おジャ魔女わかば
第44話「つくしのつばさ」
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“キュィィイーーン”
 高速でエンジン音がドップラー効果を起し通り過ぎていく。ここは魔女達の世界――魔女界。その王宮にある女王の私室だった。女王はプライベートな時間を水晶玉で人間界のカーレースを観戦して過していた。そこに侍女マジョリンが現れた。女王は水晶玉の機能を停止させてマジョリンを見つめる。
「女王様、お呼びで」
 女王の前にマジョリンは跪いた。
「マジョトロンはなんと?」
「はい、本日中には完成するとの事です……女王様、一体何をマジョトロンに作らせているのですか?」
 マジョリンは女王から何も聞かされていない様子だ。マジョトロンと言えば魔女界で有数の発明家魔女。魔法グッズの多くが彼女のアイディアと技術から生み出される。
「じきに分ります。これからマジョサリバンの所に向います。支度を……」
 女王の言葉でマジョリンは馬車の準備に向った。発明家の次は魔女試験を司る元老院魔女マジョサリバン。マジョリンはまだ女王の考えが見えずに困惑していた。

 魔女教育委員会本部の応接室でマジョサリバンは声をあげた。
「女王様、本気ですか、そのような事っ!」
「はい。呪いの森が消滅した記念行事の一つとして、皆が楽しめるようにと」
 女王は引かない。
「しかし、魔女見習い1級試験でそのような事を……それに誰にそれをやらせるおつもりですか?」
 マジョサリバンは女王に問い詰めた。
「1級を追試する魔女見習いがいると聞きました。彼女達の追試にしてはどうでしょう。相手はマジョリンがします」
「えっ!」
 いきなりの抜擢にマジョリンが思わず声を出す。マジョリンは女王に何か言おうとしたが、マジョサリバンの声に打ち消された。
「分りました。しかし我々からもその相手を選出させてもらいます。簡単に合格させるわけには行きませんから」
「マジョリンは優秀ですよ……でもそのほうが盛り上がりますね。よろしくお願いします」
 話がつき、女王はここを後にした。マジョリンは納得いかない表情で、女王の後をついて行く。

 マジョサリバンはすぐに魔法研究所を訪れる。そこでマジョトロン案内されマシンを目にする。
「これほどの物が……」
「三台しか間に合わないがね」
 呟くマジョサリバンにマジョトロンがサラリと言う。
「魔女見習いはチームで参加してもらいます。それくらいのハンデは良いでしょう。それでも、この試験……そう簡単では無いでしょうから。それから、マシンの整備は」
「簡単なマニュアルは作ったけど、私は女王様のチーム担当になるから」
 マジョトロンはボサボサの髪の毛をボリボリ掻きながら言う。
「マニュアルがあるなら構いません。試験を受けるのはマジョフォロンの弟子ですから」
「おお、そうでしたか。なら問題無いでしょうね」
 マジョサリバンの言葉にマジョトロンも納得してしまう。
「それでは私も準備にかかる事にします」
 マジョサリバンはそう言って魔法研究所を後にした。

***

 薄い雲の広がる冬の青空の下を箒に乗った魔女が二つ飛んで行く。服の色は黒と緑。その服は魔女というより魔女に似せた子供服という感じ。そう彼女等は魔女見習い。魔女になるべく修行を積んでいる人間なのだ。緑の方、桂木わかばは、黒の日浦あずさに言う。
「たぶん、こっちだから」
 わかばは山の方を指差している。あずさは無関心そうに頷く。わかばは意外そうに続ける。
「でも、ビックリだよね。誰もつくしちゃんの魔法堂に行った事無いなんて」
 つくしとはわかば達と同じく魔女修行を行っている仲間の蒼井つくしの事。彼女等の師匠魔女はたいてい人間の世界で商売をしていて、わかばの師匠マジョミカは兵庫の虹宮と言う街で占い屋。あずさの師匠マジョリーフは京都で和菓子屋を営んでいる。そしてつくしの師匠マジョフォロンは東大阪でリサイクルショップをしていると言う。普段、一緒にいる事の多いつくしだが、その本拠地には誰も行った事がないという事に気付いたのだ。
「あの子、いつも他人の店にひょこっと出入りしてるからね」
「それに、あまり自分の事は話さないし」
 うんうんとわかばは納得する。あずさはボソっと不満そうに言う。
「私は別に知りたくないし、行きたくも無いんだけど」
「そんな事言わずにさぁ〜」
 わかばはあずさに泣き付く様に言う。そんなわかばにあずさはツンとしながら、心の中ではマンザラでも無いと思っているのだった。

***

 住宅街の片隅にひっそりとリサイクルショップMAHO堂という店があった。狭い店内には家電から一見では何か分からない機械までが所狭しと並んでいた。そこから長身でスタイルの良い女性店員が険しい表情で飛び出してくる。
「このMAHO堂のテリトリーに堂々と侵入してくるとは身の程知らずがっ。スクラップにして店頭に並べてやるわ」
 言うなり、店のロゴの入ったエプロンを脱ぎ捨てる。下は青いメイド服。長い髪はブルーメタリックに染め上げられていて、太陽光線を乱反射させている。
「フブキ姉さん、待ってっ」
 店内から同じく青いメイド服に店のエプロンをした水色のショートヘアの女性が出てきて止めに入ろうとするが、フブキと呼ばれた方は無視して一気に飛び上がる。まるで空気を操る様にフワリと浮き上がったかと思うと、一気に加速して視界から消えた。
「イブキ、つくしに連絡して。それから私のサポート。被害を最小限に抑えます」
 店内の掃除をしていたイブキという濃紺のセミロングの髪の少女がめんどくさそうに答える。
「シブキ姉さん……サポートって言っても、空飛んでるフブキ姉さんに私達、手が出ないよ」
「それでもやるのよっ。ほんとに、マスターフォロンの居ない時にっ」
 シブキという女性は苦笑いを浮かべながら、状況の打破を模索していた。

 店の近くの山の中腹に小屋があった。MAHO堂店内に入りきらない商品を置いている倉庫だった。つくしはそこで何やら作業をしていた。
「ふー。もうちょっとかな」
 伸びをしたつくしは魔法携帯電話ピロリンコールに着信がある事に気付く。
「イブキからやん。またフブキがスクランブルしたんかな。どーせカラスかなんかやろ」
 そう言ってつくしは苦笑いするのだった。