おジャ魔女わかば
第45話「超音速の魔女達」
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 フブキは溜息をついて作業を続ける。このフブキ、スペアボディの魔法人形という事になっているが、実はマジョフォロンの知り合いのある魔女が魔法で化けている姿だった。フブキは何か言いたげだったがピットにあずさとわかばがやってきたので、黙って無感情を装い手を動かすのだった。
「魔女見習い日浦あずさです。パティシエ魔女のあなたが何故?」
 あずさが紅茶を口にしていたマジョバニラに話し掛けた。 「マジョリーフの弟子か、噂は聞いています。パティシエが趣味で車を走らせていてはおかしいですか」
 マジョバニラが余裕の表情を見せた。趣味と言われてあずさは何も言い返せない。わかばは悲しそうにマジョフォロンに問いかける。
「マジョフォロンさん、どうしてこんな事をするんですかっ」
 それは悲痛な叫びのようでマジョフォロンの胸に突き刺さる。マジョフォロンは俯いて何も答えられないでいると、そこにつくしがやってきた。
「マジョフォロン、ウチは負けへんから。絶対っ」
 つくしはそれだけ言って、わかばとあずさをつれてこのピットを出て行く。そのつくしの姿をマジョフォロンは嬉しそうに見つめる。
“既に自立してるみたいじゃないの”  フブキに化けている謎の魔女はそう思って安心する。

「つくし、もう大丈夫みたいね」
 ピットを出た所であずさが安心したように言う。
「ああ。あずさはん、ごめん。うち一人じゃ無いって事忘れてた」
「それじゃ、一気にマシン仕上げよ」
 わかばが嬉しそうにそう言って自分達のピットへ走ろうとするが、つくしが鋭く呼び止める。
「あかん。二人は大事なドライバーや。明日に備えてしっかり休んでおいて欲しい。マシンは責任持ってウチ等が完成させるから」
「そうさせて貰うわ」
 あずさは素早く理解して帰る支度を始める。わかばは納得出来ない表情だ。そんなわかばをあずさが引っ張って行く。
「各自、出来る事を最大限にする。これもチームワークよ」
 あずさに言われてわかばは渋々帰って行く。

 魔女界は夕暮れだった。魔女界と人間界はちょうど昼夜が逆転しているという。地球の時差を考えるとちょっと不思議だが、そこは魔法で説明がつくらしい……という事にしている。従って人間界では朝方。それぞれの自宅に戻ったわかばとあずさは本戦に備えて昼間を眠る事にした。

 そして人間界で夕方。それは魔女界の朝。そう決戦の日なのだ。目覚めたわかばは自分の机の一番上の引き出しを開いた。そこにはわかばの宝物入れで、大事な物が詰まっていた。わかばの手は真っ直ぐそこからペンダントを取り出した。
「ゆうまさんにもらったペンダント、お守りにします。私に力を貸して……今度こそ魔女になる」
 わかばはピンクのロイヤルシードをあしらったペンダントを首にかけ、笑う月に照らされながら魔女界に出かけた。

***

 ウィッチーフォーミュラ2日目本戦。レースはサーキットを50周。スタンドは超満員。かなり盛り上がっていた。一番人気はやはりチームロイヤルのマジョリン、若さとマジョトロンのバックアップはポイントが高い。続いてチームサリバンのマジョバニラ、ちょっと高齢のため、長時間のレースでは不安要素が多いが実力は一番らしい。この段階での魔女見習いチーム・チームワカバの勝利は“奇跡でも起こらなければ絶対に無理”と酷評されていた。
 各ピットではスタート前の最終調整が行われていた。カーナンバー3、緑に塗装されたマシンのシートに身を預けるあずさが呟いた。
「いつもの試験官魔女の姿が見えないわね」
「そういえばそうだね。モタさん達がいないや」
 マシンに魔法玉を装填していたわかばが答える。忘れかけていたが、これはわかば達の魔女見習い1級試験なのだ。眠たそうなつくしが説明する。
「今日な、福井で1級試験があったんや、たぶんその後処理で今、いないんじゃないかなって」
「そうだったんだ。全然知らなかった」
「何だか気をつかわせたみたいね」
 わかばとあずさが申し訳無さそうに言う。試験前にわかば達の手伝いをしてくれていた事を知ったからだ。つくしは当然の様に言う。
「あの三人なら大丈夫やろ。じきに合格を報告しにきてくれるわ」
「そうね。それより、あなた…一睡もしてないんでしょ、大丈夫?」
 あずさは心配そうにつくしに尋ねる。
「レースまでがウチの戦いやからな……ベストは尽くしたつもりや、後は頼むで!」
「了解」
 ヘルメットをかぶるあずさは、そのヘルメットの中で小さく呟く。
「あなたの頑張り、決して無駄にはしないから」
「ん、あずさはん、何か言った?」
 このセリフはつくし達の耳には届いていなかったが、気持ちは既に届いていた。

***

「さぁ、いよいよ各車がスタート地点に揃いました。ウィッチーフォーミュラーの開幕です。実況は私、問屋魔女デラ、提供はマジョドン様の魔女問屋。そして今日は解説に魔法使い界のトイレ掃除大臣オヤジーデさんにお越しいただいております」
 実況席でデラが実況を始めた。実況モードのデラはいつものミュージカル調とは違っていた。激しく叩きつける様な口調だ。
「オヤジさん、今回のウィッチーフォーミュラー、どう見ますか」
「はい、やはりチームロイヤルのマジョリンさん一点買いでしょう。ワタクシ、魔法玉50個賭けましたよ」
「あの、オヤジさん公共の放送でそんな話はちょっと……それより魔女幼稚園はいいんですか?マジョポンとマジョピーが医療班のマジョハートの手伝いに駆り出されているみたいだし」
「心配はいりませんよ、マジョミラー様がいますからっ。それに、ほら、あそこで園児たちと観戦しているのであります」
 オヤジーデが指さす先では、魔女幼稚園の園長マジョミラーと園児達がスタンドの最前列で観戦していた。マジョミラーの横に座る園児ハナは元気が無かった。
「ハナちゃん、元気ないみたいね」
「どれみっち達とわかれて魔女幼稚園に戻ってからずっとああなのでございます」
 デラとオヤジーデは心配そうにハナを見つめていた。

 スタート直前、スタンドは嘘のように静まりかえり、各マシンを見つめていた。張り詰めた空気がスタンドを支配する。そして遂にマジョサリバンの合図と共にレッドシグナルがブルーに変わり。エンジンノイズを撒き散らして、3車は一斉に走り出した。