おジャ魔女わかば
第46話「ロイヤルパトレーヌの力」
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 今まで、ポーズとプリティ〜の掛け声を拒否していたあずさがわかばとつくしにつられてやってしまったのである。あずさは顔を真っ赤にし、わかば達に背中を向ける。わかば達はそれを微笑ましく見ていた。3人は胸のタップを叩いてポロンを出した。
「おおっ…かわいいっす」
 出てきたステッキ状のアイテムにわかばが感嘆の声を出す。
「ピコットポロンです。タップの魔法の実をグリップにはめて使います。魔法の実は一つで魔法玉数十個分の威力を持ちます」
 マジョリンが説明した。リズムタップには花弁一枚につき一つ魔法の実が収納されていて、その一つに指を近づけるとプリッとゼリーの中から飛び出して指に貼り付く様に出てくる。3人はそれをピコットポロンのグリップのカバーを開き、そこにある魔法の実と同じ形の窪みにはめてカバーを閉じる。
「これなら、楽勝やな!」
「やってやるぜぇ!」
 つくしとわかばが喜んでいる所に女王が告げる。
「相手は魔女ですよ、しかも盗賊。見習いクラスの魔力では太刀打ちできません。そこでこれを……」
「女王様、何もそこまでっ」
 止めに入ろうとするマジョリンを無視して女王は両手を上げる。そこに光が集まり、その光は三つに分離し、わかば達の胸のリズムタップに吸い込まれる。
「あなた達にロイヤルパトレーヌの力を授けました。今の光は高度に純粋な願いに反応し力を貸してくれます。さぁ、光をイメージしながら、水晶玉を取り戻す為の力が欲しいと純粋に願うのです」
 女王に言われ、わかば達は難しそうに表情を浮かべていたのだが、3人とも徐に胸のリズムタップに手を当て、瞳を閉じて願う。
“私達の水晶玉を取り戻す為の力を……”
 しばらくして、わかばは周囲からブワッと溢れ出るパワーを感じて目を開けると、足元から光の粒子が飛び出して自分の体を覆い尽くそうとしているのだった。
「ええっ、何っ」
 驚くわかばに構う事無く、光の粒子は大きな花の形になり、わかばを包み込んだ状態で蕾となりくるくると回り始める。
「きゃっ」
 あずさもわかばと同じ様な状況になる。つくしは一人だけ何も起きない事に焦りを感じながら念じ続ける。
「雑念を棄てなさい」
 マジョリンがつくしに告げるが、それを意識すればするほどに雑念となってしまうのだった。二つの蕾は突然花開き、中から白を基調とした花びらのような魔女見習服に身を包んだわかばとあずさが現れた。そして光と共に丸いポロンが降って来る。そのポロン――リースポロンを手にして2人はポーズを決めた。
「き……綺麗」
 わかばは自分の手足をマジマジと見ながらうっとりしていた。
「これが、噂のロイヤルパトレーヌのドレス」
 あずさの呟きに女王が付け加えた。
「そうです。従来のものとは違い単独でロイヤルパトレーヌになる事が出来ます。但し3分間だけです。一回変身すると30分間チャージしないと変身できません。そしてロイヤルパトレーヌのドレスは悪しき魔法を跳ね返します。さらに、マジョリン……例の物を」
 例の物のオンパレードに多少ウンザリしつつ、マジョリンは高価な箱を取り出し開けて見せた。
「ロイヤルシードです。それぞれ2個ずつ取って、リースポロンに納めなさい」
 わかば達はロイヤルシードをリースポロンにセットした。
「リースポロンは短い呪文、例えばわかばちゃんなら“ポリーナパトレーヌ”と唱え願いを思うだけで魔法が使えます。しかもマジカルステージ並の威力で……しかしロイヤルシードは魔女界でも貴重です。決して無駄にしないように」
 マジョリンが淡々と説明した。泣きそうな声でつくしが訴える。
「あの……ウチだけ発動せぇへんねんけど。ウチもわかば達と一緒にっ……へっ」
 突然、つくしの体が光に包まれる。こうしてつくしもロイヤルパトレーヌの力を手にする事ができた。
「さぁ、お行きなさい」
 女王の言葉を聞いて、わかばはリースポロンを回した。激しくメロディを撒き散らしてポロンが回転する。
「ポリーナパトレーヌ!」
“ポンッ”
 即座に魔法が発動し、手の平サイズの液晶ディスプレイと数個のボタンのついた機械が出てきた。あずさがそれを覗き込んで尋ねる。
「わかば、何をしたの?」
「私達の水晶玉の在り処を示すレーダーを出したんだけど」
 と言うと、つくしがその機械を奪った。
「魔法で発明なんて卑怯やで!」
 と言いつつ、小型レーダーを操作している。
「魔女界にはもう居ないって事かいな…」
 つくしはボタンを押した。ディスプレイの表示が切り替わる。そして人間界にセットした時、反応を示す点が点灯した。
「“敵は人間界にあり”や!」
 こうして3人は人間界に戻る事にした。

***

 通常の魔女見習服に戻った3人は虹宮の空を飛んでいた。夜が明けそうな空を。わかばが魔法で出したレーダーによるとこの街にわかば達の水晶玉を盗んだ魔女が潜んでいるみたいなのだ。
「でも、どうして人間界なのかなぁ?」
 わかばは首を傾げ疑問を抱いた。つくしも不思議そうに呟く。
「売るとしても魔女界やろうしな」
「きっとほとぼりが冷めるまで、姿を消す気じゃないかしら」
 あずさはそう言って、箒のスピードを上げた。いてもたってもいられないのだ。

 3人はレーダーを頼りに、水晶玉を探すのだが、見つからない。
「がぁぁぁっ!この辺に居るはずやのにぃぃぃっ!」
 ついにつくしがキレた。そしてわかばにキツイ視線を送りながら言う。
「その機械、壊れてんちゃう?」
「つくしちゃん、そんなぁ〜」
 つくしの言葉にわかばがショックを受ける。あずさは1人考え込んでいる。
「相手は魔女だわ。レーダーがあっても、簡単には姿を見せないだろうな……ここはアレしかないな」
 あずさのひとりごとにわかば達も頷いた。3人は近くの空き地に降りて円を描いて立ち、魔法と想いを重ねた。
「ポリーナポロン あざやかに」
「パルーナスワン なごやかに」
「ポチットナーポ なめらかに」
「マジカルステージ! 私達の水晶玉を持っている魔女の居る所へ連れて行って!」
 マジカルステージが発動した。気がつくとわかば達は知らない場所に居た。
「何処?ここ?」
 わかばが辺りを見渡して言う。
“いらっしゃいませ”
 上から大きな声がした。見上げると……巨大な人間がいる。