おジャ魔女わかばθ(しぃーたっ♪)
第3話「部活をしよう」
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 魔女の赤ちゃん、ミルが虹宮の魔法堂に来て、一週間ちょっとが経とうとしていた。深夜の魔法堂にこっそりと少女がやって来る。茶髪のショートカットの龍見ゆうきがコソコソと魔法堂店内を物音を立てないように奥へと向かう。
「わかば、おつかれ様。交替するわ」
「ゆうきちゃんど〜もぉです」
 緑のツーテールが特徴の桂木わかばは眠たそうな目で答えた。その手の中ではミルがスヤスヤと寝息を立てている。ミルの昼間の世話は、学校があるわかば達にかわり、魔女のマジョミカとそのパートナー妖精のキキが担当していた。そのかわり、夜鳴きがあるので、夜は交代でわかば達、魔女見習いのうち誰かがミルの側にいることにしているのだ。
「それにしても…マジョミカが文句も言わずに昼間の世話を引き受けてくれるなんて、予想外よね」
「仕方ないって言ってたけど…なんか、引っかかるんだよね」
 ゆうきの疑問に、マジョミカの弟子を一年しているわかばも何か感じる所があるみたいだ。しかし、それ以上は何もわからない事は二人とも理解していて、わかばはミルを抱くのをゆうきにかわってもらいながら尋ねる。
「ゆうきちゃん、部活決めた?」
「ううん、まだ。したいこと無いし、わかばと同じで良いわ」
 ゆうきはナゲヤリに答える。部活で一緒できるのはわかばも嬉しかったが、ゆうきのこの態度を複雑そうに見つめつつ、なんて答えて良いのかと困っていた。
「サッカーせーへんの?」
 不意に地下室の扉が開いて、そこから蒼井つくしが顔を出す。つくしはこの魔法堂で居候をしている魔女見習い。
「あ、起こしちゃった?」
 ゆうきは申し訳なさそうに言う。わかばも同じだが、つくしはサラッと答える。
「いや、ずっと研究していたから起きとった」
 わかばとゆうきは苦笑いする。また役に立つのかわからないガラクタを作っているんだなと。ふと、わかばはゆうきに尋ねる。
「そうだよ、ゆうきちゃん、サッカー、あんなに上手なのに」
「する気ないよ。それにサッカー部って男子でしょ」
 ゆうきはミルの寝顔を見ながら、素っ気無く答える。
「そやな、入部しても、女子はマネージャー扱いやろーからな」
 腕組みのつくしが呟く。わかばはうんうんと唸り、何かを考えつつ、しばらくして、何か思いついたように勢い良く言う。
「だったら作っちゃえばいいじゃん、女子サッカー部」
「…声が大きいっ。ミルちゃんが起きちゃうでしょ」
 ゆうきは慌てて小声でわかばに注意する。そしてミルを抱いたまま歩き始める。その背中が答える。
「学校でサッカーする気無いから」
 わかばはこれ以上は何も言えず、それじゃと帰っていく。つくしも地下室に戻って作業に戻る。

***

 翌朝、わかば達が通っている虹宮北小学校の職員室。朝の打ち合わせを終えて、先生達が児童を迎える準備に右往左往している。出席簿をパタンと閉じてため息をついているのは、5年2組の担任、弥生ひなた先生。二年目の女性教員だった。
「弥生先生、どうしたんですか?」
 隣の席で5年1組の香川という若いメガネの男性教員が訪ねてくる。
「今日から部活が始まるでしょ」
 弥生はボソッと打ち明ける。香川は思い出すように答える。
「先生は……生物部でしたね。昨年度はかなり盛り上がってましたね」
 と言いながら、生物部の事を思い出す。3月に6年生が卒業して、部員の大多数が抜けてしまっているのだ。それで弥生の心配事を理解する。
「部員集まると良いですね」
「はい。一人は確保してるんです。後はその子から芋づる式に何人ゲットできるかって感じでして」
 弥生は不気味な笑みを浮かべつつ答えた。
「芋づるって」
 香川はメガネを曇らせて苦笑いしてしまう。

***

 ゆうきと月影かぐらが登校している。そこに鈴村ねおんが合流してきた。
「おはよ。ゆっきー&かぐらちゃん♪」
「ぉはよぉ」
「おはよう…鈴村さん」
 挨拶をかわしたねおんがかぐらに迫る。
「ねおんで良いっていってるでしょ」
「ごめんなさい」
「…謝んなくてもぉ〜。ところで今日、部活決める日だけど」
 ねおんは二人に話を振った。
「またその話。私、まだ決めてないわ、ねおんは決めてるんだよね」
「うん、先輩の所に行こうと思ってる……んっ後方から、田所さんが接近中」
 ねおんがそう言うと、後から女の子が駆け寄ってきていた。
「…相変らず、足音で人が判別できるなんて、高性能な耳ね〜」
「訓練すればできるよ」
 ゆうきの感心をあっさりと流して、ねおんは振り向いた。
「おはよう。あなたのその力、私に貸して欲しいの!」
 駆け寄ってきた少女は息を整えながら言った。
「…誰?」
 かぐらはゆうきの耳元で尋ねる。
「3組の…田所みさきさん」
「たどころ…さん」
 かぐらは一生懸命憶えようとしていた。
「何度も言うけど、私、明鏡先輩の剣道部に入るから、ごめんね」
 ねおんはみさきの誘いを断った。
「ねぇ、龍見さんも説得を手伝ってよ」
 突然、みさきはゆうきに話を振ってくる。
「え、何」
 ゆうきが戸惑っているとみさきは言う。
「龍見さん、私、知っているわ、あなた……」
 ここで、わかばとつくしが合流してきて、話は中断される。
「おはよぉ〜」
「よぉ…」
 わかばの後ろでつくしは眠たそうだ。徹夜だったのだろう。わかばはずいっとゆうきの側に入り込んでいく。
「ねぇ、放課後、一緒に仮入部で部活巡りしようよ」
「仮入部?」
 ゆうきは聞き返した。
「うん。いろいろやってみて、面白そうな所に入ればいいんじゃないかって思って」
 わかばはゆうきの事を考えて、この答えに辿り着いたみたいで、ちょっと自信なさ気にしている。みさきは二人のやりとりを意外そうに見ていた。
「…でもわかばは、すでに入るクラブが決まっているんじゃ」
 ゆうきはわかばに確認する。わかばは苦笑いしながら。
「でも、絶対って訳じゃないし、いろいろ見てみたいから」
「ウチは科学部でバリバリ発明するけど、クラブ周りは付き合っても良いでぇ〜」
 つくしは、そう言って黙っているかぐらの肩を抱き寄せる。どうして良いかわからないかぐらの為でもあるんだと。ゆうきはそれに気づき、頷く。
「それじゃ、放課後、よろしくね」