おジャ魔女わかば
第42話「ヒミツの箒」
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 石像に魔法が弾けたがわかばは元に戻らない。それを見て、デラが何か思い出したように口にする。
「あなた、今、魔女界で話題の…30回、9級試験に落ちた魔女見習いじゃないの〜」
 “えっ”と、あずさとつくしはウララの方に振り向いた。ウララは顔を真っ赤にして頷いた。あずさは話題を変えようと、石化して転がっているわかばを見つめる。
「と、とにかく、わかばを元に戻さないと……でも、どうしよう」
「マジカルステージなら、解けるんちゃう」
 つくしがサラッと提案するが、あずさは難しい顔をしている。
「でも、2級の私達と無級のこの子じゃバランスが」
「魔法科学を忘れてもらっちゃ困るな」
 そう言ってつくしはピロリンコールで電話し始めた。

「パルーナスワン なごやかに」
「ポチットナーポ なめらかに」
 それぞれ黒と蒼の魔女見習い服に着替えたあずさとつくしが呪文を詠唱する。続いて半透明の立体グラフィックの白い魔女見習いが呪文を唱える。
「セパータサリス かろやかに」
 福井に住んでいる如月みると。魔法携帯電話ピロリンコールの魔法転送機能で、遠く離れた土地からマジカルステージに参加してくれているのだ。ウララは初めて見るマジカルステージに目をキラキラさせる。
「マジカルステージ! わかばを元に戻して!」
 マジカルステージで熱湯の入ったやかんが出てきた。
「なんでやかんやねん」
 つくしの言葉にウララが何気なく呟いた。
「やか〜んな〜い…」
 その場に居た一同に寒気が走った。しばらくしてウララが呟いた。
「石像にかけるんじゃないの…」
 何気にまだ居たデラが口を挟む。
「あら、いけない、こんな時間だわ、それじゃ、ごきげんよぉ〜」
 そして言うだけ言って、デラは壺から魔女界へ帰って行った。つくしとあずさは顔を見合わせて…。
「よっしゃ!マジカルステージを信じよう!!」
 意を決して、つくしは熱湯を石像に注ぎ始めた。立ち込める湯気を見ながらあずさは呟く。
「熱そう」
 しかし、わかばは元に戻らない。
「あれっ!?マジカルステージ失敗かなぁ…」
 とウララは不思議に思った。それに対しつくしは…。
「熱湯かけたら3分待つ…これ常識やろ」
 待つこと3分、わかばの石像の表面が溶けていき…肌をかなり真っ赤にしたわかばが叫んだ。
「あっつぅぅぅ〜いぃぃぃぃぃ〜〜!!!」
「わかば、はい、氷」
 あずさはいつの間にか大量の氷を入れた洗面器を持ってきていて、わかばに差し出した。わかばはバタバタと慌てながら体のアチコチに氷を当てて熱を冷まそうとする。
「何か、熱闘コマーシャルみたいやな」
 つくしはポツリと呟いた。

 その後、総出でウララの9級試験対策特訓が始まった。わかば達は自分達の一級試験対策もあったのだが、やはり思い詰めて魔法堂に訪ねてきたウララを放ってはおけなかった。
「じゃ、行くで、クリームの入ってないシュークリーム出してみ」
“ポンッ”
「縞々模様の水羊羹」
“ポンッ”
「私は、テレビちゃん12月号の限定全員プレゼント“バトルレッド超でかフィギア”を出して」
“…?”
「…わかば、自分の欲しいもん言ってどうするねん」
「だって…応募するの忘れてたんだもん!」
 ウララは的確に指定された品を魔法で出していた。それを見ながらあずさは疑問を抱く。
「これだけ出来て、何故、試験に合格できないの?」
 ウララは俯いて小声で答える。
「試験になるといつも上手くいかないんです」
「何か…外力が作用しているとでも?」
 つくしの言葉を聞いて、あずさはわかばに提案した。
「わかば、彼女が9級に合格できない訳を占ってみて…」
「でも、私、まだ未熟だから…」
 わかばはもじもじと答える。
「やってみる価値あるかもな…わかば、やってみ、早よっ!」
 語尾に力のこもったつくしの言葉に慌ててわかばは占い用の水晶玉に魔法玉を入れた。
「ポリーナポロン プロピルピピーレン ウララちゃんが9級受からない訳を映して!」
 わかばは微かに輝く水晶玉を覗き込んだ。
「あのっ、何が見えますか?」
 ウララが心配そうに尋ねる。
「箒が見える…ただそれだけ」
「箒?」
 わかばの意外な言葉に一同は声を揃え、首を傾げた。

***

 その晩、わかば達もウララの試験に立ち会うことになった。
「いらっしゃい♪」
 魔女見習い試験屋台で一同を出迎えたのは如月みるとだった。
「みるとちゃん…ここで何してるの?」
 わかばの問にみるとは胸を張って答える。
「今日は私が試験官なのさっ!」
 一同驚く。モタとモタモタが出てきて説明した。
「今日はね〜、魔女界のアイドルみるとちゃんにぃ〜、一日試験官をしてもらって、試験官魔女の仕事を多くの魔女に知ってもらおうという企画なのよ〜」
 辺りを見渡すと、屋台の周りに魔女テレビの番組スタッフが待機していた。
「さぁ、試験を始めるわよ!レッツゴー♪」
 みるとが元気に試験の開始を告げた。こうしてウララの31回目の試験が始まろうとしていた。
「気楽に行こうよ。大丈夫、上手く行くよ」
 昼間の合体魔法の時につくしからある程度の事情を聞いていたみるとはウララを優しく励ます。そしてパラパラと試験の問題集の本を捲り始めた。
「絶対に何か原因がある筈、それを見極める」
 あずさはそう呟いて試験をじっと見つめていた。一方、わかばとつくしは学生服姿の応援団に変身して、ウララの応援をしていた。
「それじゃ、だしてぇ〜!激辛の緑のキムチィ〜!」
 みるとがモタ達の真似をして、ゆっくりと試験のお題を読み上げた。ウララは力みながらも呪文を詠唱する。
「プワリンチュアリン ハレハレグゥ 激辛の緑のキムチ出てちょうだいっ!」
“!!”
 ウララが魔法を使った瞬間、あずさとみるとは何か悪寒を感じた。
“ポンッ”
 ウララの魔法で出てきたのは、緑色の…魔女ガエル、蘇雲の師匠マジョキムとチィの姉妹だった。
「なんじゃ」
「なんじゃなんじゃ」
「…ちょっと違うんだけどね〜」
 みるとは判定に困ってしまった。明らかに求めた物とは違うが…。