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その日は土曜日で学校は半日。ひなたはいつもの日課となっていた妹の病院に顔を見せた後、帰宅した。するとマンションの入口で大荷物を抱えた少女の後ろ姿を見て、驚きの声を上げた。
「ななみ?なにそれ…」
声をかけられたななみは嬉しそうに振り返り、照れながら言った。
「ひにぁた〜しばらく泊めてぇ〜」
ななみがひなたを“ひにぁた”と呼ぶ時は決まってお願い事がある時だった。ひなたは苦笑いしながら、五階のひなたが世話になっている叔母の家に連れていった。
「ななみちゃんよーこそ」
ひなたの叔母の陽子はななみが大好きで嬉しそうに迎え入れてくれた。何でも漫画のモデルにしやすいので重宝するそうだ。ひなたはそんな叔母にななみが家出して来たを言いそびれてしまう。
二人はひなたの部屋に行く。ジュースを飲んで、落ち着いた所で、ひなたはななみに尋ねる。
「なんでいきなり家出なの」
家出してきたななみは落ち着きをはらって答えた。
「たぶんね、子供が家出するのは、本当は親にかまって欲しいからなんだよ」
まるで悟りきったようなななみにひなたは複雑な表情を見せる。ななみはそんなひなたの顔を見つめながら続けた。
「私、今まで心の何処かで諦めてた私の本当の望みを叶えたくなったの…ひなたのおかげよ……でもね、こんな私が迷惑だったら、追い出してくれてもかまわないよ」
二人はお互いの家庭環境を考えていた。突然の事故で両親を失ったひなたと、仕事優先でほとんどほったらかしで育ったななみ。
「ななみ、気遣ってくれてありがと。でも、今は平気だから。それに私達、親友だしね」
ひなたの言葉にななみは嬉しそうに微笑んだ。
「問題はいずみさんなのよ。彼女は優秀だから…すぐにここを突き止めて…」
ななみの話は、突然の電話のベルに中断された。二人はビクッとして、部屋の扉の向こうの電話の方を向いた。
「はい。梅崎です」
電話に出たのは叔母だった。
「ええ、来てるわよ。はぁ…そんなセッカチな事言わないでよ〜いずみん♪」
電話の相手はやはりいずみだった。陽子は彼女とも仲が良いらしい。ひなたとななみは事の成行を見つめていた。
「まぁ、こーいう時は一晩ゆっくり考えたら、きっと丸く収まるわよ、ねっ」
陽子はそう言って、受話器の向こうで何か必死に訴えているいずみをほって受話器を切ってしまった。
「ひなたの叔母様は全てお見通しなのね」
ななみの感心にひなたは複雑そうに頷く。その二人の居た部屋に陽子は入って来て言う。
「聞いてたでしょ、そー言う事だから、今晩は寝かさないからね」
陽子はたくさんのゲームを抱えていた。それに喜ぶななみの隣でひなたはがっくり肩を落として呆れていた。
トランプ、テレビゲーム…そしてボードゲーム。ひなたは全てで負けまくり、すっかり落ち込んでいた。既に明け方でカーテンの隙間がうっすらと明るい。ひなたの叔母の陽子は遊ぶだけ遊んで力尽き満足そうに寝ていた。ひなたもそろそろ寝ようと思ったが…、陽子と同じく力の限り遊んで倒れる様に寝ていたななみが起き上がる。
「ひなた、早くここから離れないと、朝になったら、いずみさんが私を連れ戻しに来るわ」
ななみの冗談でなく、仕事熱心ないずみの事を考えるとひなたにも理解できた。
「じゃ、行くよ」
ひなたはななみに差し出された手を取り、なすがままに家を出た。
午前8時を回った頃、いずみはひなたの家にやって来た。
「陽子さん、お嬢様をお迎えに来ました」
玄関先でいずみの前に立つ眠たそうな陽子。
「明け方までは居たんだけどね…人生ゲームで私が大富豪になったあたり…」
その陽子の言葉を聞くなりいずみは一礼して飛び出して行った。
「相変わらずセッカチだねぇ〜……寝よっと」
陽子は戸締まりして再び寝入って行く。
ひなたはななみに連れられて、町内を山手の方へ向っていた。それは魔法堂のある方角でもあった。
「ねぇ、ななみ、どーすんの?」
「とにかく、逃げてみる。まだ、連れ戻されたくないの」
ひなたは溜息をつく。
「どこまで行くの?」
「う〜ん、歩きだから、あまり遠くへは行けないのが難点ね」
そんな会話の中、ひなたは何か思いついたが、考え込む。
“本当にそれで良いのかな”
「ひなた、どーかしたの?」
考え込んでいたひなたは、そのななみの心配そうな顔にひなたは結論を出す。
“私はななみの味方だもんね”
「ななみ、ちょっと待ってて、足を確保してくるよ」
ひなたはそう言って、走り出した。その先には古びた洋館…魔法堂があった。
「マジョミィナ、おはよう!」
ひなたは店に飛び込んで、挨拶もそこそこにマジョミィナを探す。ちょうど朝食中だったらしく、不機嫌そうに妖精のキュキュが出てきた。
「こんな朝から何よ」
「自転車無いかな…」
キュキュに続いて、パレットの乗って飛んできた魔女ガエルのマジョミィナが言う。
「中庭の納屋に自転車があるから、使って良いよ」
「ありがとっ」
それを聞くなりひなたは中庭の扉の方へ走って行ってしまった。取り残されたキュキュとマジョミィナは顔を見合わせる。
「台風みたいな子ね」
「そうね…ふふ」
しばらくして、キュキュは思い出したように呟く。
「あれって、魔女界の自転車よね…」
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