おジャ魔女わかばθ(しぃーたっ♪)
第1話「わかばの新学期風雲編」
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 魔女の世界、魔女界。この世界を治めている王宮、その女王謁見の間。わかば達8人は普段着のままで跪いていた。
「顔をあげなさい」
 花びらか葉っぱのような階段の上に設置された大きなイスに腰掛けた女王がベールで覆った顔を向け凛々しく声を放った。
「確認したい事があります。あなた達は魔女見習い試験に合格し、魔女の証である水晶玉を手に入れましたね」
 わかば達は頷く。わかば達は人間であり、人間界においてひっそりと活動する魔女と出会い、その正体を魔女であると見破ってしまった人間なのだ。現在、魔女には“魔女ガエルの呪い”がかけられていて、人間に正体を見破られると醜いカエルの姿になってしまうのだ。マジョミカのあの姿は呪いによるものなのだ。この呪いを解くには見破った者が魔女になり、その魔法で元の姿に戻してやるしか無かった。その為、わかば達は魔女になるために魔女見習いとして修行を開始し、魔女見習い試験を受け、ついに魔女の証である水晶玉を入手した筈だった。
「そして魔女になった。しかし、大魔法使い界崩壊を最小限に留めるために無茶な魔法を使い、水晶玉を破損させてしまった」
 女王の言葉にわかば達は“はっ”とする。この事は魔女界側には隠していた事だった。
「さらに、月の王位争奪戦に巻き込まれ、かぐらちゃんも水晶玉を破損、さらに記憶障害を負ってしまう。…以上相違ありませんね」
 わかば達は覚悟を決め、ゆっくりと頷いた。
「どうして、報告してくれなかったのですか!」
 ベールに隠され表情は見えないが、女王はすこし感情的だった。
「…私達、魔女との関係を大事にしたかったんです」
 思慮深いさくらが慎重に言う。
「魔女の証である水晶玉失ったら、魔女界と縁切らないといけないと思ったネ、そんなのいやヨ」
 蘇雲は特徴的なイントネーションで日本語を話す中国人だった。
「でも、どうしてわかったんですか」
 わかばはイタズラのバレた子供のように恐る恐る尋ねた。
「マジョリンの情報収集能力を甘く見て貰っては困ります。それに、今回の件は情報を提供してくれた方もいました。マジョリン、例の方を…」
 と言うと、謁見の間の隅に控えていたマジョリンは1人の魔女を連れてきた。その顔を見てわかばは思わず叫んだ。
「あ、あなたは!…クリスさん」
「すまないな、わかば。全て私が話した。かぐらをあのままにしておく事はできないのから」
 このマジョクリスはかぐらと同じく月の魔女だった。月の王位争奪戦に巻き込まれた時、わかばは彼女の世話になっていた。
「安心して、私は、水晶玉の修復ができる力を持つ数少ない魔女なのよ」
「水晶玉を修復…それがクリスさんの月女王としての特殊能力ってことなの。ということはわたし達、“再び魔女になれる”ということ?」
 マジョクリスの言葉にあずさは聞き返してしまう。
「ええ、そのとうりよ。ひび割れ程度なら、修復ができるわ。しかし砕いてしまっては、難しいですよ」
 マジョクリスは何故か女王に問い掛けた。
「マジョクリス、わかばちゃん達に水晶玉修復の手順を説明してあげてください」
 女王はマジョクリスの問いを軽く受け流して、話を進めた。
「水晶玉の修復には長い時間がかかる。十数年は人間には辛いだろう。しかし、材料を集めれば、大幅に修復時間は短縮できる」
 寿命の長い魔女の十数年という感覚は人間のそれとは違うのだ。
「…材料って」
 あずさが不思議そうに呟く。
「そう、クリスタルシードと呼ばれる、気持ちの結晶。これを…」
 と言って、マジョクリスは指を弾いた。わかば達の手にそれぞれ、ハガキサイズの絵の具で絵を描く時に使う白いパレットのような物が現れた。
「クリスタルパレットよ。魔法を使って良い行いをした時にそのパレットにゲージが溜まっていき、一定量に達するとクリスタルシードを生成する。それを私の元に持ってくれば、水晶玉の修復に使用する」
「良い行いをするほど、早く魔女になれると言う訳か…」
 ゆうきは納得したように呟く。
「そのとおりです。ですから、あなた達にはもう一度魔女見習いとして、クリスタルシードを集めてもらいます。マジョリン、例の物を…」
 と言って、女王はマジョリンにアイテムを出させた。
「パララタップです。各自、指輪とリストを、1つずつ取りなさい」
 わかば達は、指輪とタップのついたリストを腕に装着した。
「マジョリン、手本を」
「はっ!女王様…パララタップはこう使います」
 マジョリンは頬を赤く染めながら、手を叩いた。そして、全身を順番にタッチしていく。
「さぁ、やってみなさい」
 マジョリンに言われるままに真似をして、わかば達はお着替えを開始した。パパンと手を叩く事でタップが発動し、次に体の各部位にタッチするたびに新しい見習い服が出現した。最後に頭を叩いて、頭上に出現するとんがり帽子をスッポリとかぶると、可愛らしい魔女見習いの出来上がりだ。
「プリティ・ウィッチー・つくしっち〜」
「プリティ・ウィッチー・みるとっち〜」
「プリティ・ウィッチー・蘇雲っち〜」
「プリティ・ウィッチー・わかばっち〜」
「プリティ・ウィッチー・さくらっち〜」
「プリティ・ウィッチー・ゆうきっち〜」
「プゥ……いけない、染まる所だった」
「…プリティ・ウィッチ…」
 それぞれポーズを取るが、あずさはつられそうになる自分を抑えた。かぐらは自分の事がよくわからない様子でわかば達を見ていた。8人はタップを叩いてポロンを出した。ステッキにリボンを巻いたようなポロンが飛び出した。
「それはスウィートポロンMと言います。去年どれみちゃん達が使っていた物の量産型です。これは魔法の素ではなく、魔法玉で魔法を使う事ができます」
 女王の言葉を聞き、よく見るとグリップの上に魔法玉の挿入口があった。
「あと一つだけ、聞いておきたい事があります。みなさんは魔女になって何がしたいのですか?」
 女王はいきなり魔女としての未来について尋ねてきた。
「…魔女になれるのなら」
 あずさは何か言いたげだったが、わかばが代わりに伝える。
「パティシエを目指すんだよね、あずさちゃん!」
「そーやった。ウチとわかばとあずさはんはお菓子職人魔女になるっちゅー約束やったわ!」
 つくしもあの日の約束を思い出す。それは“愛しのトゥールビォン”を再現したパティシエ試験を観戦しに行った日だった。