おジャ魔女わかば
第41話「チェリー・チェリー」
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 二人は、空き地に捨て犬を見つけて、そこに着地した。
「動物相手なら、魔法がバレても平気と言う作戦ね」
 遅れてあずさが降りてきた。
「ポリーナポロン プロピルピピーレン ミルクよ出てきて!」
「ポチットナーポ ピコッチキララーレ ドッグフードよ出ろ!」
 わかばとつくしの魔法で犬の前にミルクとドッグフードが出現する。お腹を空かせていた犬はそれらを食べ始める。
「慌てんでもええねんで」
 犬を見つめるつくしの横であずさがクルールポロンを出した。
「パルーナスワン パパナノクーヘレン 犬の言葉よわかれ!」
 あずさが犬にかけた魔法で、ご飯を食べ終わった犬は人間の言葉で喋りだした。
「マズイッ!もう一杯!」
「な…なんやねんそれ!何か言う事あるやろ!」
 犬の言葉につくしが切れて突っかかる。
「ケッ、俺を平気で捨てた奴と同じ種族の奴に礼なんて言えないぜ!」
 と言って、犬は去って行った。あずさは目を丸くして呟く。
「すっかり人間不信に陥ってたのね」
 またしてもの失敗にわかばとつくしは白くなって座り込んでしまう。

***

 さくらとケンジが食事をしに入ったのは近くの大型スーパーマーケットの地下食料品売り場だった。
「姫、お口に合うかどうかわかりませんが…」
 と言い、ケンジはさくらに試食のウインナーを勧める。
「とんだ騎士様ね」
 さくらはクスッと笑って、つまようじを手にした。二人は試食コーナーを2週して、おなかを満足させ、スーパーを後にした。
「騎士様はいつもこうなの?」
 さくらの質問にケンジは簡潔に答えた。
「今、資金が不足しているゆえ…」
 さくらはそんなケンジを優しく見つめていた。

***

 再び、3人は虹宮の空を箒で飛んでいた。
「次は、私の番ね」
 何かを見つけたらしく、あずさは街に急降下していく。わかばとつくしもそれに続く。あずさの向かう先には人通りの少ない道でお婆さんがしりもちをついていた。お婆さんが連れていた犬は、お婆さんを心配しつつ、その場から走り去る男に向かって激しく吼えていた。
「あずさちゃん、このまま降りたらまずいよ〜」
 わかばが叫ぶがあずさは止まらない。魔女見習服のまま箒から飛び降りたあずさはポロンを振った。
「パルーナスワン パパナノクーヘレン 冷凍ビィーーム!」
 あずさの放つ冷気の光線が走り去ろうとする男の足を直撃、一瞬でその足は凍りつき、ゴロンと地面に転がる。あずさは男に近づき、手に持っていたハンドバッグを取り上げ、お婆さんの所へ走って戻って行く。
「お婆さん、大丈夫ですか、鞄、取り戻しましたよ」
 あずさはハンドバッグをお婆さんに渡した。お婆さんは鞄に付けたプレートの点字を触っていた。
「私のです、ありがとうございます、何かお礼を」
 お婆さんは深々と頭を下げて礼を言う。
「お礼なんていいです、私はこれで…」
 そう言って、あずさは箒でわかばとつくしの待つ上空へ登った。
「何で、どういうこと?あずさちゃん」
 わかばが帰ってきたあずさに疑問をぶつける。
「あの、お婆さんは…目が見えないのよ」
「どうしてそんな事、知っているの?」
 わかばがさらに疑問をぶつける。
「お婆さんは盲導犬を連れていた。それに鞄をすられた後、手元を一生懸命探してたから…たぶんぶつかった相手が見えてない…」
「あずさはん、あの一瞬でそれだけの事を判断したんかいな…」
「この分だと、次はあずさちゃん一人合格かも…」
 つくしとわかばは溜息をつく。とりあえず、3人は魔法堂に戻ることにした。

 緑と蒼と黒の3色の魔女見習いが箒で飛んで行くのを下から見上げていたさくらは微笑んだ。
“次の試験に向けて練習していますのね。私の励ましは要らないかもしれませんね”
 さくらの前を歩いていたケンジは振り返ってさくらに告げる。
「姫、何してんの。行くよ」
 ケンジについて行き、さくらは再び森に戻ってきていた。
「そういえば、この森、わかばさんのお店の裏の大森林ですわね」
 さくらは思い出したように小声で呟いた。森の中を歩きながらさくらは何気なくケンジに尋ねる。
「騎士様、実は家出中なんじゃありませんか?」
「な…なんで、そ…それを!」
 図星をつかれたうろたえようを見る限り、正解のようだ。
「姫も同じじゃないの?」
 苦しそうなケンジはさくらに同意を求めた。さくらは笑顔を見せながら…。
「それじゃ、そういう事にしておきますわ」
 二人は森の中で斜面に隠れていて一見わかり難い洞窟の前に来ていた。
「僕の秘密基地、今から二人のだ」
 ケンジは胸を張り、その洞窟へさくらを案内した。入口が木や草でほとんど隠されている為か、洞窟内はすこし暖かかった。さくらは洞窟の更に奥に光る物を見つけた。
「これは?」
 さくらが指を刺す。ケンジは側に来て説明する。
「勇者の剣だよ。これを抜く事ができた時、僕は本当の騎士になれるんだ!」
 そこには青い光を放つ剣が地面に突き刺さっていて、びくともしなかった。
「それで、見習いなのね」
 さくらは剣を見ながら納得する。
「ねぇ、何で騎士になりたいの?家出した事と関係あるの?」
 さくらはケンジに疑問を投げかけた。
「人に聞くときは自分から話すのが礼儀なんでしょ、姫様」
 ケンジはきりかえしてきた。
「そうでしたね、私の夢はお姫様になる事。笑われるんで誰にも話していませんけど、結構、本気ですのよ。あなたと出会った時、あなたは自分を騎士と言いました。ならば、私はあなたの前では自分が憧れるお姫様でいられると思いましたの」
「それって、理由になってるの?」
 ケンジは首を傾げている。そんなケンジにさくらは微笑むだけ。よくわからないが一応、さくらの理由を聞いてしまったケンジは渋々語りだした。
「タモツは弱い者いじめをするヤな奴なんだ。僕は、そんなタモツが許せなくて……」
「ケンカしたのね」
 さくらが言い難そうなケンジの替わりに言った。