や〜っと!おジャ魔女わかば
第6話「アイドル対決グルメツアー」
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 虹宮のトラベル魔法堂、その日のツアーは『星桜でまだまだお花見ツアー』。人間界では桜も散り、お花見シーズンも終わろうとしていたが、まだ物足りない人を対象に宇宙桜でお花見をやろうと言う趣旨だった。星の海の一部の星にのみあると言われている星桜の木。それは人間界の桜と同じく、この時期にピンクの花を満開に咲かせる。そしてその花は淡く光り、散ると雪の様に溶けて、心地良い香りを楽しませてくれる。この幻想的な空間でツアー客達は魔法堂が用意したお菓子や飲み物を口にしながらカラオケで盛り上がっていた。
 そんなカラオケ大会もいつしか客達の要望で、アイドル添乗員如月みるとのステージに変わっていた。

「本当なら、買ってきただけの食べ物じゃ無くて、魔法堂オリジナルの食べ物でもてなしたいわよね〜」
 停泊中の旅客船ツインメダルシャーク号の操縦室から外の花見の盛り上がり具合を見ていた妖精キキが呟く。
「それなら、心配要りませんわ。次のツアーには、間に合うそうですから…」
 ツアーコーディネーターの名古屋さくらがニッコリ微笑んで言う。
「え、ホンマなん?そりゃええこっちゃ」
 船のメンテをしていたツナギ服の蒼井つくしがさくらの言葉の意図に気がついて嬉しそうに言う。艦長席のマジョミカも心なしか嬉しそうだったが、時計に目をやり、難しそうな表情をする。
「とうに帰還の為の出発時刻を過ぎている…かぐら達は何をしているっ」
「カラオケ、みるとはんの活躍で盛り上がってるみたいやしなぁ〜」

「アンコールっ!アンコールっ!」
 みるとは盛大なアンコールを受けていた。正にお客との一体感にみるとは言葉に出来ない充実感を感じていた。
「かぐらちゃん、時間押してるよね…」
 みるとは小声で同じく添乗員のかぐらに確認する。それに頷いたかぐらを見てみるとは思案する。
“お客さんが、私の歌を求めてくれてる。こんなに嬉しい事はないよ。私はそれに答えたい。マジョミカ、ごめんね”
 みるとは船のコクピットをしばし見つめる。そしてかぐらに向かって手を合わせる。かぐらは頷いてくれた。
「それじゃ、本日のラストソングは、誰もまだ聞いた事の無い即興の歌……みると、歌います。かぐらちゃんの月琴にのせて…」
 マイク片手にかぐらに合図を送るみると。かぐらは驚くが、すぐに理解して右手を天に掲げる。そこに光が収束していき、丸っこいウクレレの様で板面に満月が描かれた楽器…月琴が出現する。かぐらはそれを手にして、いつもの様に心に浮かんだメロディをつまびいていく。そのまったりとした旋律にみるとが自分の想いを歌に乗せて重ねていく。その心地良いハーモニィに客達は聴き入っていた。

 結局、その日のツアーは大幅に解散時間をオーバーしてしまった。でも、参加者は皆、満足そうに帰って行った。みるとも凄く満足そうだ。
「みると……いや、何でもない」
 ツアーも終わり客達がみんな帰った魔法堂でマジョミカがみるとに何かを言おうとして言葉を飲み込んだ。みるとは首を傾げる。

 魔女界の王宮の一室に一人の魔女が呼び出されていた。そこはゆき前女王の部屋だった。
「星の海に人間達を連れ出すツアーを行う魔法堂ですか…」
 その魔女は前女王の話を聞いて、信じられない様に聞き返した。前女王は真剣な瞳で話し始める。
「はい。二つの世界の将来の為の試みの一つで、素晴らしい事だと思います。ただ、この試みに対し疑問視する魔女も少なくありません」
「でしょうね」
 その魔女も少し疑問を感じている様に答える。
「ですから、魔女、人間、平等の立場から評価できる者に、その魔法堂の様子を見て来てもらいたいのです」
「女王様も回りくどい…つまり、私からあの子に、その役目を頼んで欲しい訳ですね」
 この言葉に女王は頷いた。魔女はスケジュール帳を開いて睨めっこしている。
「何とか…なりそうじゃな」
「そうですか。では、お願いします」
 前女王のこの言葉を聞いて魔女は一礼して帰って行った。

 翌週の日曜日。今回の魔法堂のツアーは『星桜でお花見ツアー最終スペシャルヴァージョン』と銘打たれていた。
「どこがスペシャルなん?」
 明人が尋ねる。星の海と人間界を繋ぐスターゲートが開く時、即ち笑う月が出る時間がツアーの出発時刻だった。今はまだお昼過ぎで、かぐら達は忙しいそうにツアーの準備をしていた。明人と風雅はこの時間から魔法堂に来て、かぐら達を眺めていた。
「暇そうネ。暇なら手伝うヨロシ」
 食材の積み込みをしていた蘇雲が二人に声をかけた。
「俺達は客だぞ。まぁ…条件次第では…」
 明人は考えるそぶりを見せて蘇雲に告げるが、蘇雲は軽く言葉で突き放す。
「冗談ヨ、足手まといだからいらないヨ」
 言いながら、蘇雲は行ってしまった。そして、入れ違いに星ワンピース姿のさくらが明人達の背後からやってきた。
「スペシャルが到着しましたわ」
「スペシャル?」
 明人と風雅はさくらの言葉に振り返る。さくらの後には白いシェフのような服装に身を包んだ黒髪の少女、日浦あずさが立っていた。
「何て…美しいシェフなんだ…お名前は?」
 あずさは素早く問い掛けてくる女好きの明人に軽く微笑みかけて、ツインメダルシャークに乗り込んで行く。
「あの子も魔法堂の子なんだ…ここはいったい」
 風雅は驚きの声を漏らす。実はあずさを見て固まっていたらしい。
「今日のツアーは前回の出来合いの食事で無く、あずささんの特製和菓子でおもてなししますわ」
 さくらは二人に説明する。
「それが…スペシャルなのか…。でも彼女…も、子供じゃ…」
 明人は疑い深く尋ねる。まだ自分と同年代の子供であるあずさの腕に疑問を持っているのだ。でも、さくらはあっさり答える。
「あずささんはスペシャリストですから問題ありませんわ」
 あずさは魔女界のパテェシエの称号を持っている魔女見習いだった。