や〜っと!おジャ魔女わかば
第5話「本気仮面マジカレッド!」
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 虹宮魔法堂三階。かぐらの自室。明日の学校の準備も終わり、鞄がキチンと机の上に置かれている。そして就寝前のパジャマ姿の月影かぐらはカレンダーを見つめたまま溜息をついた。その目線の先には、木曜日の列…そう明日は木曜日。それがかぐらを憂鬱にしていた。
「わかばちゃ〜ん、私、どうしたらいいのよぉ〜」
 かぐらは情けない声を出した。
「って言っても仕方ないや…寝よ。後はなるようになるダバ」
 かぐらは半ば現実逃避する感じに布団に逃げ込んだ。
「ほんとになるダバかなぁ〜」

 翌朝、一緒に魔法堂に住んでる蒼井つくしと登校するかぐらの頭の中は、あるモノを探してフル回転していた。
「かぐらぁ…さっきから難しい顔して、何考え込んでるん?」
 つくしが気になって尋ねてくる。
「いやね…部活の事なんだよ」
 かぐらの返事につくしは思い出した様に言う。
「あっ、今日は木曜日。部活の日やってんな〜」
 二人が通っている虹宮北小学校では、5,6年生は毎週木曜日の6時間目が部活の時間とされていた。部活によっては他の日の放課後に活動するものもあるが、基本的にこの時間、5,6年生は全員部活をする事になっていた。
「かぐらは生物部の部長やったなぁ〜」
「…うん」
 つくしの言葉に頷くかぐら。そう、それがかぐらを悩ませているのだった。昨年、わかばとゆうきと共に入った生物部。当時6年だった十曲部長は卒業してしまい、ゆうきは突然女子サッカー部に転部。わかばは現在行方不明となっていて、今はかぐらしか居なかった。従って自動的にかぐらが部長となる。
「でもさ、新入部員来たんやろ。あの常連とウララちゃん」
「うん、そーなんだけど、みんなを私が引っ張っていかないといけないんだけどさ、何をしたら良いんだろうって…」
 かぐらは再び考え込んでしまう。
「つまり、部活のネタが無いって事か…確かにそこら辺はわかばの専門かもしらんからなぁ〜」
 話している内に学校についた2人。下駄箱の前で上履きに履き替えていると…。
「本気に華麗で無敵!本気仮面マジカレッド参上っ!」
 低学年の男の子が下駄箱の上に登って、こう叫んでポーズをとっている。周りの男の子達が歓声をあげる。
「そんな所に登ると危ないでっ」
 つくしがそれを注意する。
「出たなっ、青カビ怪人っ!マジカレッドが成敗してやるぜいっ」
 下駄箱の上の男の子はつくしに向って言う。
「テメーッ!誰が青カビやねんっ。ちょっと下りて来て、そこに座れっ!」
 怒鳴るつくしに周りに居た低学年の男の子達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。下駄箱の上の男の子もビビって降りるに降りられない。そこにかぐらが入ってくる。
「マジカ…何とかって、テレビじゃ見かけないけど、どこかのローカルヒーロー?」
 わかばの影響で結構、ヒーロー物を見ているかぐらも知らないヒーローだった。かぐらは、良く、地域単位で製作されるヒーローを思い出して、その類では無いかと思い尋ねてみた。
「マジカレッドは…本当のヒーローなんだぜ。お姉ちゃん、そんな事も知らないんだ。…頭の中、未だに昭和なんじゃ無いのっ」
 口の悪い男の子につくしが喰いかかる。
「このクソガキがぁぁぁ!。昭和はウチ等の生まれる前やっ!」
「君っ、昭和って言葉、良く知ってたね。偉い偉い。でもね、本当のヒーローはそんな意地悪言わないと思うな」
 かぐらはそう言って男の子に笑いかける。男の子は分が悪くなったのか、下駄箱から飛び降りて逃げて行った。
「本気仮面マジカレッド…本当のヒーローか…」
 かぐらは男の子の後姿を見つめながら呟いた。

 大阪北の梅田駅近くにある総合企業メガゲート(以下MG)社の広報部フロアの隅っこに特殊課と書かれた小さなスペースがあった。
「研修お疲れ様。今日からここがあなたの職場よ。私は篠崎恵。あなたと同じ広報特課よ」
 恵と名乗る20代の女性が、人事課の社員に連れらてきた年下の男性に言う。
「影山シンです。よろしく……。特課って何ですか?」
 男はシンと名乗って言葉少なに尋ねる。恵は苦笑いして言う。
「ははは…やっぱ気になるわよね…特課なんて…」
「俺は、兄に言われてMG社を受けて…何故か内定もらえて…」
「ええ、知ってるわ。そしてこの広報特課の課長は、あなたのお兄さん影山ジンさんなのよ」
 と言って恵は課長のデスクを指差すが、そこには誰も居らず…というか使ったという形跡が全く見られない。シンは不可解そうに見つめるだけだった。
「私もここに配属になって間が無いんだけどね。まだ影山課長には会っていないわ。そしてあなたの新人研修が終わって、これで広報特課の3人が一応揃った事になるの。私達の最初の仕事は…何処かで特殊な仕事をしている影山課長を見つけ出す事みたいなの。よろしく頼むわよ」
「…何してるんだよ、兄貴は」
 シンは小さく呟いた。

 恵とシンはMG社の駐車場の隅に停めてある青いミニバンに向う。その後部座席は得体の知れない機械に埋め尽くされている。
「あの…これは?」
 シンは後部座席を指差して尋ねる。
「扱い方はおいおい教えていくわ。さぁ、乗って」
 言われるままに助手席に乗り込むシン。すると向かい側の駐車スペースに入ってきた車から降りた男が、こっちに気が付いてやってくる。
「恵さーん。仕事ですか?」
「金谷君じゃない。元気?」
 2人は知り合いのようだ。恵は親しげに言う。
「これから虹宮まで、ちょっとね」
「広特も大変ですね」
 金谷という男は苦笑いしながら言う。
「金谷君は企画室だったよね。そっちも大変でしょ」
「あの頃に比べたらね…ん〜どっちが大変だろう」
 金谷は考え込んでしまった。
「まっ、お互い頑張りましょ」
 恵はそう言って車に乗り込んだ。助手席に座っていたシンはフロントガラス越しに金谷に頭を下げた。
「ん……?」
 金谷はシンの顔を見て何か引っ掛る感じがして首を傾げた。