おジャ魔女わかば
第46話「ロイヤルパトレーヌの力」
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 呪いの森消滅記念として開催された魔女界のモーターレース“ウィッチーフォーミュラー”。そのお祭りの様なレースも終り、恐ろしい位に静まり返ったサーキット。全ての後片付けが終り、ピットのシャッターを下ろすブルーメタリックな長髪の女性。発明家魔女マジョフォロンの助手の魔法人形フブキであるのだが、中身は違うみたいだ。そのフブキが指を弾くと全く別の姿に変わる。これが彼女本来の姿。この姿で足元にいた魔女ガエル――マジョフォロンに向かい嬉しそうに話す。
「お弟子さんも無事に試験に合格しましたし、これでオールオッケーですよね」
「そうじゃな。手伝ってくれてありがとうな」
 と礼を言うマジョフォロンにその魔女は照れてしまう。そこに魔女ガエルが二匹やってくる。
「マジョフォロン、祝いに一杯行かんか」
 マジョミカがお猪口を掴む指の形を見せながら言う。もう一人はマジョリーフだ。この三匹の魔女ガエルは共に弟子の魔女見習いが今日、ここで試験に合格し魔女に昇格したのだった。
「そうじゃな。こいつも一緒で良いかな」
 マジョフォロンはそう言って、隣の魔女を指差す。彼女を見つめ、マジョミカは呟く。
「もしかして……マジョミナミか?」
「お久しぶりです。マジョミカ先生」
 マジョミナミと呼ばれた魔女が頭を下げる。彼女はマジョミカが魔女教師だった時の教え子なのだ。マジョミカは記憶を辿りながら言う。
「お前、確か魔法研に就職して……数年で辞めたな。その後、何してたんじゃっ」
「人間界に行って、いろいろですよ」
 と答えるマジョミナミ。マジョミカは何か納得出来ない様子だ。そんなマジョミカにマジョリーフが言う。
「積る話は酒を飲みながらでも良いだろう」
 こうして四人は魔女界の繁華街へと消えて行く。

***

 魔女界王宮の女王付きの侍女マジョリンが箒で飛んでいた。彼女は顔をはじめ、体のあちこちに絆創膏が貼られていた。
「だから私はマジョトロンのマシンなどに乗りたくはなかったのだ」
 過去を悔いる様に呟く。先程のウッチーフォーミュラーで女王チームとして発明家魔女マジョトロンの指揮の下、レースに参加したマジョリンだったが、マジョトロンの秘密兵器と言われるパワーアップ回路の暴走でマシンと一緒に爆発してしまったのだった。今はその治療の帰りという事になる。ある人間界への扉のある地に続く一本道に差し掛かったマジョリンは、その途中で3つの石像を見つけた。よく見るとそれは見覚えのある顔だ。
「何で、こんな物が……まさかっ」
 マジョリンは慌てて箒を急降下させる。石像はさっきまでマジョリンとレースを繰り広げていた魔女見習いの三人。桂木わかば、日浦あずさ、蒼井つくしなのだ。マジョリンは慎重に石像を調べていく。そしてそれが魔法により石化している事に気付く。
「良かった。魔法にパスワードは設定されていないようだ」
 と呟きながら、指を弾くと魔法が解除され、わかば達が石から元の姿に戻り自由になる。元に戻ったわかば達は口々に叫ぶ。
「ビックリ……マンだよぉ〜」
「わかば、それはもうええちゅうねん」
「みんな!水晶玉が無くっているわ」
 水晶玉が無い事に気がついたあずさが叫んだ。
「何だって!」
 マジョリンが驚愕の表情を見せる。
「マジョリンさん?」
 わかばが気になって尋ねた。マジョリンは慎重に語りだす。
「魔女見習いが手に入れる水晶玉、即ちまっさらな水晶玉は魔女界の裏市場で高値で取引されると聞きます」
「どうして?」
 あずさが疑問を抱く。
「まだ、何にも染まっていない水晶玉は、簡単に染める事が出来るということです。魔女界では1人の魔女に水晶玉は1個しか与えられません……でももし水晶玉を2個以上持てたら。とにかく女王様の所へ。それから対策を考えましょう」
 わかば達はマジョリンに言われ、王宮へ戻って行くのだった。

 王宮の女王謁見の間。わかば達はそこで待たされていた。しばらくしてマジョリンを従えて女王が姿を現す。
「事情はマジョリンから聞きました。直ちにその魔女を捜索させます。マジョリン準備を……」
 女王に言われたマジョリンが捜索の為に走り出そうとした時、あずさが一歩前に出て発言した。
「女王様、できれば私達の手で水晶玉を取り戻したいのですが」
 あずさの言葉にわかばとつくしは最初は驚いていたが、すぐに納得して頷く。
「ウチ等の水晶玉やもんな。盗られたんもウチ等の不注意なら、取り戻すんもウチ等がする事やろな」 「私達、ポロンで魔法が使えますから、何とかなると思います」
 女王は3人の顔を見て、頼もしそうに告げる。
「もう一人前の魔女という訳ですね……わかりました」
「女王様!」
 女王の考えを理解したマジョリンが驚いて、女王に詰め寄る。
「マジョリン、例の物を……」
 女王はマジョリンに言う。マジョリンは納得できない様子で、指を弾いて魔法を使い何かを出現させた。
「1級に合格した魔女見習いにしか使えないタップです」
 マジョリンの手に出現したトレーには3つの花をモチーフにしたカスタネットの様なアイテムが乗せられていた。
「リズムタップです。取りなさい」
 わかば達は首を傾げながらリズムタップというアイテムを手にする。マジョリンは淡々と続ける。
「これはカスタネットの用に叩きながらお着替えするのです」
「それじゃ、これって新しい魔女見習いタップ?」
 やっとアイテムの意味を理解したわかばが呟く。そしてわかば達は今の見習服を解除し、言われた通りにリズムタップをカスタネットの様に叩いた。
“タンッ”
 手に手袋が現れた。次に足元で叩く。
“タタンッ”
 靴が変化した。
“タンッ”
 手を上げて頭上で叩き、ワンピースの見習服を出現させ、被るように着る。
“タタンッ”
 最後に頭で叩いて、帽子を出現させてそれをかぶり、タップを胸に装着する。それはリズムタップと同じく花をイメージしたデザインの魔女見習い服だった。カラーは今までのと同じでわかばが緑、あずさが黒、つくしが蒼となっている。
「プリティ・ウィッチー・わかばっち〜」
「プリティ・ウィッチー・つくしっち〜」
「プリティ・ウィッチー・あずさっち〜」
 3人でポーズを取る。その直後、あずさが声をあげた。
「ああっ!」