おジャ魔女わかば
第50話「さよなら魔女界」
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「…何かムカつく言い方やな!」
 パソコンの調整をしていたつくしがムスっとして言う。
「商売の邪魔じゃーっ、どいつもこいつも出ていけっー!」
 マジョミカが飛び跳ねてブチキレた。あずさは颯爽とマジョミカの元へ走って行き、飛び跳ねるマジョミカを素早くキャッチし、サッと自分の背中に隠した。このあずさの行動で店内に居た者達は人間のお客の来店に気付いた。
「か、かえでちゃん、こっちだよ」
 わかばは焦り顔でかえで自分の占いスペースに案内した。
「あずささんの機転が無かったら、危なかったかも」
 ゆうまが小声で呟く。隣でルキアも頷いている。あずさの後で口を押さえつけられた形でもがいているマジョミカにしゃがみ込んだアニニーテが小さく声をかける。
「ミカさん、そー興奮しないでください。もう少しの辛抱ではありませんか。あの呪いの森を消した魔女見習い達がじきに先々代女王様を目覚めさせて魔女ガエルの呪いを解くというのが魔女界の魔女ガエルたちの定説でございます」
 アニニーテはマジョミカを励ましているのだ。
「…いつ解けるんじゃ」
 マジョミカは疑い深くアニニーテを睨む。
「…えっ、えっ」
 アニニーテは返答に困ってしまった。

 小さな机の上に乗っているエメラルドグリーンの占い用水晶玉を挟んで、占い装束わかばと普段着のかえでが向かい合う。
「ここって、いつもこんなに賑やかなの?」
「えっと、今日は特別かも。知り合いがたくさん来てるから」
 かえでの問いにわかばは苦笑いしつつ答える。
「いつもはお客さんも滅多に来ないから、私とオーナーのミカおばさんと猫のキキ、それからつくしちゃんぐらいだよ。ここにいるの」
「つくしが虹宮に引越してくるって聞いたけど。ここのおばさんのお世話になるのね」
 かえでは奥でパソコンを弄っているつくしを見ながら納得する。
「うん……それで、かえでちゃん、何を占いましょうか」
 わかばは腕まくりをする仕草を見せながら言う。
「それじゃ……私が何を占って欲しいか、それを占って」
「えっ」
 かえでの注文にわかばは困ってしまう。
「えっと、金運かな、恋愛運?……それとも健康…」
「それ、使わないの?」
 いろいろ思いつく限り並べるわかばにかえでが水晶玉を指差して指摘する。
「だ、だよね」
 わかばは言いながら、水晶玉の丸い穴に魔法玉を一つ挿入して、心の中で呪文を唱えた。
“ポリーナポロン プリピルピピーレン かえでちゃんの望んでる事を教えて”
 かえでは興味深くわかばの行動を見ている。その為、わかばは照れ臭くなってしまう。水晶玉の内部には薄らと何かが見えてきた。
「私……とかえでちゃんが見える。これって……」
 わかばは首を傾げてしまう。
「そう……私が占って欲しいのは、私とわかばのこれから……」
 かえでは呟く様に言う。わかばは自信を持って答える。
「そんなの占うまでも無いよ。ずっと友達だよ……そ、そうでしょ」
 言ってみたが、ちょっと不安になったわかばはかえでに恐る恐る尋ねた。
「そうね。ほんとはね、ちょっとヤキモチやいていたんだよ。わかばが私を置いて行っちゃうんじゃないかって」
 かえでは立ち上がって告げる。わかばはかえでを見上げて言う。
「かえでちゃん」
「でもね、ここに来て良かった。わかったのよ。今はここがわかばの居場所なんでしょ。わかばが笑顔でいられる場所。これって幸せな事だもの。わかばの幸せは私の幸せだから。だから…だから…」
 言葉に詰まったかえでをわかばはスッと立ち上がって抱き締めた。
「ありがとう。かえでちゃん。わかば、かえでちゃんの親友で嬉しい」

「また来るからね」
 そう言ってかえでは帰って言った。
「ふぅ、一通り終りっと」
 ずっとパソコンを弄っていたつくしの声が聞こえて、わかばは持ち場を離れて、店内奥のつくしの元へ向う。
「パソコン、動くようになったの?」
「動く事は最初から動くねんけどな。ウチ好みにカスタマイズするのに、ごっつぅ時間かかるんや。ま、とりあえず、快適に使えるようにはしたけどな」
 わかばの問いにつくしはそう言いながらニッと笑う。
“ピロロッ”
「つくしちゃん、何か鳴ったよ」
 突然、パソコンから鳴る音にわかばは尋ねる。
「みるとはんからメッセージきたわ」
“つくしちゃん、準備できた?”
 メールソフトを起動してメールの内容を読んだつくしは、すぐさまメッセンジャーソフトを起動して小さなスタンド型のマイクを接続した。次にもモニターの上に小さなカメラデバイスを取り付けて、これもパソコンに接続する。
「ん?」
 わかばは何が始まるのかわからず、首を傾げていた。しばらくするとパソコンの画面内のウインドウに蘇雲が映った。さらにスピーカーから声が聞こえてくる。
『そっちは、儲かってるカ?』
「まぁまぁかなぁ。それより、何で蘇雲が出てくるねん。みるとはんの所にいるんか?」
『さくらとみるとも居るね』
 つくしの問いに蘇雲が答えると、小さな画面に3人が顔を出した。
『みるとの家に押しかけていますの』
『みんなぁ、久しぶり〜』
 さくらとみるとが挨拶代わりに声を届ける。すると、それに激しく反応する者が。
「今、みるとちゃんの美声がっ〜!」
 みるとの声を聞いたアニニーテが語り合っていたマジョミカを放り投げて飛んできた。放物線を描いたマジョミカは床にグチャっと潰れるように落ちる。そしてつくしを押し退け、パソコンの前に滑り込んだアニニーテは、完全にデレデレしながら嬉しそうに話し始める。
「マイ、すぃ〜と・みるとちゃん、お久しぶりでございます。お元気でしたか、わたくしは、あなたの姿が見れないので、このハートがちゅくちゅくと…」
“ドガッ”
 巨大なハンマーを手に、怒りに燃えたつくしがアニニーテを殴り飛ばした。
「邪魔や!!」
「…でた、キング・ザ・100t」
 ビビりながらわかばは小さく呟いた。