や〜っと!おジャ魔女わかば
第13話「星のかなたへ」
かぐら編1/6
 カーテンの隙間から差し込んだ朝日に月影かぐらは眠たそうに目を擦り、ベットから出てくる。ずっと考え事をしていて、ほとんど眠れなかったようだ。
「姫…大丈夫ですか?」
 白いウサギ型の月妖精のシロが心配そうに尋ねる。
「一晩中…わかばの事を考えていたのか?」
 かぐらのもう一匹の妖精クロが言う。かぐらは机の前に立ち、そこに置いてあった緑の宝石の付いたジュエリーポロンを手に取る。それは手の平に収まるくらいの大きさだった。そして呟く。
「昨日…あの星に、わかばちゃんは居たんだよ。私、何も知らなかった、何も出来なかった……自分が情けないよ」
「姫のせいではございません」
 シロが慰めるように言うが、今のかぐらにはあまり効果が無いみたいだった。
「私ね…月の女王選にわかばちゃんを巻き込んで以来、ずっと、わかばちゃんに迷惑をかけっ放しなんだよ。だから、今…今こそ、わかばちゃんの力になってあげたい。なのに…私は…」
 かぐらは泣き崩れてしまう。
「泣くな、かぐら。とりあえず、学校行け、遅刻するぞ。わかばの事は後で考えろ」
 クロはそう言って、かぐらを立たせた。

 かぐらはすっきりしない気持ちを抱えたまま登校した。それは周りから見ると元気が無くて落ち込んでいるようで心配させた。
「月影さん…あの…何ていうか、昨日、大丈夫だった?」
 学校で五条風雅が心配そうにかぐらに話しかけてくる。
「うん。心配かけてごめんなさい」
 かぐらの力ない返事が風雅をますます心配にさせる。
「月影さん、何があったか知らないけど……あの、その、立ち止まっているのは、月影さんらしく無いって言うか……俺は、いつも突っ走っている月影さんが……すっ…」
 風雅の言葉はだんだん小さくなっていく。
「私らしくないって、動いていないと私じゃ無いって事なのっ!」
 かぐらは突然、声をあげた。そしてそれに気付いて、すぐに俯いて謝る。
「ごめん…風雅君。どうかしているね…私」
「えっ…いや、俺こそ、無責任な事言ってごめん」
 風雅はビックリして言う。
「最近、上手くいってなかったから、失敗する事を恐れていたみたいだね。確かに突っ走っている方が、私って感じかも。でも、人間、そればかりじゃ疲れちゃうからね…」
「そうだよ、月影さん。だから、俺、月影さんにとっての休める場所でありたいって……思うんだ」
「わかばちゃんも、どこかで休んでるのかな?」
 風雅の会心の告白も、わかばの事で頭がいっぱいなかぐらにスルーされてしまう。
「風雅君、ありがとう。私、もう少し突っ走ってみる。今はその時だと思うから」
 かぐらはそう言うと、走って行ってしまった。風雅はガックリとして、それを見送った。
「風雅…まだまだだね」
 離れて見学していた風雅の親友の男子、津川明人が呟く。

 その晩。かぐらは魔法堂の旅客船ツインメダルシャーク号に乗り込もうとして、マジョミカに止められていた。
「一人で、わかばを捜しに行くなんて無理じゃ」
「だって、ツアーしながらじゃ、やっぱり制限があるでしょ」
 確かに客優先のツアーでは、なかなか手がかりが掴めなかった。
「それじゃ、操縦はどうするつもりじゃ」
「今日はクロにやってもらうけど、明日までに覚えるから、だいじょーぶ」
 マジョミカの言い分に巧みに切り返すかぐら。
「お前、毎晩行くつもりか…燃料はどうするんじゃ」
「マジョミカはわかばちゃんの事、心配じゃ無いの?」
「ううっ」
 マジョミカは言葉を失った。マジョミカはかぐらを止める事が出来なかった。船に乗り込んでいくかぐらの背中を見ながらマジョミカは呟いた。
「気持ちは同じじゃからな……わし等はサポートしてやるしか無いのか」
 しばらくしてクロの操縦でツインメダルシャークは星の海へ出港した。

 クロが操縦し、それを必死に覚えようとするかぐら。シロは情報を整理しながら呟く。
「龍見ゆうき、そして魔女海賊マジョローズの話を合わせて考えると、わかばは今、魔女海賊のマジョランスと行動を共にしている事になります。いったい、何を考えているのやら…」
「それって、海賊に囚われているって事?」
「いえ、マジョローズははっきりとは言っていませんが、そんな感じでは無いようです」
 シロが補足した。
「わかばの奴、人見知りだけど、いつの間にか、グループの隅っこに入ってしまう感じだからな。きっと、海賊団の連中に可愛がられているんじゃ無いかな」
「それって、連れ戻すのは、わかばちゃんの意思に反するって事なの?…わかばちゃんは私達の所へ帰って来たく無いと言うの?」
 かぐらは不安そうに尋ねる。
「俺の推測だから、そんな事は知らんが…わかばはそんな奴じゃ無いと思うが…」
「しかし、あれだけの事があった後だからな…どっちにしろ会ってみないとわからないでしょう」
 クロとシロの言葉にかぐらは決意する。
「そうだね。まずは見つけて、会う。そこからだね」
 そう言いかぐらはモニターに映るの薄らオーロラのかかった様な宇宙を見つめた。捜しているのはシュモクザメの形のマジョランスの宇宙船だった。そこに捜している親友が乗っているから…。

 翌日。結局、徹夜してしまったかぐらは学校の授業中、居眠りをしていた。
「月影…頭がコックリしてるぞ」
 黒板に数式を書いていた担任の香川先生がかぐらに注意する。
「ほぇ?」
 かぐらは素っ頓狂な返事をしてしまう。その口には涎が…。香川先生は怒るのを通り越して呆れてしまった。

 そしてその晩。
「わりぃ…俺パス。もう眠くて立ってられない」
 クロがへなへなと座り込んで寝てしまう。彼も昨晩は徹夜だった。シロも目の下にクマを作りながら、かぐらに同行する。
「姫はとめてもやめてくれませんからね」
 と言って、ふらふらと船に乗り込んでいく。
「ごめんねシロ」
 かぐらはそう言って、ツインメダルシャークの操縦桿を握る。船体の頭の部分には初心者マークが貼られていた。