おジャ魔女わかばθ(しぃーたっ♪)
第3話「部活をしよう」
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 しかし、ゆうきは首を縦には振らなかった。そんなゆうきに対してみさきは語る。
「…女子とサッカーはできないって、“サッカーは男子のスポーツだ”って、今まで散々言われてきた。それを否定したいの!お願い、力を貸して!」
 差別的な話に、ゆうきの胸に何かムカムカが込み上げてきた。
「…そ、それは、馬鹿げているわ。そんな事を言う男子は見返してあげましょう。私達で」
 ゆうきはいつの間にみさきの手を握っていた。ここに新たな友情が誕生しようとしていた。
「ところで…サッカーは試合するのに11人要るけど、他のメンバーは?」
 ゆうきは聞いてみた。
「今は、私達二人だけよ」
「…」
 みさきの答えにゆうきは言葉が出なかった。

***

 ここは校舎内の廊下。ピンポン玉が跳ねる音が響いていた。
「俺の必殺の新サーブが桂木を倒すぜ!」
 佐橋亮介の放つサーブは早く重たい。羽田勇太は、やっとの思いで打ち返す。
「てゃ!…でも、わかばちゃん、生物部に入部して、ここには来ないよ」
「何だってぇ!」
 亮介は勢い余って空振りしてしまう。
「…俺達の“因縁の対決”はどーなるんだよ!」
「…知らないよ、そんなの。気にしてるの亮だけだよ」
 亮介はがっくり肩を落とす。
「それより、卓球部って、どうして廊下のなのさ!」
 勇太は廊下ぎりぎりに置かれた卓球台を見つめて呟いた。

***

“ダンッ”
 木の床に強く踏み込む音が響く。
「面ッ!」
 そのまま、一気に脳天を竹刀で叩き込んだ。相手はほとんど動けない。礼をして面を取る。勝者は鈴村ねおんだった。
「どぉ?ゆうきさん」
「どぉ?…って、さっきも見たけど」
 みさきとゆうきは剣道場を窓の外から覗いていた。
「彼女は鈴村ねおん」
「幼なじみだし、知ってるって」
 説明するみさきに、ゆうきは答える。
「彼女は威音流忍者の末裔」
「それも知ってる」
 ゆうきは答える。
「威音流忍術は音を自在に操る忍術。さっきのも、踏み込みの音を使った忍術。どぉ?ゆうきさん…サッカーに活かせそうじゃない!」
「…音を…そっか、その発想は無かったわ」
 と、その時、窓が開いた。
「ゆっきーは田所さんに捕まったんだ。私は、今の所、サッカーする気無いから」
 ねおんだった。
「ははは…さすが地獄耳」
 みさきは笑って誤魔化した。ゆうきも呟く。
「相変わらず、すごい聴覚」
「それより、二人とも、剣道しませんか?」
 いつの間にか、二人の後に剣道部の明鏡部長が立っていた。
「え、遠慮しますぅ」
 二人は足早に去って行った。

“スコンッ”
 次に二人はテニスコートの側に来ていた。
「次に目をつけている選手はここよ」
“スコンッ”
「ゆ、ゆうきさん!」
 みさきは叫んだ。ボールがゆうきの方に飛んできていたからだ。ゆうきは身を反転させて、胸でボールをトラップして、勢いを殺し、足元に落として、そのまま飛んで来た方向へ蹴り返した。一連の流れるような動作をみさきは見とれるように見つめていた。飛んでいくボールと入れ違いに二人の少女がやってきた。
「あら、ごめんなさい。お怪我はないようですね」
「ずいぶん、器用じゃん!」
 それはラケットを持った、潤藤要と田村瑞希だった。
「あなた達、わざとじゃないの」
 みさきは言う。コートの横には高いネットがあるのだが、何故かそれが開かれていた。
「いえ、事故ですわ。この様な所に部外者いる方が悪いかと」
 要が冷たく言う。
「別に構わないけど」
 ゆうきは平然としてる、いや、眼中に無いといった感じだ。要と瑞希は不満そうにゆうきを見つめる。
「龍見さん、まさか、田所さんの馬鹿げた女子サッカー部に入部ですの?」
「そんな、変なクラブに顧問の先生なんてつかないよ」
 ふたりは馬鹿にするように言う。
「…ゆうきさん、いきましょ!」
 みさきは振り向いて歩き出した。ゆうきはその後についていく。

 二人はグランドの隅に腰を下ろしていた。
「実際、まだクラブじゃないんだよね。顧問の先生がいないし…人数だって」
 みさきは弱気を見せた。
「さっきのテニス部で目をつけていたのは?」
 ゆうきは尋ねた。
「3組の双子の橘姉妹。身軽でアクロバティックなテニスを行うの…」
「ねおんと橘姉妹…もし口説けたとしても、全員で5人。あと最低6人はどうするの」
 みさきは溜息をついた。
「ゆうきさん、ごめんね変な事につき合わせちゃって」
「何を言うかな、関わった以上は、絶対実現あるのみ!」
 ゆうきは力強く宣言した。そんな時、頭上から声がかかる。
「ゆうきっちぃ〜」
 ゆうきは声を探して立ち上がった。声は後の校舎の4階からだった。窓から6年生でゆうきの兄である龍見ゆうまが手を振っていた。ゆうきは顔を赤くして叫ぶ。
「学校で“ゆうきっち”って呼ぶのはやめてよ、お兄ちゃん!」
 二人はゆうまのいる教室に上がっていった。

 墨の独特な匂いがするその教室は、書道室。ここで活動しているのは書道部だった。
「お兄ちゃんって、書道部だったの…意外」
 ゆうきは思わず言ってしまった。兄の部活の事は知らなかったのだ。ゆうまは心外そう。
「なんだよ、それは〜。ナンパ部とでも言えば納得するのか?」
 ゆうまは悪戯心で言う。ゆうきはムスっとしてしまう。ちなみにゆうま以外の書道部はゆうまファンの女子児童だったりするので、ゆうきは複雑なのだ。
「ゆうきさんのお兄さん?」
 みさきは呟いた。
「ああ、この書道部の部長さ。我が妹様がお困りのようだったんで、何か力になれないかなって…ね」
 みさきはゆうまに現状を話した。ゆうまは墨を含ませた筆を半紙にさらさらと走らせた。顧問という文字が書きあがる。
「顧問か〜?」
「お兄ちゃん、上手いっ」
 ゆうきが感心する。
「まぁ部長ですから」
 ゆうまは再び筆を走らせた。その文字をゆうきは読んでみる。
「…上野?」
「そう、本学の校長にして、この書道部の顧問だ。貸してやるよ、この人」
 ゆうまはさらっと言った。
「そ、そんな…簡単に、言ってしまって…」
 みさきは戸惑っている。