足をつけた。
「ごめんなさい、遅くなって」
 わかばは素直に謝罪する。つくしはわかばが抱いているお琴を見て言う。
「お琴ちゃん、連れてきたんや」
 わかばは頷く。あずさもお琴ににこやかな表情を見せていた。そこに…。
「あれはプロの技だね」
「それは認めなくてはならないネ」
「うちにも来て欲しいですわ」
 みると、蘇雲、さくらが感激しながらモタの家から出てきた。3人はわかばとあずさの到着に気が付いて駆け寄ってくる。さくらがわかばの抱いているお琴の存在に気付いて尋ねる。
「わかばさん、その子は?」
「幽霊のお琴ちゃんだよ、実は…」
 わかばはそう切り出して、説明を始めようとするが、幽霊という言葉に反応して、突然みるとが叫び声をあげ壊れる。
「キィヤァァァ!幽霊嫌い!悪霊たいさーん!セパータサリス ピア−ナパメルータ ロケットランチャーよ出てきてぇ!」
 みるとは咄嗟に魔法で呼び出したロケットランチャーを構え、わかばに向ける。みるとは幽霊が大嫌いなのだ。慌ててさくらがみるとに声をかける。
「みると、このかわいい子を撃つの?」
 言われてお琴を見つめるみると。
「えっ…わたしは何を…お琴ちゃん?きゃわいい…」
 お琴の可愛らしさに正気に戻ったみるとははしゃぐ様に言い、お琴を抱こうするが…。
「でも、幽霊やねんなぁ」
 つくしの余計なセリフで、再び現実に引き戻され、みるとは壊れる。
「キィヤァァァ!」
「この子、ぷりちーネ」
 蘇雲の言葉で、可愛さを認識し正気に戻る。安心してわかばが説明の続きを話し始める。
「でも幽霊なの、それで今晩…」
「キィヤァァァ!」
 わかばの言葉で再び壊れ、騒ぎ出すみるとに一同は声を合わせた。
「いい加減にして!」
 みるとはシュンとしてしまう。わかばは、お琴の事情を説明した。
「今晩、その子を連れ戻しに死神がやってくる訳ですわね」
「でも、その前に行きたがっている場所がある」
「しかし、それがわからない訳なのネ」
 さくら、つくし、蘇雲と確認するように言う。わかばは深々と頭を下げる。
「みんなの力を貸して欲しいの」
「ウチ、この子にはカリがあるからな」
 つくしは前に虹宮でわかばと出会った時の事を思い出していた。あずさも京都のお店を手伝ってもらった時の事を思い出しながら頷く。みるともさっきまでの態度から一変し、頼もしそうに頷いて言う。
「マジカルステージやろうよ」
 こうして6人は円を描き互いに向かい合って並んだ。そして順にクルールポロンを回し呪文を詠唱する。
「ポリーナポロン あざやかに」
「セパータサリス かろやかに」
「パルーナスワン なごやかに」
「キキリアトゥーラ まろやかに」
「ポチットナーポ なめらかに」
「パノータピリア おだやかに」
 各ポロンから飛び出した光が重なり合って、上空に光の舞台を作り上げる。6人はその光に包まれながら声を合わせる。
「マジカルステージ! お琴ちゃんの行きたい場所に連れてって!」
 降り注ぐ光の粒子の中、お琴も願う様に両手を合わせていた。そして大きく光が弾け、マジカルステージが発動する。

***

「さぶっ」
 あまりの温度変化にみるとの口から無意識に言葉が出た。そう、気温が洒落にならない程に低くなっているのだ。しかも周囲は吹雪の為に数メートル先すら見えない。わかば達はマジカルステージの結果、一面雪の世界に来ていた。
「ここはどこやねん」
「人間界ではありませんわね」
 ガクガク震えながら、つくしがつっこむ様に言う。さくらは生えている木を見ながらそれに答えた。それは見た事の無い木なのだ。
『…白雪界…雪の世界…』
 お琴はそう言い、吹雪などお構い無しに森の奥を目指して飛んで行った。
「お琴ちゃん、何か思い出したの?待ってよー」
 わかば達は慌てて箒に跨り、お琴の後を追う。残りメンバーも同じく箒に乗るのだが、その最中にあずさは何者かの気配を感じていた。しかしお琴を追う事を優先させるのだった。