おジャ魔女わかばθ(しぃ〜たっ♪)
第40話「輝夜の時空」
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「でも…台社中って、制服…無茶苦茶地味だもんなぁ」
「えっ…そうなの…」
 思い出したように呟いた翔の言葉にわかばの心がちょっと動く。
「だったら、わかばもシュク女行こうよ、こっちも制服は地味だけど、台社よりは可愛いわ。それより…なにより校舎が可愛いのよ…そうだ、今から見に行こうよ」
 と言いながら、ゆうきは強引にシュク女の方へわかばとかぐらを引っ張って行こうとする。
「中学なんて何処行っても同じやろ」
 つくしは興味無さそうにしていたが、とりあえず後を付いていく。その後ろを翔と輝も続いて行く。

***

 阪球電車の単線の線路を挟んで、シュク女と台社中は向かい合っていた。わかば達は学校を取り囲む木々と柵の隙間から、シュク女のチャペルの様に奇麗な建物を眺めていた。それは向かいの台社中の無骨な校舎とどうしても見比べてしまい、それは素晴らしい物に見えた。
「ああ〜憧れるわ〜」
 ゆうきは一人感激している。わかばと輝も興味深そうにシュク女の校内を観察していた。つくしは駐車場に停められている車を見て唸っていた。高級車が並んでいてメカ好きとして何かそそれるものがあるらしい。翔は付き合いきれなかったのか、いつのまにかエスケープしていた。かぐらは一人、台社中の校舎の屋上を何気なく眺めていた。そこから小さな煙が空へと昇って行くのが見えた。それが夢で見たラストシーンと一致する様に感じられた。かぐらは一人、近くの踏み切りで線路を渡って、台社中学の方へ向って行く。シュク女の覗き見に夢中なわかば達はそれに気がついていなかった。

 かぐらは台社中の裏門の側にある電話ボックスの陰に隠れて鞄からコロンタップを取り出し、魔女見習い服に着替えた。そして箒を取り出す。その直後、銀色の見習服のかぐらが宙に舞う。
「夢と同じ……まさか…って事は無いだろうし…それに火事とかだったら大変だし」
 かぐらは問題の煙の立つ校舎の屋上の隅にこっそり降り立って、見習服を解除した。煙は屋上に設置された貯水タンクの上から出ていた。かぐらは慎重に貯水タンク側面に設置されているパイプのはしごを上っていく。そして、やっとのことで貯水タンクの上に顔を出すと…。
「やぁ、君が始めてのお客さんだ」
 黒い詰め襟の学生服を着た黒髪の少年が座っていて背中を見せたまま、かぐらに話し掛けてきた。彼の足元には赤い筒が転がっていて、それから細い煙が出ていた。
「驚かせてゴメン。発煙筒だよ」
 かぐらは少年の隣に行ってしゃがみ込み、珍しそうに発煙筒を見ている。
「そんなに珍しい?車とかに積んであるでしょ」
 少年はかぐらを面白そうに見つめて言う。その顔はとても優しくかぐらに映った。
「…どうして、こんな所で、こんな事を?」
 かぐらは気になっていた事を尋ねた。
「誰か気付いてくれるかなって。…最近、みんな下ばっかり見ていて空を見ない様な気がしてね。空はこんなに素晴らしいんだって気がついて欲しかった。そうしていたら、君がやってきた。ホント嬉しかったよ」
 かぐらは無邪気に話す少年の言葉に引き込まれていた。
「俺は天田紫郎(あまだしろう)。この学校の2年生で、天文部の部長さ。君は…見た所、小学生だよね」
「あっ、ごめんなさい、勝手に入ってきちゃってっ」
 言われてかぐらは慌てて、貯水タンクから降りようとするが、焦って足を滑らせる。
「危ないっ」
 咄嗟に紫郎は立ち上がって、かぐらを支えた。しかし手にしていた鞄は、投げ出され中身が辺りに散乱してしまう。急激に接近する二人の距離にかぐらは我に帰って…。
「ご、ごめんなさい」
 と言って、かぐらは真っ赤な顔で散らばった荷物を拾い始める。かぐら自身もなんで、顔が…そして心がこんなにも熱いのかわかっていない。荷物を集めたかぐらはそのまま逃げるように屋上を後にした。
「……面白い子だ…んっ?」
 微笑んで、かぐらが帰っていくのを見ていた紫郎は、屋上に何かが落ちているのに気がついた。それはかぐらの落し物。

***

 夕方、桂木家のキッチン。食事当番のわかばは夕食の準備をしながら、テーブルに座ってショボンとしているかぐらに愚痴る。
「もうっ…いきなり居なくなるからビックリしたんだよ」
「ごめんなさい…ちょっと気になる事があったから…」
 かぐらは済まなさそうに謝る。
「気になる事?」
 わかばは首を傾げるが、シロに割り込まれる。
「まったく、ゆうきとつくしが見つけてくれたから、良かった様なものの…もう、こんな勝手は謹んでください」
 シロの得意技の説教がまだ続いているみたいだ。わかばが泣きそうな声でシロに言ってみる。
「私も一緒に捜したけどぉ」
「お前、戦力外みたいだな」
 クロがわかばに茶化す様に告げる。そして半ば呆れた感じにシロに言う。
「でもよ、かぐらを見失った時点で、俺らのミスだろ。それをかぐらやわかばにあたってもなぁ…」
「確かに我々のミスだ。これは後でビッシリと反省会を行う。しかし、今は再発防止の為に姫の心構えを考え直してもらっているのだ」
「…はっ反省会っ」
 思いがけないシロの言葉にクロはやぶへびな気分でガックリしてしまう。かぐらは自分に非があるものだから何も言えずにしょんぼりしているのだった。そこに…。
“トォルルルルルー”
 キッチンを出てすぐの壁に設置されている電話のコール音だ。
「かぐらちゃん、お鍋見てて」
 わかばはそう言うと、電話のもとへと飛んで行った。でもすぐ出ない。深呼吸を始めるわかば。
「ふぅ…電話って緊張するんだよね」
 そう小さく呟いてわかばは受話器を手にした。
「はいっ、桂木ですっ」
 名乗るわかばに対して電話の向こうはしばらく無言。そして…。
『…俺俺』
“ピッ”
 わかばはムスッとして電話を切り、受話器を乱暴に電話機に戻した。かぐらはお鍋の中身を掻き混ぜながら不思議そうに首を傾げている。