や〜っと!おジャ魔女わかば
第7話「消えたかぐら」
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“にゃにゃにゃにゃ〜ん〜にゃにゃ…”
 猫型の目覚まし時計が朝を告げていた。布団から抜け出した青い髪の少女は、手探りで猫の尻尾を押し、目覚ましを止めて起き上がる。そこは虹宮の魔法堂3階にある月影かぐらの部屋だった。
「明日からゴールデンウイークかぁ〜。マジョミカは今晩から、ツアーやって稼ぎまくるって言ってたなぁ」
 かぐらは起きて、まだ開ききっていない目で髪の毛を束ねながら、今日の予定を口にした。
「今日は学校行って、ツアーの準備して、夜はツアーで……ふぇ〜大忙しだよ〜」
 かぐらは溜息をつきながら、ふらふらと鏡の前へ行く。かぐらの尻尾を二つ付けた様な髪型は、毎日の日課なので目を瞑っていても出来た。でも最後に必ず鏡で髪型の確認をする。それがレディのたしなみだとかぐらは思っていた。
「あれっ?」
 かぐらはのんびりと素っ頓狂な声をあげる。
「あれぇ〜あれぇ〜れれれ〜」
 かぐらは何かを探す様に連発する。その声にかぐらの布団から白と黒のウサギ状の生き物が這い出してくる。かぐらのお供の月妖精のシロとクロだった。
「かぐら…朝から何ィ騒いでるんだ〜」
 クロが不機嫌そうに言う。一方シロは部屋を見渡して首を傾げて言う。
「姫…どこに居るのですか?」
「無いのよ〜」
 かぐらは半泣きの声で言う。しかし声だけで姿が無い。クロが苛立ちながら言う。
「何がねぇんだよ…ってか、かぐら何処だよ」
「だから無いのよ、私がぁ〜」
「姫っ、落ち着いてください。冷静に状況を…」
 取り乱した声をあげるかぐらをシロがなだめる。
「朝起きて…鏡を見たら、私が映っていないのよ〜」
「姫…もしかしてそこにいらっしゃるのですか?」
 シロは鏡の前に視線を向けて言う。そこには誰も居ない。
「かぐら…お前、透明人間になったのかよ」
 クロはおもしろ半分に言う。その隣でシロは青い顔をしている。
「…しまったっ。迂闊だった。私がもっと気を配っていれば」
「どうしたんだよ、シロ、何か心当たりがあるのか?」
 クロはシロに問いただす。そこに蒼井つくしが部屋に入ってきた。
「何してんねん、はよせな、学校に遅刻すんでっ……って、かぐらは?」
 つくしは部屋をキョロキョロ見渡して首を傾げた。
「ここにいるよ〜」
 かぐらの涙声だけ部屋に響いた。

 虹宮魔法堂の朝食。マジョミカと妖精のキキは向いに座っているだろうかぐらが朝食を食べる様子を信じられない感じに見つめていた。そう、そこではトーストがひとりでに持ち上がり、どんどん欠けて消えていくように見えた。
「で…何でかぐらはこんなんなんだ?」
 マジョミカは人間体になって朝食を摂っていた妖精シロこと、白木輝に尋ねる。
「昨晩は…月が出ていなかった。その前の二晩は…つくしと一緒に地下にこもっていましたね、姫は…」
「ああっ、ゲームしてて夜更かしして、そのまま、ウチの部屋で寝たんやったわな」
 つくしは思い出すように言う。
「我等、月の者は…3日間、月の光を浴びないと姿が消えてしまうのです」
 シロはゆっくりと告げる。同じく人間体の黒岩翔の姿でトーストをかじっていたクロは驚いて聞き返す。
「俺、そんな事、初耳だぞっ。後付の設定だろ!」
「私も〜」
 不安そうなかぐらの声もする。
「普段、月で暮らしている分には何の問題も無い…だから知っている月魔女も少ない。かぐら様のように人間界で暮らそうなどと言う月魔女は滅多に居ない」
 シロの説明に一同は納得した。そしてキキが呟く。
「でもね、かぐらは人間界での暮らしも2年目でしょ、今までこういう事無かったの?」
「…全ては私の不注意だ。わかばの家の時はこんな事は無かった。それに…つくしの部屋が地下だと言う事を忘れていた」
 シロは自分を責めている。つくしは申し訳なそうに呟き、尋ねる。
「ウチも無関係や無いのね…でもさ、服も一緒に見えへんわけ?」
「姫が今着ているパジャマは…月の材料を使っているので…同様に見えなくなってしまうのです」
「あっ、この前、ねおんちゃんが月から持って来てくれた服よね」
 シロの答えに、キキが思い出して言う。つくしはニヤッと笑って言う。
「そっか、だったらそう深刻でも無いかもしらんで」
 つくしの言葉の意味がわからず、みんな首を傾げていた。

 かぐら達が通う虹宮北小学校。その通学路には学校へと登っていく長い坂道があり、そこを歩いて登っていく児童達はある物に、もの凄く注目していた。ある子は指差して喜んだり、ある子は驚いて転んだり…。児童達に注目されているのは、頭の大きなピンクのウサギのきぐるみだった。しかも白いシャツと青いズボンをはいて、鞄をさげている。
「ねぇ、何で、こんな格好しなきゃいけないのぉ〜」
 大きなウサギの顔の中からこもった少女の声が出てくる。隣を歩いていたつくしは言う。
「人間界の服なら見えるんやから、これしかないやろ」
「でも、なんできぐるみなのぉ〜」
 きぐるみの中身は姿が消えたかぐらだった。
「肌の露出がある格好やったら、透明になったんがバレるやろ。全タイとコレをどっちが良かったん?」
 全タイとは全身タイツの事らしい。かぐらは言い返せなくて黙り込んでしまう。
「まぁ、夜、月が出るまでの我慢や」
 つくしはかぐらに言い聞かせた。

「しかし、つくしはあんなモノをコレクションしているのか?」
 かぐら達から少し離れたところを歩いていた輝が呟く。それに一緒に通学していた龍見ゆうきが言う。
「あの子は、昔から変な服とか密かに好きだったからね〜」
「へぇ〜、私も今度借りようかな」
 ゆうきの隣を歩いている鈴村ねおんが嬉しそうに言う。
「ねおんもかぐらと一緒なんだよ。気をつけてよね」
 ゆうきはねおんに念を押した。ねおんは訳あっての地球育ちの月魔女の女王の一人だった。つまり、かぐらと同じく月光を浴びないと消えてしまう体だった。
「そーだね」
 ねおんは苦笑いして見せた。