や〜っと!おジャ魔女わかば
第3話「恋愛の入り口へ」
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『私の側を離れないでください。絶対に護りますから』
 見つめていると吸い込まれそうな深い青い髪だった。そしてそれと同じ色の瞳は、必死さがヒシヒシと伝わってくる。
『風雅君には指一本触れさせないんだから』
 そして一生懸命な表情。でも護りたくなる可憐な少女の表情でもあった。あの時の全てが頭から離れない。
「どんどん、あの子の事が、大きくなっていく」
 五條風雅は自室の窓から夕日を見つめながら溜息をついた。こんな気持ちは生まれて初めてだった。そして、あの時、あのツアーで蟹座を名乗る巨大な蟹に占われた今月の運勢を思い出していた。
『今月の蟹座は、今が絶好のチャンス。今動かないとチャンスは当分巡ってこないかもね。その際、仲間のアドバイスは重要な鍵となるので、良く考えよ。ラッキーカラーはゴールド。ラッキーアイテムは…』
「チャンスは…今か」
 風雅はそう呟いてベットに倒れこむように寝た。

 翌日、よく晴れた朝の通学路、学校近くの十字路で風雅は山手の方の道から下ってくるかぐらを見つけた。かぐらは今、虹宮山手の北森ダム側にある魔法堂で生活していた。両親は仕事で忙しく、親戚である魔法堂のオーナー小金井みかの世話になっている…表向きはそうなっていた。
[チャンスってつまり…告白って事だよなぁ〜(以後“[]”内の台詞は風雅の心の叫びとなります)]
 風雅がそんな事を考えながら難しい顔をしていると風雅に気付いたかぐらが手を振って走って来た。
「いつもありがとうございます」
 かぐらは魔法堂の常連客である風雅にそんな営業的な挨拶から入った。
[いきなりチャンス到来だぁ〜言えっ言えっ…言ってしまうんだぁ〜]
 風雅は心の中でしばし葛藤した後、意を決して顔を上げ、隣にいるかぐらの顔…いや、居る筈だったのだが…。かぐらは既に校門近くに同級生の龍見ゆうまを見つけ、そちらへ行ってしまっていた。それに風雅が肩を落としていると、背後から声をかけられた。
「フーガ、まだまだだなぁ〜」
 それは風雅の親友で風雅の何倍も女の子に詳しい津川明人だった。風雅は明人にちゃかされると思い、あからさまに嫌な顔を見せるが…あの時の蟹座の言葉の一部が脳裏を過ぎった。
[仲間のアドバイスか…確かにこの手の事に詳しい明人なら…]
 風雅は思い切って明人に相談することにした。

「確かに…少しこの手の事に疎い感じのあるかぐらさんには変化球は逆効果だ。直球で熱い想いを伝えるんだ」
 明人のアドバイスに風雅は頷く。少し納得できた。
「でだ…具体的には…」
 明人は風雅に耳を貸せと合図する。

 陽射しが柔らかく心地よい春の昼休み。長い午前中の授業から解き放たれた児童達が運動場に溢れ出してくる。そんな中、風雅と明人はかぐらを探していた。かぐらは裏庭の小さな池を一人ぼんやり眺めていた。
「あの時…あの場所に居たのは…?」
 かぐらは小さく呟く。水面の小さな波紋は何も答えてくれない。風雅達はそんな少しもの悲しげなかぐらを見つけた。そんなかぐらの表情に風雅の感情がこみ上げてくる。
「行けっ!風雅。作戦通りやるんだ。手を抜くとミスるぞっ!」
 明人に背を押され風雅は走りだした。叫びながら全速力で…。
「月影さぁぁ〜ん、すっ……キダァーーーっ!」
「木田?」
かぐらは声に首を傾げ振り返った。その時、風雅はかぐらのすぐそばまで走り込んでいた。
「ダァァァーー」
「きゃっ」
 それに驚いたかぐらは相手を確認する前に体が動いた。風雅の懐に背中から入り込んで左腕を掴むと同時に足のバネと腰で風雅の体を押し上げる。そのまま掴んだ左腕を引き抜く、一連の流れるような一瞬の動作で風雅の体は円を描いて宙に舞う。それは咄嗟にかぐらが放った一本背負いだった。風雅がそれを認識するのは受身無しに地面に叩きつけられて、ぼんやりした意識がある程度回復して来た頃だった。かぐらは涙目で叫んでいた。
「風雅君、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
 必死に謝っていた。風雅はそんなかぐらに答えようと体を起そうとするが、白い服を着た少年の顔が視界一杯に現れた。
「貴様っ、姫に何をしようとしたっ」
 白服の少年は風雅の胸座を掴んで、問いただしてくる。
「シロっ、止めて。私が悪いんだからっ」
 かぐらはその少年を抑えて言う。いつの間にか現れたもう一人の黒い服の少年が口を挟んできた。
「かぐらは正当防衛だから、悪く無いんじゃないか?、そっちのも、自己責任って事で…」
 黒服の少年は風雅に振ってきた。風雅は咄嗟に頷いた。白の少年は風雅を離して、不服そうに立ち上がると、かぐらを連れてこの場を去っていく。黒の少年もいつの間にか姿を消していた。一人取り残された風雅は呆然としていた。校舎の影から様子を覗っていた明人は興味深そうに呟いた。
「6年の白木輝と黒岩翔。2人が月影かぐらの忠実なナイトであると言う噂は…あながち間違いじゃ無いんだな……こりゃ、やっかいだな」
 すぐ側の校舎3階の教室の窓から一部始終を見ていたウララは、風に弄ばれているオレンジのロングヘアを気にも留めず、溜息をついた。
「ダメダメだね」