や〜っと!おジャ魔女わかば
第1話「星の海へ」
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「魔法堂でーす。よろしくお願いしまーす!」
 虹宮駅前の広場で少女がビラを配っていた。少女は銀のラインのアクセントの入った白いワンピース姿で、青い髪を大きな丸い髪飾りで二つに束ねていて、それを元気に揺らしながら声を張り上げる。
「トラベル魔法堂、本日新装開店でーす。オープン記念ツアー、ツブツブキラ星(ほし)体感ツアー参加受付中でーす。皆様、こぞってご参加っ…あぅ」
 少女の言葉が途切れる。少年が後からぶつかってきたのだった。持っていたビラが宙に舞い風に流されていく。ぶつかって来た少年はツンツン頭の元気そうな男の子だった。
「ごめんなさい、俺、よそ見して歩いてたから…。大丈夫ですか?」
 少年は少女に手を差し伸べて、少女を起した。
「私こそ、うっかりしてました」
 立ち上がった少女の顔を見て、少年は驚いて声をあげる。
「えっ…女の子なのっ」
「はいぃ?」
 少女は首を傾げる。
「いや、ごめんなさいっ」
 少年は頭を下げて、散らばったビラを集めだす。この少年の連れの茶髪少年が一緒にビラを拾いながら言う。
「フーガ、なにしてんのさ〜まったく〜ぅ」
「アキト、うるさいよ」
 少年は集めたビラを少女に渡して、急いで立ち去ろうとした。そんな少年に少女はビラを差し出して微笑む。
「ありがとう。良かったら来てください」
「いや、こちらこそ…じゃっ」
 差し出されたビラをむしり取る様にして、少年は走り去っていく。連れの少年もそれを呆れながら追う。

「フーガ、真っ赤だぞ」
 茶髪のサラサラヘアの少年、津川明人(つがわあきと)が言う。ツンツン頭の少年、五條風雅(ごじょうふうが)は照れを隠すように叫ぶ。
「いや、違うんだぁ〜、あの子、最初…女の子って感じがしなくて…でも笑うとすごく…すごく可愛くて……いや、だからそのっ」
「そりゃ、一目惚れって奴だろ…良いんじゃ無いの、頑張れよ」
 明人は苦笑いしながら簡単に言う。彼は風雅が“女の子苦手病”な事を知っていたからだ。女の子に関わるとすぐにガチガチになってしまう体質だった。しかし、さっきの少女はちょっと違ったみたいだった。
「あの子、6年の月影かぐらさんだと思うぜ」
「……一つ、年上かぁ…って、相変わらず、女の子の事は呆れるほど詳しいんだな、アキトは」
 風雅は呆れて言う。明人は風雅と反対に女好きで、同じ学校の女の子であれば学年を問わず、大体の事を理解しているという。ここで、やっと風雅は手にしていたビラに気が付いて、見てみる。
「魔法堂って、北森ダムのそばの…確かこの前…」
「あぁ、6年の女の子が何人か手伝っている美味しい店だな。この前、謎の大岩落下で全壊したけど、再建して営業も再開したんだな、さっきの月影さんも居るだろうし、行ってみるか?」
 明人はすでに魔法堂に向って歩き出している。
「でも、業種が変わってるよ。今度はツアーやるみたいだ」
 風雅は明人にビラを差し出す。そのチラシにはこう書かれている。
“トラベル魔法堂オープン記念『ツブツブキラ星体感ツアー』あなたも星の海を旅してみませんか♪”
「星の海って…宇宙旅行って事か?」
 明人が呆れて言う。
「ヴァーチャルリアリティのアトラクションみたいな感じじゃ無いのかな?」
 風雅の答えに明人は頷く。
「それが妥当だな。ほな、行くで」
 明人は風雅を押しながら魔法堂を目指す。日は傾き、夕方を告げていた。

 北森ダム前の道路を少し脇道に入った所に、知る人ぞ知る怪しい占い屋・魔法堂が以前あった。今は巨大な岩と共生するような建物に建て替えられて、その異様さをさらに強く印象付けていた。
「何で、出港が6時半だって、先に言わないんだよ〜」
「だって、アキトが本屋でボムボム立ち読み始めるから〜」
 ボムボムは少年漫画雑誌だった。風雅と明人は本屋で立ち読みしていた為に、魔法堂のツアーの出発時間ギリギリに店に到着した。そして二人はその変わり果てた建物に絶句する。
「この岩、どけられなったんだな」
「不気味さ200%アップだな」
 二人は呆気に取られつつ、店の扉を開いた。入った先はカウンターになっていて、受付のチャイナ服の少女が座っていた。その奥は船のドッグになっていて、電車を2両横にくっ付けたくらいの大きさの魚の形の宇宙船らしき大きなメカニックが横たわっていた。その船の先の壁は、あの大岩の岩肌を剥き出しにした壁になっていた。
「…見た事無い子だ」
 明人は自分のデータに無い子がいきなり現れたので、驚きと共に見とれていた。
「出港まで、あと2分ネ、乗るのカ、乗らないカ!」
 チャイナ服の少女が突然、聞いてくる。
「こ……子供二人、お願いします」
 風雅は真っ赤になりながら告げる。
「お客さん達、運イイネ。あなた達お二人で満席ヨ。ハーイ、2名様、ごあんなーい」
 チャイナ服の少女が鐘を鳴らすと、バスガイドの様な格好をしたかぐらが出てきた。
「こちら、宇宙船ツインメダルシャーク号へ、どうぞ」
 かぐらは奥の魚型の宇宙船を指し示して言う。
「ねぇ、君、名前何て言うの?ツアーには同行するんだよね〜」
 明人はチャイナ服の少女をナンパしていた。
「私はこの船のドクター。もちろん同行するヨ」
「アキト、来いよっ」
 風雅は明人の腕を引っ張るようにしてかぐらの後について行った。近くで見るとそれはコバンザメを横に2匹くっ付けた形の船だった。そのエラの部分の入り口から中に入ると、4列×12席の客席になっていた。客も何人か座っているが半分以上空席なのが見て取れる。
「満員って嘘だったのか」
 風雅は呆れて呟いた。
「それじゃ、席で、発射時刻までしばらくお待ちください」
 かぐらはそう言って、客席のスペースから姿を消した。風雅はその後姿をずっと見つめていた。その隣で明人も、なにやらニヤニヤしている。