おジャ魔女ひなた91
第2話「信じる事が…」
2/4
「何で、ここがお店になっていると思ってんのっ」
 キュキュはひなたの耳元で怒鳴った。驚いたひなたは耳を押えて、キュキュを手で叩き落した。
「鼓膜が破れたら、どーすんのよっ」
「キュキュ〜、あんまりチャカさないでね」
 マジョミィナは床でのびているキュキュにのほほんっと声をかける。
「魔法玉は魔女界の通貨にもなっていて、それを手に入れるには、人間界で商売をして、得たお金、若しくは物で無いと交換できない。この交換には物に込められた思いが大きいほど価値が上がってくると言うわけ」
 マジョミィナの説明し、さらにゆきが付け加える。
「魔法はやはり使わないと上達しません。だから魔女見習いの修行はまず、いかにして魔法玉を確保するかに始まります」
「つまり、あんたはこの店を手伝わないといけない訳よ」
 起き上がってきたキュキュが告げる。
「ええっ、そんなぁ」
 ひなたは口答えしながら店内を見渡した。それを見つめつつ、マジョミィナは言う。
「このお店は魔法の画材で描いた魔力を込めた絵を販売しているの。もちろん魔法の画材の販売もしているわ」
「魔力を込めた絵?」
「まぁ、おまじないをかけてあると考えれば話が早いと思うわ」
 ひなたの疑問にゆきが答える。
「絵なら…ちょっと得意だから、何とかなるかも…」
「あら〜ステキだわ」
 ひなたに絵心があるとわかるとマジョミィナは喜んでいた。
「後は、試験と禁断魔法の話くらいですね。試験は元試験官魔女のマジョミィナが居るから傾向と対策はバッチリとして、禁断魔法はしっかり憶えて欲しいの」
 言いながら、ゆきの口調が重く慎重な物になっていく。それを感じたひなたも呟く。
「…禁断魔法?」
 しかし、話は赤ちゃんの鳴き声に中断された。
「ナスカが起きたようじゃ、二人とも、ナスカを紹介するから来ておくれ」
 ゆきとひなたはマジョミィナに言われ続いて階段を昇って行く。

 2階の一室には、小型のライフウッドを加工して作ったベットに薄紫色の髪の赤ちゃんが寝かされていた。赤ちゃんは首から小さな水晶玉をぶら下げていた。マジョミィナは説明する。
「魔女はの…ウィッチーローズと言う薔薇の花から生まれる。そして魔女の赤ちゃんは生まれて一年間、育ての母の魔女が育てる事になっているんよ。私はちょうど、今、このナスカちゃんという赤ちゃんを育てている」
「妖精と魔女ガエルでは、なかなか不便な事もあるので、ナスカの世話も手伝ってもらうからね」
 キュキュはひなたにはっきりと告げた。
「私、赤ちゃんなんて…」
「大丈夫よ、私も付いてるし、愛情を持って接してあげれば大丈夫」
 すかさずゆきはひなたを励ます。そしてひなたの背中を押す。
「さぁ」
 ひなたは恐る恐る、泣きじゃくっているナスカを抱き上げた。
「ナスカちゃん…私、ひなたって言うの…よろしくね」
 しかしナスカは激しく泣きジタバタ暴れる。
「そんなに動いちゃ、危ないよ。私は敵じゃに無いよ。あなたの友達になりたいの」
 ひなたは必死に訴えかける。そんなひなたにゆきは告げる。
「友達じゃないわ、母親よ」
「……私が母親?」
「それくらいの覚悟が無いとダメってことよ」
「できるかな…私に」
「できるかなじゃ無い、やるのよ。そしてそれを認めるのは…その子なのだから…」
 ゆきの言葉を理解し、ひなたは頷いた。そこにキュキュが哺乳瓶を抱えて来てひなたに手渡した。
「秘密兵器よ」
「えっ」
 ひなたが哺乳瓶を手にポカンとしていると…。
「だぁ〜」
 ナスカは嬉しそうにひなたに抱きついてきた。さっきまで嫌がっていたのが嘘のようだ。
「相変わらず、食べ物を目にすると、良くなつくわね」
「今日はこれくらいにしてあげるわ」
 マジョミィナとキュキュは口々に呟いた。ゆきは少し呆れていた。ひなたはミルクを飲む愛らしいナスカの表情に見とれていた。

 ひなたは魔法堂を後にして、妹のひかげが入院している病院にやって来ていた。
「私も正体がばれちゃうと呪いでカエルになっちゃうから言えないけど…なんだかスゴイ事になってるのよ……ねぇ、いい加減起きて、返事をちょうだいよ…」
 ひなたはいつものようにひかげに話しかけていたが、この日は涙がこぼれてきた。いろんな事があった反動だったのだろうか…ふと、ポケットに入れた魔女見習いタップを思い出して、取り出して見つめた。涙がタップに落ちる。
「……」
 ひなたの指がタップの中央のボタンにかかる。その瞬間、背後から声をかけられた。
「さっき聞いたでしょ、病気を治す事は禁じられている魔法よ。それに例え治ったとしてもその反動があなたに帰ってくるのよ…それが何を引き起こすかわかりません」
「ゆきさん」
 ひなたは振り返って呟く。
「あなたが、魔女になる事を簡単に受け入れた事が気になって…ついてきたの。ごめんなさい」
「こんな事しても…誰も喜ばないのはわかっていた。でも…でも…」
 ひなたは糸が切れたように泣き崩れる。ゆきはそんなひなたを優しく抱きしめてあげた。