おジャ魔女わかば
第40話「最後の試験?」
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 箒で冬空の中を飛びながら、わかばは考えていた。
「魔法で良い事…人助けだよね…でも、まず困っている人を探さないと…そうだ!」
 何か閃いたわかばはグイっと箒を操り街に急降下した。建物の影に着地し魔女見習い服を解除。私服に戻るとタップから占い道具一式を取り出し、それを抱えて駅の方へ小走りで走って行く。わかばは駅前の歩道の隅で、路上占い師を始めたのだった。
「まさか、マジョミカに習った占いがこんな所で役に立つなんてね」
 フード付きのマントで顔を隠したわかばはそう呟いて微笑む。わかばはここで悩めるお客さんが来るのを待つことにした。駅前だけに人通りも多く、通行人の視線が人見知りのわかばには痛かった。しばらくする警官がやってきて「勝手に商売しちゃ駄目」と怒られた。もうちょっとで保護されそうだったが、わかばが泣きそうな顔をしていたので、警官もそこまではと許してくれた。
 警官が帰った後、わかばは渋々、占い道具を片付け始めていた。そこに見るからに元気そうなお爺さんが走ってきた。お爺さんはわかばを見て近寄ってきた。
「ほほう、かわいい占い師さんじゃな…当たるのかい?」
 弾む息でそう尋ねてくるお爺さん。わかばは苦笑いしながら言う。
「えっえ〜っと、善処します」
「すこし見てもらうかの〜」
「はい!」
 わかばは嬉しそうに返事した。そして片付けていたテーブルをもう一度広げる始めるが……。
「実は、悪い奴らに追われておるんじゃ、何処へ逃げればいいか占っておくれ」
「へっ?」
 全く予想外の依頼に作業の手を止め、わかばは素っ頓狂な声を出してしまった。
「しまった、もう追ってが来おった」
 お爺さんは駅の階段を降りてくる黒服の男たちを見て声をあげた。そしてわかばの腕を掴んで、すぐ近くに止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「あ、あの…お爺さん?」
「とりあえず、2号線を甲子園の方へ向かってくれ、行き先は追って報せるから」
 お爺さんは運転手にそう言って、車を走らせた。そしてわかばに尋ねる。
「早く占っておくれ」
「はっ、はい〜」
 わかばは膝の上のエメラルドグリーンのマイ水晶玉を乗せる。こっそりと魔法玉を一つ、水晶玉に装填し、心の中で呪文を唱えた。
“ポリーナポロン プロピルピピーレン お爺さんの行き先を教えて”
 瞳を閉じて念を込めている感じのわかばがフッと目を開く。すかさずお爺さんが言う。
「占いはどう出た?」
「あの〜、球場の近くの公園に行くと吉とでましたが…」
 わかばは水晶玉の中に見えるヴィジョンから導き出される運命を説明した。
「…球場の近くの公園?阪神パークか、よし、目的地は阪神パークじゃ!」
 わかばとお爺さんを乗せたタクシーは高校球児の聖地、甲子園球場の隣の小さな遊園地、阪神パークを目指す。高速道路の高架下を走るタクシー。運転中、タクシーの運転手は不信そうにミラー越しに後部座席を伺っていた。それに気づいたわかばは思った。
“もしかして、少女誘拐だと思われていたりして…どうしよぉ〜でもそれってある意味間違っていないような…私、どうすればいいのぉ…できれば、警察沙汰にはもう巻き来れたくないなぁ…試験中だし”
 そして運転手はわかばの恐れていた事を口にした。
「あの、失礼ですが、お二人の関係は…」
「友達じゃ」
 お爺さんはあっさりと答えた。ある意味危険な言葉を…。運転手はそれ以上追及しなかった、いやできなかったようだ。このお爺さんの醸し出す雰囲気がそうさせているようだ。

 わかばとお爺さんは、阪神パークのゲート前でタクシーを降りた。
「さぁ、行くぞ…えっとお嬢ちゃん、何子ちゃんじゃったっけ?」
「…あの、わかばです」
 言われて、わかばは仕方なしに名乗った。
「わかばちゃんか、わしはたけしちゃんじゃ♪」
 たけしと名乗った老人はわかばの手を引っ張って、遊園地内へと入って行った。わかばは言い難そうにお爺さんに告げる。
「お爺さん、わかばちょっとトイレに…」
「“タケちゃん”と呼んでくれ!」
 お茶目な老人にわかばの目が点になる。
「…た、タケちゃん、トイレに行ってくるぅ〜」
 わかばは無理やりそう叫んで近くのトイレに飛び込んだ。そして個室でひっそり見習い服に着替えて、クルールポロンを奏でた。
「ポリーナポロン プロピルピピーレン お爺さんの偽者よ出て!」
“ボッポン!”
 わかばの魔法で、お爺さんのコピーが出てきた。
「お願い、あの追っ手の人たちの目を引きつけて」
 偽お爺さんは親指を立ててポーズを取ると、ニッと笑って走っていった。
「大丈夫かな?」
 その後姿を見つめ、心配そうにわかばは呟くのだった。普通に考えると女子用のトイレから出て行く時点でかなり怪しいのだが…。

***

 つくしは箒で浜の方へ来ていた。真下からいろいろな機械の音が聞こえてくる。住宅の建築現場の様だ。大工達がいろんな道具を手に家を作っている。すでに半分以上出来上がっていて、その完成図を予想できるくらいのシルエットになっていた。つくしは近くに降り立ち、魔女見習い服を解除して、その現場を見に行った。
“キュィィィィギギィン”
 つくしの近くの大工のおじさんが持っている電動ドリルの音だった。思わずつくしは声をかけてしまう。
「おじちゃん、調子わるそうやな、そのドリル」
「ああ、バッテリーは充電してるのに全然、パワーが出ねぇ」
 おじさんはつい困った風に答えてしまい、その相手が女の子だったので、びっくりする。
「お嬢ちゃん、危ないからあっち行っとけ」
「おじちゃん、ちょっと貸してみ」
 と言って、つくしはおじさんの手から電動ドリルを取る。そして慣れた手付きで分解していく。その華麗さにおじさんは思わず取り返すのも忘れ唸ってしまう。
「すげえな、お嬢ちゃんわかるのかい」
「このタイプは何度かバラしてるからな。ん〜、ほら、ここのコンデンサが劣化してんねん」
 つくしは基盤に貼り付いている小さな円筒状のパーツが膨張して少し膨らんでいるのを指摘した。
「おおっ、そうなのかっ」
 おじさんは関心している。
“替えのコンデンサがあればすぐなんやけど……魔法で出すかな…いや、魔法玉の価値を考えると元とられへんわ、そんなん”
 つくしは考え込んでしまう。そしてジッと基盤を見つめる。