おジャ魔女わかば
第45話「超音速の魔女達」
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 人間が魔女を魔女と見破った時に発動する魔女ガエルの呪いにより、魔女ガエルの姿になってしまった魔女を元の姿に戻すには見破った本人が魔女になり魔法を使うしか無かった。この物語の主人公、桂木わかばは魔女と出会い、この様な事情で魔女修行を始めた。
 人間が魔女になるには魔女界の定める魔女見習い試験を9級から受験し、1級まで合格しなければならなかった。これに加え魔女界にとって良い行いをする事で貰える認定玉を集める必要もあった。わかばは幾多の試練をこの修行により出会った仲間達と乗り越え、魔女になるまであと1級試験合格のみという所まで漕ぎ着けたのだが、最難関と言われる1級試験『人間界で魔法を使いありがとうと言ってもらう』において、仲間の日浦あずさ、蒼井つくし共に不合格を喫してしまう。わかば達は落ち込み、次の試験に向けて特訓を重ねた。そしていよいよ1級試験追試の日が訪れたのだが、それは予想とは違う形の試験だった。

 魔女界に急造されたレーシングサーキット。ここがわかば達の1級試験の舞台だった。魔法科学を駆使して設計されたレーシングマシンを前に試験官魔女のトップ、マジョサリバンは『このレースに勝てれば合格』と告げる。一日目はマシン調整と予選タイムトライアル、二日目が本戦とし、コースを50周し順位を競う事になる。本来50周を一人で走る訳だが、用意出来たマシンの数の都合により魔女見習いは三人でチームとし、交代制となった。なお、乗り換えは本戦中に二度だけと決められた。

***

 わかば達のピットの隣に位置するチームロイヤルと書かれていたピット内に現れたのは、マシンをいじるマジョトロンとレーシングスーツに身を包んだマジョリンだった。それを見たつくしが衝撃を受けていた。
「嘘やろ…マジョトロンが相手じゃ勝てへんやんかぁ」
 マジョトロンは魔女界で有名な発明家魔女。つくしも良くお世話になっていた。このマシンも彼女の発明だ。いわばプロと言っても良い。弱気なつくしをわかば達が元気付ける。
「大丈夫だよ、レースはマシンの性能の差が戦力の決定的差じゃないんだよ」
「マジョリンさんは女王様の専属運転手よね。いわばプロドライバー。でも、私達は三人でチーム。勝てない相手では無い筈よ」
 わかばのあずさの言葉につくしは苦笑いし、スパナを手に立ち上がる。
「そやな。あれこれ考えてても何も解決せーへんわ。まずはええタイムを出して明日のポールを取るとするか」
 と言って、つくしはマシンを弄り始めた。今日の予選のタイムで明日の本戦のスタート時のポジションが決るのだ。目指すは一番前のポールポジション。

***

 予選のタイムトライアルの時間になり、サーキットのスタンドで超満員の魔女は各チームの走りに声援を送っていた。特にマジョリンがコース内に居る時の声援が凄かった。一方、チームワカバと命名されたわかば達のピットでは魔女見習い仲間の如月みるとと名古屋さくら、そして李蘇雲の三人が応援と手伝いに来てくれていた。
「これで良しですわ」
「上出来、上出来ぃ」
 さくらとみるとは満足げにマシンを眺めていた。二人によりマシンは緑色に塗装され、さらに手作りの“わかばマーク”のステッカーを貼られていた。
「いざ、参る」
 あずさがコクピットに座り、エンジンを始動させた。そしてゆっくりコースへ出て行った。
「ねぇ、みると。このコース、三重の鈴鹿サーキットをモデルにしたらしいけど、全然似てないわね」
 さくらはスタンドの巨大モニターに映るコースの全容を見つめながら何気に呟いた。
「魔女界って、ちょっといい加減かも……」
 みるとが苦笑いする。あずさの駆るマシンがホームストレートを駆け抜ける。同時にタイムの計測が始まる。
「つくし、あの短時間でこれだけマシンを変えられるなんて……これならいける!」
 あずさはテスト走行の時とは違う、マシンとの一体感を感じ、それが自信へと変わる。

「お隣のチームロイヤルって女王様のチームらしいですわ」
 隣のピットを見ながらさくらが言う。
「もう一チームいるんだロ、レースに参加するの」
 蘇雲はチームワカバのもう一方の隣のピットを指差しながら言う。そちらはまだシャッターが閉まったままなのだ。シャッターには“チームサリバン”と書かれている。
「あっちはマジョサリバンが作ったチームって事みたいね。」
 みるとはどんなドライバーが出てくるのか、いろいろ想像しながら言うのだった。

 わかばとあずさのタイムアタックが何回か済んで、二人は休憩を取っていた。つくしはマシンの微調整を行っている。
「わかばちゃんが1分38秒58であずさちゃんが1分36秒08かぁ〜二人ともすごいよ」
 みるとが計測値の並んだボードを見ながら感心する。
「いや、シミュレーションじゃ、あと2秒は縮める事が出来るはずや」
 つくしはまだ満足していなかった。そして、隣のピットからマジョリンの乗るマシンが発進した。わかば達はマジョリンのマシンを追うカメラの映像を映している巨大モニターを食い入るように見つめる。そしてマジョリンのタイムが巨大モニターに表示される。
「1分33秒45…マシン性能やトップスピードはそう変わらない筈なのに…どうして」
 あずさが唖然として巨大モニターを見つめる。
「マジョリンはんの走ったラインがこのコースのベストラインなんや。このラインをベストな方法で走る、相当なテクニックがいるはずや」
 つくしが説明した。それを聞いていたシシがわかばの耳元で囁く。
「シシシ〜」
「えっ……わかったよ。つくしちゃん、私もう一回走ってくるよ」
 そう言ってわかばはマシンに飛び乗った。わかばはマジョリンがピット前を通り過ぎてからコースインする。そしてマジョリンの2回目のタイムアタックが始まった。わかばはマジョリンの少し後を追いかけるように走っていた。
「シシ、マジョリンさんライン、憶えてね」
「任せて!」
 ピットであずさは感心する。
「わかば、マジョリンの走りを盗む気なのね」
「そう簡単に行くのカ」
 蘇雲は疑問そうに呟いた。マジョリンのラインを記憶したわかばのタイムアタックが始まった。