おジャ魔女わかば
第37話「お菓子の鉄人」
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「貴様、それはワシに対する宣戦布告ととっても良いのじゃな」
 マジョミカは必死に怒りを抑えながら言う。それを知ってか知らずか住職は……。
『おおっ、やりますかっ、この妖怪ババァ!』
「てめえ、イイ度胸だっ、表出ろやっ!!」
 マジョミカの怒りが爆発する。実は前々からここと魔法堂は仲が悪かった。先代住職と魔法堂の先任者であるマジョミカの姉のマジョミィナの時代は良い関係を築いていたらしいが……。今の住職にしてみれば神社の側に怪しい占い屋が出来て不満らしいのだ。マジョミカも住職のムキムキが嫌いで……。ただ、今日はお正月でもあるし、一時休戦として屋台を出させてもらう筈だったのだが……。
「妖怪退散でーすっ!!」
 と上半身裸でムキムキの胸板をアピールしまくりの住職が飛んで来た。占いテントから出てきたのは年配の女性という風貌のマジョミカに変身したキキ。頭に被っている魔女帽子の中に魔女ガエルのマジョミカが潜んでいて、そこから喋っている。キキはその声に合わせて演技する腹話術状態。でも長年のパートナーなだけに連携はピッタリ。しかし、キキの表情だけはやる気無さそうに苦笑いしていた。声と表情のアンバランスさに住職は戸惑いを覚えながらも……。
「いや、奴は人あらざる者なれば、決しておかしい事では無いのでーす」
 などと言い出す始末。二人のにらみ合いはしばらく続いた。

***

 京都のマジョリーフの魔法堂。お昼を過ぎたころ、少し客足も少し減り、わかば達は休憩をとっていた。
「今日は本当にありがとう。助かったわ」
 厨房からあずさが頭をさげる。
「店はウチ等に任せて、あずさはんとマジョリーフはんはせっせと商品こしらえてーな!」
 商売魂に火がついたのか、つくしが力強く答える。そこに。
“チリンチリン♪”
 入口の扉に付いた鈴が来客を告げる。わかばとつくしは元気良く出て行った。
「いらっしゃいませ」
 お客は、年配の眼光の鋭い女性だった。その目で店内をくまなく見回している。
「あの、何をお求めでしょか?」
 つくしがこの女性に尋ねる。
「お正月あっぱれ天使見た」
 この女性客がボソッと呟いたのを聞いて、つくしは裏に饅頭を取りに行った。テレビで宣伝したキーワードだったからだ。
「少々お待ちください」
 つくしが裏に入った後、そう言ったわかばは女性と目が合った。
「お前……恥ずかしがり屋のカエルか? それでさっきの娘は……お喋りなカラスと言ったところか?」
「えっ?」
 わかばは女性客の意味不明なセリフに思わず聞き返してしまった。
「お前、本当はカエルか何かで、魔法でその姿になって店員をしているのだろうと言っているのだ!」
「私、カエル嫌いなんですけど……それに私達、人間ですが」
 わかばの言葉を聞いた女性客は驚いていた。
「では、お前はこの店の店長の事は、何も知らんと言うのか?それとも……まさか!」
 何かを予感した女性客は、店内に戻ってきたつくしを押し退けて奥の厨房に入って行った。
「お客さん、困りますぅ〜」
「何すんねん!あんたぁ」
 わかばとつくしが慌てて叫ぶが、女性客は厨房に飛び込み、見てしまった。

■挿絵[240×240(15KB)][120×120(6KB)]

「マジョリーフ……お前、なんという姿に」
「マジョライス、ひさしぶりね、わざわざ尋ねて来てくれたのかい」
 わかばとつくしがマジョライスの後から顔を出した。
「この人、魔女だったのぉ」
 わかばはマジョライスの険しい表情を見上げつつ呟いた。
「私は決着つけに来たのだ。マジョリーフ、お前との長きにわたる勝負にっ。私と勝負しなさい!」
「マジョライス、まだそんな事にこだわっているのか……。お菓子作り勝ち負けは無いと思うが……」
 マジョライスの一方的な闘志が厨房に渦を巻く。もはや引っ込みはつかない感じだ。そこに……。
「味勝負ね」
 新風の如く飛び込んできた上品な声。厨房の入口でブロンドの天然パーマをなびかせて名古屋さくらが立っていた。わかばは突然の、しかも何の脈絡も無いさくらの登場に戸惑っている。
「さくらちゃん、いつの間に?」
 さくらはマジョリーフとマジョライスの間に割って入ってきた。
「勝負品目は、え〜っと……プリンよ。各々、オリジナルプリンを百個製作。店頭販売して先に完売した方が勝ち。マジョリーフは魔女ガエルなので、あずさちゃん達が手伝うという事でいいかしら?」
 何故か手際よくさくらが勝負方法を説明する。
「なんで、プリンやねん」
「私、プリン大好きなのぉ」
 尋ねたつくしはさくらの返事に呆れてしまう。
「私は、構わないわよ、勝負が出来るのなら」
 マジョライスはやる気だった。
「わかりました。やりましょう…それであなたの気がすむというのなら」
 マジョリーフも渋々、承諾した。
「もう、あんたいきなり出てきて勝手な事を〜」
 つくしがさくらに言う。でもさくらはニコニコしているだけだった。あずさはつくしを止めながらさくらに言う。
「ありがとう。あなたが機転を利かせてくれなければ、膠着状態が続いていたわ」
「いえいえ。私は美味しいプリンが食べれれば、それで良いの。魔女界トップクラスのパティシエ魔女が二人、競い合って作るプリン。想像しただけでとろけてしまいそうですわ」
 と、さくらは何やら別次元の空想に浸っているみたいだった。

***

 マジョリーフの店の厨房を二つに分け、それぞれに調理が始まった。マジョライスは高度なテクニックを駆使して料理を始めていた。使う材料、作る物はもう決っているようだった。
「ちょっと、あの魔女、無茶苦茶凄いんちゃうか」
 マジョライスの一寸の無駄も無い美しい動きに見惚れながらつくしが言う。あずさもマジョライスの動きを観察して言う。 「そうね、あの動き、只者では無いわ」
「ハイハイ。マジョライスを見ていてもこっちのプリンは出来ませんよ」
 マジョリーフはそう言ってあずさ達を集中させた。こちらも作業を始めるみたいだ。