や〜っと!おジャ魔女わかば
第11話「行けっファンネ…」
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 メガゲート(MG)社のEXP飛行船のコクピット。
「あのアステロイドベルトの渦に可能な限り近づけば良いんですね」
 金谷こういちはそう言って、飛行船を操作する。その隣に黒谷圭一が数枚の資料を手に立って、モニターの先の小さな隕石群を見つめて言う。
「前回の航海のモニター記録を片っ端から調べたんだけど。あの隕石群に人影らしき物が3つ映っていたんだ」
 黒谷が持っていたのは、その映像をプリントした資料だった。そこには無数に漂う隕石上に人のような影が映っていた。
「でも、あまり近づきすぎると、重力に巻き込まれちゃうでしょ」
 この飛行船のチーフ、草馬皐月が嫌そうな顔をして言う。
「わかってます。一応ツアーで客も乗せている訳だから、影響を受けない程度にしか接近できませんよ」
 金谷は黒谷に確認する。黒谷は重々しく頷いて見せた。この船は大手企業MG社の不思議宇宙旅行ツアーの物で、この日も満員の客を乗せての航海だった。いくら黒谷の願いとあっても、無茶は出来ない。
「ねぇ…何か近づいてこない?…赤い目が…」
 モニターを見ていた皐月が、驚きに震えた声を出す。金谷と黒谷はモニターを見上げる。
「なっ!」
「くっ!!」
 その時、モニターはダークブルーの金属の様な装甲でいっぱいになっていた。続いて激しい衝撃が襲ってくる。コクピットにいた人々は何かに掴まって衝撃を耐えるしかなかった。
「沈む沈むぅぅぅ〜」
 皐月はパニクッていた。

 虹宮トラベル魔法堂の宇宙船、2匹のコバンザメを合体させた形状のツインメダルシャーク号はアステロイドベルトの渦を目指して全速力で航海していた。
「まずは敵を知る事か…」
 船尾の厨房から操縦席に入ってきた日浦あずさは、アステロイドベルトの渦へ向う理由を艦長のマジョミカから聞いて呟いた。
「客を取り返さないといけないヨ」
 医務室から出て来ていた李蘇雲が言う。そう、MG社の参入で魔法堂の客はめっきり減ってしまい、今ではかぐら目当ての常連の五条風雅とその親友の津川明人の二人しか乗客がいない状況だった。その現状を打破する為に、とりあえずMG社の事を調べる事にしたのだった。それで、前回MG社と遭遇したアステロイドベルトを調べる事にしたのだ。
「なんで、普通の人間がこの星の海に関わっているのか気になるからな」
 操縦桿を握っていた蒼井つくしはそう言って、船の速度をさらに上げた。
「誰か、魔法界の関係者がバックについているのか、それとも偶然にこの世界に迷い込んだのか…何か問題が起こらない内に調べる必要があると思いますわ」
 オペレーター席の名古屋さくらが冷静に言う。
「もうすぐ目的地ですよね?」
 客室で接客をしていた添乗員の月影かぐらと如月みるとが操縦室に入ってきて尋ねる。つくしはモニターを指差して言う。
「もうじき、見えてくる……って、何やあれはっ」
 つくしはモニターの先に見える煙の様なものを拡大表示させる。それはMG社のEXP飛行船の変わり果てた姿だった。上部のバルーン部分は破裂していて、ゴンドラ部分は身動き出来ないようだ。
「ちょっと、大変じゃ無いの、助けに行かないと」
 みるとはそれを見て叫んだ。それにマジョミカは即座に叫ぶ。
「良し、あの船の救助に向うぞ。ここで巨大なカリを作っておくのもよかろうて」
「私、薬の準備をしておくネ」
 蘇雲は医務室に戻りながら言う。つくしはツインメダルシャークを飛行船に近づけた。
「つくし、気をつけて、何かいるっ!」
 何かを感じたあずさが叫ぶ。レーダーを見つめていたさくらが素早く告げる。
「真下から接近する何かがありますわ。避けてください」
 さくらの声でつくしは咄嗟に操縦桿を倒す。船が急激なGを伴って移動する。その何かはツインメダルシャークをかすめて行く。その震動にかぐら達は尻餅をつく。あずさが叫ぶ。
「今度はどっちから来る?」
 レーダーを操作するさくらは困ったように言う。
「それが、レーダーで完全にフォローできませんの」
「なんや知らへんけど、そいつはステルス機能を搭載しているんや」
 つくしの叫びと同時に船に震動が走る。

「次は右斜め上からですわ!」
 殆ど役に立たないレーダー画面を見ながらさくらが叫ぶ。それに素早く反応してつくしが操縦桿を動かす。そして船が動く。ツインメダルシャークはギリギリで謎の物体の直撃をかわすが、かすって傷だらけだった。
「さくらさんのおかげで直撃だけは避けられているけど…このままでは」
 あずさが心配そうに言う。
「でも、さくらはん、あの物体はレーダーで見えへんのに、これだけ正確に…」
 つくしはさくらの情報の正確さに驚きを隠せない。みるとが呟く。
「たぶん、さくら…勘で言ってるよ。こういう時のさくらの勘は凄いんだよね」
「ふふふっ」
 さくらはみるとの言葉に微笑んで返した。
「しかし、あずさの言うとおり、このままではいずれ、あの物体にこちらが撃沈させられてしまう。あの飛行船も助けなくてはいけないのに…」
 マジョミカが焦りながら言う。
「あの…一箇所だけ、安全な場所があるんだけど」
 何かを思いついたかぐらがあまり自信が無いのか控えめに言う。

 ツインメダルシャークは高速で突っ込んできた謎の物体の真下に回りこんだ。
「メダルキューバン起動!」
 つくしは叫んでスイッチを押す。ツインメダルシャークの頭の部分の楕円の小判型の吸盤が動き出し謎の物体に吸い付いた。
「なるほどっ!、相手にくっついちゃえば、体当たりで攻撃される事も無い訳ね。かぐらちゃんナイス!」
 みるとがかぐらに言う。かぐらは照れながら頭をかいてみる。しかしすぐに激震に襲われ立っていられなくなる。
「私達を振り払おうとしているわ」
 あずさが必死にバランスを取りながら言う。
「この謎の物体…エイの形をした船みたいですわね」
 さくらが相手の船を見ながらのんびりと呟く。
  「いったい、何なんじゃっ!」
 マジョミカの焦りが船内に広がる。その間も、エイの形の船はツインメダルシャークを振り落とそうと必死に動き回っている。
「マジョミカ、分離しよっ!」
 つくしはマジョミカに叫んだ。