や〜っと!おジャ魔女わかば
第10話「開いて!心の扉」
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 魔女界のマジョトロンの研究所。その一室に魔女見習い二人が作業している。灰色の魔女見習服の少女がコンピューター端末を操作してる。蒼色の魔女見習いはコンピューターの画面を見ながら感心している。
「ほんま、イリスはんにプログラム組んでもらえて助かるわ〜」
 灰色の魔女見習いはイリス・パッカードといい、天才プログラマーでコンピュータソフトメーカーの社長をしていた。
「このデルタタップをもらって、スターポロンを使っているうちにね、何かオミットされている機能があるんじゃ無いかって、あなたを訪ねてみたら…これなのね」
 イリスがやれやれという感じに漏らす。蒼色の魔女見習い蒼井つくしは苦笑いしながら言う。
「いや、さすがイリスはんの目は誤魔化せんなぁ〜。設定したんは良いんやけど、制御プログラムが上手く行かなくて〜」
「まぁ、考え方が無茶よ。ポロンにこんな機能つけるなんて…」
「でも、こう変形すると、おもろいやろ」
 つくしは微笑みながら言う。イリスもそれにつられて笑い出す。笑いながらも手はプログラムを紡いでいた。

 翌日の夕方の虹宮魔法堂。ツアーの準備をしているかぐら達をつくしは集める。ちょうど、魔女界へ行く所の龍見ゆうきの姿もあった。
「つくし、何?」
 ゆうきが尋ねる。つくしは自分のデルタタップを通信モードにした。
「みんな、デルタタップを出して、通信モードにしてや。これから追加データを送るから…」
 そう言いながらつくしはタップを操作している。かぐら達もタップを開いて受信準備をする。
「飛んでけピュー!」
 呪文を受けて、つくしのタップから飛び出した光が6つに分かれ、かぐら、蘇雲、みると、さくら、ゆうき、あずさのタップに飛び込んでいく。
「追加機能って何ですの?」
 さくらが何の変わりも無いタップを見つめながら尋ねる。
「みんなスターポロンを出してみ。このポロンの新しい姿を教えるから」
 そう言って、タップのボタンを押してスターポロンを取り出す。かぐら達も同様にポロンを取り出す。そしてつくしを見つめる。つくしはそれを確認して、スターポロンを両手で握りなおす。スターポロンは先端に星型の水晶、その下に箒星の尻尾のような五角錐のパーツが付いたAパーツと円錐形のBパーツを取っ手部分にあたるコアパーツで接続した形をしている。
「トランスフォーム」
 つくしは徐に呟くと、スターポロンのコアパーツが伸びて、つくしの身長と同じくらいの長さになる。そしてBパーツが展開して、そこから箒が姿を見せる。
「えっ…ポロンが箒になった」
 かぐらがビックリして言う。
「新機能って、箒になる事なの?」
 みるとは意外そう言う。
「でも、箒は魔法の箒があるのでは?」
 さくらが尋ねる。
「そうやな…これはただの箒とちゃうねん。魔法の箒の上位機種。高機動型箒魔女見習い仕様や」
「つくし…まさか、これ…私の為に」
 ゆうきはつくしを見つめて呟く。高機動型箒は、従来の箒に比べて、格段上の性能を発揮する。しかしながら、魔女でもかなりの訓練をつまないと乗りこなす事はできない。しかも魔女見習いは魔力が足りないので扱う事が出来なかった。魔女界の王宮騎士団ロイヤルガードに入団したゆうきは箒部隊に配属された。箒部隊はみな高機動型箒を操っていたのだ。ゆうきは自分が魔女見習いゆえに高機動型箒に乗れない事を少し負い目に感じていたのだ。
「魔女見習いやからって、高機動な箒使えへんなんて嫌や思ったんが、開発の動機や。まぁ実際はあまり意味の無い機能やろと思いながらも、スターポロンに仕込んでおいたんやけど…制御プログラムが上手くいかへんでな…昨日、たまたま、この機能に気付いたプログラミングの天才イリスはんが魔法研究所を訪ねて来たんで、プログラムを組んでもろうたんや。まぁ、ゆうきが使ってくれるやろうと思うたから、イリスはんに無茶言うて、完成させてもらったんやけど…」
 つくしは少し照れながら説明する。ゆうきの箒部隊への配属を聞いてから、一時、中断していたこの機能の開発を再開していたのだった。
「ありがとう。ありがたく使わせてもらうわ」
 ゆうきはそう言って、魔女界の扉をくぐって行く。
「ところで、変形の掛け声はトランス何とかで決まりなのカ?」
 蘇雲が尋ねる。
「あっ、それなら好きなんに変えられるで…」
 と言うつくしの答えを受けて、かぐら達は何か言い掛け声を考え始めた。

 星の海を闇に紛れながら泳ぐ一匹の鮫…の形状をした戦艦があった。シュモクザメの様な頭部を持つそれは、ハンマーヘッドシャーク号。魔女海賊マジョランスの戦艦だった。そのブリッジには操舵士のビーンの一人しかいなかった。そこに仮眠をとっていた副長のマジョレイピアがブリッジに上がってきて尋ねる。
「艦長は?」
「はい、定刻どおりに出て行かれましたけど…何処に行かれたんスか?」
 ビーンは答えた後に呟く様に尋ねる。
「情報交換というやつだよ…一応、マジョローズとはパイプがあるからな…こうやって定期的にあって情報を交換している」
「でも、マジョローズって俺らの最大のライバルでしょ。何もそんなライバルと…」
 ビーンは信じられないと言う感じの態度を見せた。
「こうする事で、お互いにフェアーだと思っているのだろう。しかし、腹の中ではお互いに何を企んでいるのか…」
「でも、うちの艦長は、そんな裏は無いような感じッスけどね〜」
「だから、我々が困ると言うのだ」
 マジョレイピアは少し、怒鳴ってブリッジを出て行った。
「…この副長と艦長の微妙なバランスで、ウチはもっているようなもんだなぁ〜」
 ビーンはやれやれと言う感じに呟いた。

 魔女界王宮騎士団ロイヤルガードの司令部の一室。総司令官で元老院魔女のマジョソードが各軍トップを集めて、会議をしていた。
「ノンエムピ星…魔法が一切使用できない星ですか」
 資料を見ながら、マジョソードは呟く。それに海軍アクアロイガのマジョマリナが言う。
「この星に海賊を誘き出し、一網打尽にします」
「しかし、魔法が使えないのだぞ」
 マジョソードの疑問に空軍エアーロイガのマジョダガーが答える。
「我が部隊の高機動箒には魔法玉で動かせる物もあります。これを使えば制空権は我が方が抑える事ができましょう」
 この星は魔法玉による魔法は唯一使用可能だった。マジョソードは納得した。
「既に餌は撒いてあります。じきに食いついてくるでしょう」
 マジョマリナは不敵に笑う。