おジャ魔女わかば
第44話「つくしのつばさ」
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「元々、私達は王宮騎士団ロイヤルガードに依頼されてマジョフォロンが開発したモノでした」
「ロイヤルガード」
 イブキの言葉にわかばは聞き返してしまう。それをつくしが補足する。
「まぁ、簡単に言うと魔女界の軍隊やわ」
「ロイヤルガードの支援と資金の元、陸海空のそれぞれに特化した魔法人形が開発されました。しかし、採用直前の段階になってマジョフォロンは私達に重大な欠陥があるとし、採用を見送る様にロイヤルガードに進言しました。そしてそのまま私達はマジョフォロンの倉庫で眠る事になったのです」
 イブキの話を聞いたあずさが尋ねる。
「それじゃ、今は欠陥を改善したモノがロイヤルガードに採用されているって事?」
「いや、マジョフォロンが作ったのは三姉妹だけ。ロイガとは揉めたらしいけど、それ以上の開発は行わなかったみたいやわ」
 つくしが答える。わかばは言い難そうに尋ねる。
「欠陥って?」
「ロイガは人員不足を補う為に魔法人形の実用を検討してたみたいなんやけどな。実際にマジョフォロンが作った魔法人形は完璧すぎたんや。それが欠陥」
 つくしの答えにわかばは首を傾げる。あずさが意味を汲み取って呟く。
「つまり、心があったって事ね」
「そういう事や。ロイガは魔法人形をそれこそ使い捨てのコマの様に扱うやろ。マジョフォロンはコマを作ったんじゃ無く、命の入った人形を作ったんやわ」
 つくしは自慢げに言う。わかばはイブキを見つめて言う。
「それじゃ、今は幸せなんだね」
「ええ。おかげ様で」
 イブキは笑顔で答えた。あずさは話を聞いて、さっき戦った相手が元軍事兵器として開発されたモノであった事にゾッとする。そんな事に関係無く、わかばはつくしに尋ねる。
「ところで、つくしちゃん、何作ってたの」
 わかばの興味はつくしの後ろに積んである機械に向いていた。それは大きな翼を持つ何かだった。
「人力飛行機。これを飛ばすんが、今のウチの目標。魔女になる前に絶対にやっておきたいんや」
 何故か熱く語るつくしにあずさが尋ねる。
「鳥人間に出る気?」
「……上手く行けば」
 つくしは照れながら答えた。

 こうして、つくしの作り掛けの人力飛行機の組み立てをわかば達も手伝う事になった。ほぼつくしに言われた通りに動くだけの仕事だが。飛行機の機構を見たあずさが尋ねる。
「魔法は使わないの?」
「ああ、これには魔法科学は一切使ってへん」
 マジョフォロンの元で魔法科学を学んでいるつくしなのにどうしてとわかばは首を傾げる。
「これだけはな、人間の技術だけで飛ばさなあかんねん。でないとウチ、マジョフォロンに近づけない」
 拳を握り締め、決意を込めるつくし。
「何か訳があるのね」
 あずさが言う。
「つくし、倉庫の外、坂道を200メートルほど降りたあたりで少年がずっとこっちの様子を伺っているけど」
 索敵モードのイブキがつくしに報告する。
「それはええねん。見守ってくれてるだけやから。あいつの為にもウチはこれを飛ばさなあかんねん」
「マジョフォロンと飛行機と男の子。一体、どういう関係なの」
 あずさがつくしに詰め寄る。つくしは逃げる様に言う。
「普段、他人の過去なんてどうでも良いようなあずさはんが……何で」
「わかばも聞きたいな」
「私のデータベースに追加したい情報です」
 わかばとイブキも期待を寄せている。
「そんなに期待されてもなぁ……何ら普通の話やで。良いんか」
 もったいぶるつくしにわかばとイブキはブンブンと頷く。あずさも小さく頷いている。
「それじゃ、みんな、手ぇ動かしながら聞いてや」
 そう言って、自分も作業しながら、つくしは話始めた。
「あの時は空を飛べると、あいつとなら飛べると信じていた……」
 つくしの気持ちは一年前に溯って行く。

***

 去年の四月。4年生になったばかりのつくしが自分のクラスの教室に入って行く。地震で両親を亡くしてからは親戚の家を転々と。大人達の都合だった。その為に何度も転校を繰り返す。その為、どこか諦めた感の出ててきたつくしはあまり友達と深く付き合おうとはしなかった。本来の人懐っこい性格を無理に抑えて。当時から機械弄りが好きで、いろんな家電や機械を分解して遊んでいた。友達は機械だけと思い込むかのように。そんなつくしだったが、その日……偶然、目にしたノートが運命を動かしたのかもしれない。
「ノート落ちたで」
 教室内を歩いていたつくしは足元に落ちた開かれた状態のノートを拾い上げた。すぐ側にはノートを拾おうと、自分の席から立ち上がった少年の姿がった。つくしの目がノートの開かれたページに描かれた図面に留まった。
「神崎君、これなに?」
「な、何でも無いよ」
 ノートの持ち主、神崎カズキはノートを奪い取るようにし、突っぱねる。
「飛行機みたいやったけど……その翼じゃ飛ばれへんのとちゃう」
 つくしはカズキにそう告げ、立ち去ろうとすると、今度はカズキが背中越しに興奮した声をかけてくる。
「蒼井さん、こういうの詳しいのっ」
「まぁ、ちょっと……趣味みたいなもんやけど」
 つくしは振り返り頭をポリポリしながら答える。カズキはガシッとつくしの手を握り、感激に震えている。そしてつくしの耳元にこっそりと告げる。
「人力飛行機を作ろうと思ってる。まだ誰にも内緒なんだけど…」
「へぇ、面白そうやん」
 つくしは素直に思う。企画にでは無くカズキの情熱にだ。カズキは真剣につくしを見つめ言う。
「一緒にこいつを飛ばして欲しい」
「えっ」
 つくしは一瞬、答えに躊躇した。しかし、すぐに我に帰り、ニッと人懐っこい笑顔を見せて言う。
「ウチが手伝ったら、とんでもないモン出来るでぇ」
「頼もしいです」
 とカズキは笑顔を見せた。こうして、二人の飛行機作りが始まった。つくしにとって、こんなに気の合う友達は久しぶりだったのかもしれない。

 数日後、二人は小高い丘の上で持ち込んだパーツを組んでいた。
「しかし、いい場所見つけたなぁ」
 つくしが目前に広がる緑の坂を見て言った。
「滑走路にもってこいだろ。それにしても、蒼井のおかげでノートの落書きがこんな立派な飛行機になったんだからな、お前凄いよ!……飛ぶよな、これ」
「ウチと神崎の合作や、絶対飛ぶて!」
 そう言ってつくしは最後のパーツをネジ止めする。